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泥の中の栄光4 泥の中の栄光

 木曜日、歌世はイグドラシルの世界にログインした。

 いつもの、町外れである。

「リヴィアが言うには、白騎士の対策が決まったって」

 その一言に、場に居たシュバルツとゴルトスは頬を緩めた。

「残念そうだな」

 ゴルトスが、歌世の表情を見ていう。

 歌世は、頭上の猫耳を伏せさせた。

「……なんか、勝ったって気がしなくてさ」

「チーターに正攻法でやりあう必要もないだろう」

 ゴルトスの言葉も尤もだった。

 歌世は、話を変えることにした。

「で、今度また飲み会やりましょう、だってさ」

 ゴルトスが苦笑する。

「また暴れられるのは勘弁して欲しいぜ」

「あっちの人、絡み酒なんですか?」

「重度のね」

 苦笑いして歌世は言う。

 そこでふと気がついて、歌世は周囲を見回す。臀部の尻尾が、所在なさげに左右に揺れる。

「ちびっこ二人にも知らせようかと思ってたんだけど、いないね」

「ああ、シンタ君が装備を揃えたいって言い出しましてね。ヤツハが首都に連れて行ってるんですよ」

「ほー。まあ、良い刺激になったなら何よりだ。デートかね?」

 歌世は、悪戯っぽくシュバルツに視線を向ける。

「どうでしょう。歳が近いみたいだから、仲良くやってくれると良いですけどね」

 シュバルツは微笑んで返す。歌世は少し面白くなかったが、すぐに声を張り上げた。

「じゃあ、私らは遠慮なく飲もうじゃないか。今日の酒はきっと美味いぞ」

 酔っ払い達の騒ぎ声が、町の片隅で響いていく。


 首都の人の流れの中で、シンタは戸惑っていた。

 人ごみに流されて、一緒に来たヤツハとはぐれてしまったのだ。

 慣れぬ土地、人ごみの中で一人きりである。少しだけ、泣きたいような気持ちになる。

 そんな中、後ろから声をかけられた。

「久しぶりだね」

 振り返ると、そこにはエルフ族のアバターをした少女が立っていた。闘技場で会った、あの子だ。

「見違えたよ。立派な装備だね」

 言われて、シンタは少し照れ臭かった。

 シンタはそれまでの蓄えを使って、鎧を買ったばかりだったのだ。中古のそれは、あちこちに傷があったが、日の光を浴びて鈍い鉄の輝きを放っていた。

「元気でやってる?」

 尋ねると、少女は首を横に振った。

「ちょっと、不調かな。中々上手く行かない時もあるよね」

 なるほど、少女は少女で色々とあったらしい。しかし、普段の彼女を知らないシンタにとって、その内容は推し量りようがない。

「じゃあ、装備を新調するなら、先輩の私からもプレゼントをあげるよ」

 そう言ったとたんに、彼女の手に白銀に光る盾が現れた。

「その盾もボスドロップで良い品だけど、この盾のほうが数段上かな」

 この盾は、ヤツハに貰った品である。少し気が引けたが、少女の厚意に甘える事にした。今は、少しでも強くなりたかったのだ。

「いいのかな。返す品、無いけど」

「いいのよ。お互いゲームを楽しんで、また会いましょう」

 シンタは装備パネルを呼び出して、ヤツハに貰った盾をしまう。そして変わりに、少女から受け取った盾を装備した。

 真新しいそれは、日光を浴びて、眩い輝きを見せている。

 そうしている間に、少女は既に姿が見えなくなっていた。

「探したよ」

 いつの間にか、近くにヤツハが来ていた。

「あら、盾、変えたんだ」

 ヤツハは目ざとくシンタの盾に気がついた。

「うん、知り合いがくれたんだ」

 少し気まずい思いを抱えつつも、シンタは答える。

 しかし、ヤツハは頓着した様子はない。

「じゃあ、精錬しに行きこうか。精錬したら、その分防御力が上がるんだよ」

「行く!」

 シンタは元気良く答える。

「じゃ、ついてきてね」

 ヤツハがシンタの手を引いて、人ごみを掻き分け始める。

 二人はそうやって、首都での買い物を楽しんだのだった。

 その後、謎の白騎士は、二度と格闘場に現れる事は無かった。

 完全な勝利ではなかったが、歌世達は泥に濡れた栄光を手にしたのだった。


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女帝リヴィア

巨大同盟である通称S2。

その構成ギルドであるスピリタスのギルドマスターとして君臨する、リヴィアにつけられた異名。

外部の人々は畏怖を込め、顔見知りは親しみを込め、彼女を女帝と呼ぶ。

実際は、面倒見がよく、新人指導も自らこなし、ギルド資産の運営などの雑務に頭を痛めている普通のお姉さんである。

本当はギルドの規模を縮小して、もっと細々とやりたいのだが、人が多くなると貢献してくれる人も多くなるもの。

中でも、ゲームに対する熱意のほとんどをギルドの貢献へ向けているようなメンバーを裏切ることも出来ず、女帝の位置に座り続けている。

たまに、ゲームの世界から失踪したくなる。

私は適当にやりたいんだから、そんなに頑張らないで、と言いたくなる。

強い癖に自由にしている歌世がちょっとだけ憎い。

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