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囚われの姫3 VSアドラスの黒竜

 パーティーはついに、地下六階をクリアした。

 そして、階段から地下七階を眺めて、シュバルツは苦い顔をした。

 焼け爛れていた腕は、既に治癒法術で再生している。

「アドラスの黒竜だ」

 シンタは、その呟きに驚いた。

 シュバルツの視線の先を、シンタも追う。

 尻尾だけでも成人の倍の大きさを持つ竜が、寝息を立てていた。黒い鱗が松明に照らされて輝いている。

 アドラスの黒竜といえば、このゲームでもトップクラスの強さを誇る敵だ。

「五階のボスを聞いた時は、ラッキーって思ったんだけれどな。事前の情報とあわせて考えると、七階だと絶対にこいつが出てくるわけか」

 シュバルツは苦笑交じりに言うと、地下六階で待つ仲間達の元に向かった。

 シンタも、その後を追う。

 なんとなく、今までの最高到達階が七階ということに納得がいってしまったシンタだった。

 地下六階で、十二人が相談会議を繰り広げることになった。

 もっとも、黒竜を見たことがないという人間のほうが多かったので、討伐経験者であるシュバルツが解説をすることになった。

「まず、奴はドラゴン族特有のファイアブレスを吐く。触れたら死ぬ。そして尻尾を振り回す。触れたら死ぬ。睨まれると石化する。そして尻尾で叩かれて死ぬ」

「それ、攻略法がないって言うんじゃ」

 烈火の騎士が、皆が薄々感じながらも言い出せなかったことを口にした。

「まあ、普通に考えればそうだな」

 シュバルツは穏やかな口調でそれに応じた。

「ただ、うちには最強の魔法少女ちゃんがいる」

 いきなり話題を振られて、ヤツハは戸惑うような表情になる。

「ヤツハがファイアブレスを抑え込んで、聖職者は石化解除に専念する。前衛は尻尾だけはもろに喰らわないように気をつける。それで粘るしかないな」

「簡単に言ってくれるね」

 ヤツハは苦笑する。

「けど、スリルがあって楽しいかもね」

「だろう?」

 シュバルツが言うと、皆笑った。

 絶望的な状況だというのに、このパーティーにはピンチを楽しむだけの精神的な強さがあった。

「それじゃ、この階じゃ俺も、石化解除に回る。前衛組は任せて大丈夫か?」

 シュバルツが、シンタと烈火の騎士と、もう一人の前衛に問う。

「骨は拾ってくれよな」

 と、烈火の騎士が言う。

 前衛は、一番死亡率が高いポジションだ。それを、いとも容易く烈火の騎士は受け止めた。

 シンタは、幼馴染を見直す思いだった。

 そして、前衛を先頭に、パーティーは歩き始める。

 黒竜は眠たげに目を開き、鬱陶しい来客に対して吼えて威嚇した。

 壁が咆哮に揺れる。それに弾かれたように、烈火の騎士は走り出す。

 シンタも、その後を追った。

 その体がとたんに、動かなくなった。

 石化の眼に睨まれたのだと、気がついた時にはまた走れるようになっていた。

 シュバルツが、石化解除の法術をかけてくれたのだろう。

 なんて素早いフォローなのだろう。シュバルツはなんでもできるのにと、嘆くヤツハの気持ちがわかるシンタだった。

 黒竜がゆっくりと口を開き、地獄の業火を吐き出す。

 ヤツハの放つ氷の嵐が、それとぶつかりあった。

 リューイの矢が的確に黒竜の瞳を射抜き、その口が閉じる。

 その喉を、烈火の騎士の刃が切り裂いた。

「行けるぞ!」

 そう叫んだ瞬間、烈火の騎士の体は真っ二つになって地面に落ちていた。

 凶悪な尻尾が、彼の体を真っ二つにしたのだ。

 こうして、前衛は残り二人になる。

 シンタはその尾に注意を払いながら、黒竜と対峙する。

 馬鹿野郎、とシンタは叫びたかった。無茶をしなければ、一緒に最下層まで行けたかもしれないのに。

 レルの放つ氷柱が、リューイの矢が、黒竜の生命力を削っていく。

 ファイアブレスを多用している竜は、尻尾の動きが鈍かった。

 シンタはそれを避けることに、神経を集中していた。

 石化の眼でたびたびパーティーは崩れかけたが、シュバルツの適切な法術がそのたび危機を救った。

 このまま押し通せるかと思った時に、事件は起こった。

 シュバルツが、石化にかかったのだ。

 スイも他の聖職者も前を見るのに必死で、それに気がつかない。

「シュバルツが石化してる!」

 叫んだヤツハが、次に石化にかかる。スイは慌てて解除の法術をかけるが、時既に遅かった。ファイアブレスを抑えていた、氷の風がやんでしまった。

