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懐かしい夢を見た。
そう思って、少年は目を開けた。少年というよりも青年に近い、既に変声期を終えた身体を大きく伸ばし、少年は一つあくびをする。
窓の外はまだ暗く、夜が明けていないことを知らせていた。
マッチを擦り、蝋燭に火をつけると部屋の片隅の机の上に置く。なるべく光が漏れないように、分厚い辞書を開いて机上に立て、ついたて代わりにした。そうして少年は、夜が明けるまで読書でもしようと机の上部に取り付けられた本棚から一冊の本を取り出すと、机の上に置いて読み始めた。その時だった。
「アスワド、起きてるのかい?」
「ルトー、悪い。起こしたか?」
アスワドと呼ばれた本を読もうとしていた少年が、ベッドから身を起こして眠そうにしている少年、ルトーへと申し訳なさそうな表情で顔を向ける。
ルトーは、ごしごしと目をこすると数回瞬きをして、アスワドに微笑みかけた。
「ううん。懐かしい夢を見たら、なんだか目が覚めちゃって」
ふわりと微笑んだ己よりもいくばくか幼い少年に、アスワドは軽く目を見開いた。
「ルトーもか? 実は、俺もなんだ」
アスワドが言うと、今度はルトーの方が目を見開く。
「もしかして、まだぼくたちが『茶色』だった頃の夢かい?」
「ああ、まだ教会に入ったばかりで、讃美歌くらいしか出来ることがなかった頃の」
アスワドとルトーは教会の『神官見習い』だった。
神官見習いの着る衣服は、白地に灰色の襟のシャツと灰色のズボンである。そのため、神官見習いは俗称として『灰色』と呼ばれた。それと同じように、神官見習いの前身である『神学生』は白地に茶色の襟のシャツと茶色のズボンを着用するために『茶色』と呼ばれ、神官見習いより上位の聖職者である『神官』と『僧兵』は白地に黒い襟のシャツと黒いズボンを着用するため『黒』と呼ばれた。
ルトーが『茶色』と言ったのは、神学生をさしていた。
「あの頃は僕らもまだ小さかったね。村の教会の木の、一番下の枝にも手が届かなかった」
そう言ってルトーがくすくすと笑いをこぼすとアスワドがにやりと笑って、
「お前はまだ届かないんじゃないか? 俺はここに移るときにはもう少しで届きそうだったからな」
と言う。
「そんなことないさ、あれからもう五年も経つんだよ。僕だって背が伸びたんだから」
確かに、アスワドに比べてルトーは小柄な体格をしていた。しかし、ルトーはアスワドより一つ年下だった。成長期の少年の一年は大きいのだ。
「背だけじゃない。俺たちは、色々変わったな」
「そうだね」
にやにや笑いを引っ込めて、急に真剣な表情になったアスワドが言うと、ルトーも静かに返した。
そうこうしているうちに窓の外が白み始め、山の端に太陽が顔をのぞかせる。それと同時に、がらんがらんと大きく力強い鐘の音が大気を震わせた。
アスワドは蝋燭の灯を消すと、窓を大きく開け放つ。新鮮な空気が朝日とともに部屋の中に流れ込んだ。