『わたし。』
この狭い地球の上、小さな町のちっぽけな私の元に。
もうひとりの『わたし』が現れた。
***
「ねー、そんなに怒ってどーしたのー」
「……」
「ねー、そんな風に制服のまま座るとスカートしわしわになっちゃうよー」
「……」
「ねーどうして無視するのー」
「…静かにしてよ…」
夕闇迫る茜空が窓から差し込んで『わたし』の不機嫌そうな顔に影を与えている。なんとも不思議な感覚。
「なにかあったんでしょ」
「関係ないわよ」
「なくないよ、わたしのことだもん」
「それはそうだけど…」
『わたし』が現れたのはつい先日のこと。朝起きると彼女は私の枕元に立っていた。残念ながら私以外に『わたし』を認識できる人はいない。故に『わたし』を私だと確認することも、そして疑うこともできない。しかし同じ容姿、声に表情。紛れもなく私であった。
「喧嘩、しちゃったの」
「けんかー?」
「うん。なんで喧嘩なんかしたかな」
「ふーん」
聞いた割にはあっさりとした反応はまさに自分と似ていた。いや、私なのだけれど。
会話に飽きたように『わたし』はくったりと布団に身体を投げた。
喧嘩をしたのは中学から交流を持つ友人であり、唯一無二の親友であり、要は喧嘩なんて初めてのことである。17歳にもなって口喧嘩とは、何故だか惨めな気持ちになる。
「謝らなくていいのー?」
「…謝るっていうかさ、なんていうか」
「なんていうか?」
返事ができず黙っていると彼女が続ける。
「喧嘩したまんまって気持ち悪くないの?もう嫌いになっちゃったの?」
「嫌いになんかならないよ。だけど…」
たかが口喧嘩。されど口喧嘩。単純なことだと思えば思うほどにちっぽけなそれが肥大して胸につかえた。
「どうせつまらないことで喧嘩したんでしょう。仲直りしちゃいなよ、楽になるよ」
「そうかもしれないけど…。そう言うそっちはしないの?」
「わたし?」
「うん。喧嘩しないの?」
「ううん、したよ」
案外あっさりと答えは返ってきた。
「は?」
「喧嘩くらいするよー人間なんだから」
ケラケラと笑うわたしは体を起こした。聞き覚えのある笑い方に少し寒気がする。
揺れる栗毛はまさしく私のと一緒であった。
「早く謝ってきちゃいなよ」
「で、でも…」
「仲直りしたいんでしょ、ほんとは」
「それは…」
「だったらさっさと行く!」
語気を強めて放たれた言葉は、どこか寂しげにも聞こえた。私は納得のいかないまま家を飛び出し親友の元へと急いだ。
「よかったんだよね?」
ぽつり部屋に残されたわたしは呟いた。私に残せたものはわたしが失ったものだったから。
体が軽くなる感覚、そして世界に透けるわたし。やっと、やっと、
「やっと成仏できそうだよ」
おわり。
リハビリにと思いながら書きました。
サラッとしすぎて味気ないです。もっと言うとワケわからないです、すみません。
宜しければ感想を戴ければと思います。お願いします。