最終話 人の縁に、ありがとう
ここまでお付き合いくださった方に、感謝をば。
数年後のエピソードです。
幕間劇、過去編を他でまとめることになったので、少し飛んでいます。
夜空に花火が上がっている。
公園のブランコに座って、新太はそれを眺めていた。
雨が上がり公園は、草の匂いがした。
「よっ」
片手に缶ビールの詰まった袋をぶら下げて、佳代子が公園の中に入ってくる。
その隣には、恵一が並んでいる。
缶ビールを一本投げられて、新太はそれを胸元で受け取った。
もう新太も、ビールが飲める歳なのだ。
「ナイスコントロール」
「けど、投げるなよ佳代子ちゃん」
恵一は苦笑する。
「いいじゃない、近いんだし。他の連中は?」
「お菓子買いに行くって言ってましたよ」
「じゃあ、俺達が最後か」
「じゃ、先に一杯やってようじゃない」
佳代子がそう言って、袋からビールの缶を取り出す。
恵一もビールの缶を一本取り出して、プルタブを開けた。
「乾杯」
呟いて、佳代子は缶を掲げた。
新太達も、それに習う。
花火が空中ではじける音がした。
「しかし私達って、なんなんだろうね」
ビールを一口飲んで、佳代子が言う。
「ん?」
「生まれた場所も、歳も、住んでいる場所も違う。ゲームがなければ、確実に遊んでなかったでしょ。一緒にいるのが不思議だよね」
「まあ、ネットを通じて知り合うとそうなるわな」
「俺は、佳代子さんや恵一さんと会えて良かったと思ってますよ。ゲームをやって良かったと思う点です」
「新太、君はいい子だ。けど、ゲームやってた時間に対しては、何やってんだろうって思う時があるわ」
佳代子は、呆れたようにいう。ゲームにはまっていた過去の自分に、苦い思いがあるのかもしれない。
「俺は悔いはないですよ。色々な人と出会って、色々な人と話せた。それは、オフラインゲームでは出来ないことです」
「夢もあるんじゃないかなと俺は思うんだよ」
恵一は言う。
「俺達は様々なロールプレイングゲームを遊んで大人になった。冒険する主人公達を眺めて憧れていた。オンラインゲームは自分がその主人公になれるんだからな」
「オンラインゲームのストーリーは、プレイヤーとまったく関わりなく進むけどね」
佳代子はビールを飲んで、意地悪く笑う。
「そういうのを揚げ足取りって言うんだ。まあ、俺も後悔してないよ。そういう時間があっても良いと思う」
「私は……」
佳代子は、ふと手に持つビールの缶に視線を落とした。
「後悔してます」
「この話の流れでそう言っちゃうのがお前だよな」
「だってさ。イグドラシルに時間を費やしてなかったら、私は今頃……って思っちゃうんだよね」
「ゲームを理由に勉強しなかった奴は、どの道他のことやってると思うがな」
「恵一さんは老成的だなあ」
「佳代子ちゃんは子供時代の万能感を引きずりすぎ」
「俺は、佳代子さんがいてくれて良かったと思ってますよ」
新太の言葉に、佳代子と恵一は口を閉じた。
「佳代子さんが拾ってくれたおかげで、色んな人と会えたし、色んな事件に触れることが出来た」
「ヤツハとも会えたしな」
佳代子は微笑む。
新太は、恥じ入るしかない。
「ありがとう、佳代子さん」
「うん。そう言われると、私もあの世界に居て良かったと思う」
佳代子は、ビールを口に含んだ。
そういえば、新太のイグドラシルで最初に出会った二人は、佳代子と恵一なのだ。
それが懐かしかった。
数年前の、ゲームを始めたばかりの自分を思い出す。
その前途には、様々な出会いや、様々な冒険が輝いていた。
「今日は酒が美味しいな」
佳代子が言う。
賑やかな話し声が近付いてきた。
どうやらお菓子が到着しそうだ。
花火はまだまだ続く。
それを皆で眺める時間は、たっぷり残されていそうだった。
最後のあとがきは、ちょっと色々書いてみようと思います。
この作品は、結構変更点がありました。
前書きなんかで結構書いていたのですが、書いていない部分を書いていこうと思います。
この作品は、大元はなろうで投稿した後に、数年前にファンタジア文庫に投稿した作品でした。
投稿ページを久々に開いたら、散々な結果だったんだなと苦笑してしまいました。
シーンがあちこちに追加されていますが、一番加筆したのが対人戦のシーンで、一番指が止まったのも対人戦のシーンです。
シンタが今以上に空気で主人公なにそれって感じでした。
変更前の話ではイグドラシルの接続人数が八十万人。
PC版無し、日本国内だけで八十万ってどんだけだ……。
凄い設定だ、と振り返ってみて遠い目をするわけです。
けど、それだけ接続人数が多かったら、終盤のアリサちゃんの夢も結構現実味が出てくる気がします。
あと、あるキャラクターの髪の毛の色が変更となりました。
それとレルの名前は最初はレグザでした。
……液晶テレビ?
歌世の尻尾の描写。
椅子をぺたんぺたんって叩いて苛立ちを表現している辺り、本当の猫みたいです。
当時猫を飼い始めてテンション高くなっていたのが伺えます。
耳の動きを何個か追加しましたが、それは猫っぽさよりも、歌世の感情をダイレクトに伝えるための小道具になっています。
少なくともうちの猫は、耳で感情表現はしません。
後衛の活躍について。
目立ってるのは前衛の方々です。
後衛が強すぎると、敵が一瞬で蒸発しちゃうのが難点なんでしょうね。
後衛の凄さをわかりやすく表現しようとすると、それはどうしても火力になってしまいますから。
長い作品を読んでくださってありがとうございました。
扇動者と歌世とリヴィアの話がもやもやしたまま頭の片隅にあるのですが、後日それを追記するかもしれません。
また、幕間劇と過去編を、後々再構成してアップロードすることになるかもしれません。
また機会があれば、お付き合いください。