 封を解かれたファイアブレスは、全てを焼き尽くそうとシンタ達に襲い掛かる。

 シンタは咄嗟に、盾を体の前に突き出していた。

 それで身を守れると思ったわけではない。最後の足掻きをしようと考えたのだ。

 数秒後には、シンタは燃えカスとなって地面に転がっているだろう。

 しかし、その時はやって来なかった。

 シンタは目の前で起こった光景を唖然としながら見ていた。

 シンタの盾が、炎を押し返している。白銀の輝きを放つそれは、まるで神器だった。

 地獄の業火は、黒竜の皮膚を焼き、ダメージを与えたようだった。

 そうしてシンタがファイアブレスを押さえ込んだことによって、自由になった人間が現れた。

 ヤツハだ。

 彼女は杖を天に掲げ、長々とした詠唱を終えると、地面に向けて杖を振り下ろした。

 その瞬間に、巨大な氷柱が空中に出現し、地面と黒竜を縫い付けた。

 戦法が大きく変わっていた。

 黒竜のファイアブレスは、シンタの盾が跳ね返す。

 ヤツハは、攻撃魔法を唱えることに集中する。

 それまで蓄積したダメージに加え、それが決定打となったのだろう。

 黒竜の姿が消えていく。

 喝采が沸いた。

 地下七階の番人を、シンタ達は見事に倒して見せたのだ。


 烈火の騎士の上半身を、シンタ達は囲んでいた。

 彼が表情に浮かべているのは、笑顔だった。

「すまんな。俺の分まで、最下層を見てきてくれよ」

「一生懸命頑張ったね」

 ヤツハが残念そうに言う。

「お調子者め」

 スイの言葉は手厳しい。しかし、彼はその後にこう付け加えた。

「お前みたいなお調子者は嫌いじゃないから、また一緒に遊ぼうぜ」

 烈火の騎士は笑顔になり、頷いた。

「最下層まで行けなかったら、許さないからな」

 勝手なことを言い、烈火の騎士は消えて行った。町に戻ったのだろう。

 これで、シンタ達は地下七階までを制覇した。

 残る階は、あと二つだ。

「しかし、その盾、どうしたんだ?」

 シュバルツが、シンタの盾を覗き込んで、訝しげに言う。

「私も気になってたの。どう見ても、ファイアブレスを押し返してたよね」

 ヤツハも言う。

 それはシンタも、前々から気になっていたことだった。

「実は、魔法を弾き返したこともあるんだ。この盾って、相当レアなのかな」

「そんな装備、聞いたこともないよ」

 リューイが戸惑うように言う。

 シュバルツが、いつになく真剣な表情で口を開いた。

「もしかして、それをくれたのって、エルフ耳の女の子か?」

 シュバルツの問いに、シンタは頷く。

「そうか……」

 シュバルツはしばし考え込んでいたが、そのうち笑顔の仮面をかぶった。

「まあ、残る階はあと二つだ。心強い盾があるなら、最下層も近付くってもんだ。魔王の魔法だって跳ね返せるだろうしな」

 魔王という言葉に、皆の気持ちが奮い立つようだった。

 そこまで辿り着いたメンバーは、まだこのゲーム上にはいないのだ。

 十一人は、再び進み始める。

 地下八階には、地下四階の壁画の続きが描かれていた。

 娘を追った母親が、悪魔に組み伏され、磔にされ、殺される。

 それは、見ていて気持ちの良い絵ではなかった。

「僕達六人だけじゃ、ここまで来れなかったですよね」

 リューイが、呟くように言う。

「凄いことだと思いません? 寄せ集めのメンバーで、ついにここまで来た」

「ダンジョンを制覇したら、記念写真を撮ろうぜ。烈火の騎士も、右上に丸い写真を貼り付けてさ」

「卒業式に病欠した生徒じゃないんだから」

 笑い声が周囲を包む。

 しかし、リューイの言ったことは事実だった。

 六人だけでは、ここまで辿り着けなかっただろう。

 最下層をクリアしたらまた遊ぼう、お互いの連絡先を交換しようと、仲間達は和気藹々と語り合っている。

 たった数時間の交流で、赤の他人が、仲間へと変わっていた。

 シュバルツとヤツハは、それを眩しそうに眺めている。

 その穏やかな空気は、最後の階段を前にして、潮が引くように消えていった。

「正直、どんな敵が出てくるかは俺もわからない」

 シュバルツが言う。

「けれども、俺達には頼りになる前衛が二人、魔術師が三人、支援が三人に、射手も二人いる」

 シュバルツの言葉に、他の十人が頷いた。

「勝とうぜ」

 シュバルツの言葉と共に、シンタ達は最下層へ向かって歩き始めた。

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