#9 アルカナ・クリミナル
霧島先生の愛車内、誰一人として言葉を発しない。
エンジン音だけが車内を満たしている。
俺は窓の外をぼーっと眺めながら、
先ほど説明された任務の概要を思い出していた。
「今回の任務はクリミナルの討伐だ。
複数人の違法魔法使用者が立て篭もっているそうだ。
連中の要求は西園寺沙羅、
目的はまぁ、あらかた見当はついてる。」
「沙羅さんって、世間的に
かなり有名な人なんですか?」
純粋な問いに対して沙羅さんがにこやかに答える。
「正確には魔導士の中では、かな。
学園内でのいい評判はもちろんとして、
反体制側からの悪評もそれなりにね。」
胸を張ってふふんと笑いながら
語る沙羅さんが愛おしい。
「なら連中の目的は…」
「西園寺の殺害が主だろう。
強姦も視野に入ってくるな。」
「おお…」
エゲツないな。
沙羅さんは普段から
こんな危機を警戒しなくちゃいけないのか…
「その、霧島先生?
沙羅さんが狙われてるなら、
他の生徒を行かせるべきじゃないですか?
敵の思う壺なんじゃ…」
俺の苦言に対して沙羅さんが返す。
「平気だよ、私がそう簡単に死ぬと思う?
連中が私をお望みなら、私が正面から叩き潰す。
私のせいで誰かが犠牲になるのは嫌だしね。」
「なるほど。」
「いいか?続けるぞ?
まずは目的地で警察と合流する。
詳しい状況説明を受けた後、
二人には真っ向から突入してもらう。
あとは簡単だ、全員やっつけろ、以上だ。」
作戦もクソもない。
ただのゴリ押しじゃねえか。
それが罷り通るほど沙羅さんが強いんだろう。
沙羅さんは何も言わずに窓の外を見ている。
こんなふうに悪党に狙われて、
どんな気持ちで何を思うんだろうか。
ーーーーーーーーーー
後部座席、中央の席を隔てて、
隣には迅君が座ってる。
(迅君が一緒に来てくれてる。
いいところいっぱい見せてあげなきゃ。)
顔にも声にも出さず、
静かに一人で舞い上がっていたのも束の間、
大勢の警察官が待機する目的地に到着した。
私たちは車を降りて挨拶する。
「本日はご協力感謝いたします。
早速ですが、状況説明に入らせていただきます。」
「「「よろしくお願いします。」」」
「確認できるだけで立て篭もり犯は4名、
建物内にはまだ潜伏している可能性があります。
くれぐれも注意して向かってください。
それと、人質を取られており、
解放して欲しければ西園寺沙羅を連れてこいと…」
「はい、任せてください。」
私の返事を聞いて、警察の人は
言いづらそうに口を開く。
「…申し訳ありません。
お二人はまだ子供、本来なら私たち大人が
守って然るべきだというのに。」
「そう思い詰めないでください。
魔導士の世界において、大人も子供もないですよ。
私も迅くんもそれなりの覚悟を持って来てますから、
安心して待っていてください。
必ず全員連行します。」
「……ありがとうございます。」
警察の人と先生に頭を下げてすぐ、
迅君を連れてショッピングモールに侵入する。
「行くよ、迅君。」
「はい!」
自動ドアが開き、中へ足を踏み入れた途端、
視界の端で影が揺れた。
「死ね!西園寺沙羅!」
私は瞬時に身体強化魔法を発動して、
向かってくる拳を難なく受け止める。
「っ!?」
そしてその男が反応できない速度で、
腹部に重い一撃を叩き込む。
「ぐはぁ!」
周囲に鈍い音が響き渡る。
男はボールのように吹き飛び、
壁に叩きつけられて吐血し、意識を失った。
男は力無く地面にへたり込み、
ピクリとも動かなくなった。
(この人、やけに呼吸が浅い。
それに視線が常に私に向いてる。)
「さ、沙羅さん、容赦ないですね…」
私がクリミナルを撃退した様子を見て、
迅君は引き気味な顔で言った。
口角は上がってるけど、
目もとが引き攣ってて笑ってない。
(まずい、嫌われちゃったかな…)
「迅君、どこから出てくるかわからないから、
警戒は解かないでね。」
「はい。」
(ああああ、どうしよう。
迅君何も言わなくなっちゃった。
タッグでの任務ってもっとこう、
仲良くお話しとかするものじゃないの?
もしかして私がそう考えてるだけなのかな…)
ーーーーーーーーーー
倒れた買い物カゴが転がっていて、
足音がやけに大きく反響する。
店内BGMが寂しく流れ続けるのも奇妙だ。
静まり返った空間が不気味さを助長する。
ショッピングモールに突入して数分、
対峙したクリミナルは最初の一人のみ。
いつどこで襲われるかわからない
恐怖が常に付き纏う。
沙羅さんはなんか顔が怖いし、話しかけづらい…
「迅君…」
「は、はい!」
「上の階に行ってみようか。
ここら辺にはいないみたい。」
「そうですね…!」
沙羅さんが最強と呼ばれる所以がよくわかる。
俺とは違って、攻撃に微塵の躊躇もない。
淡々と無表情で、作業的な戦闘だった。
踏んできた場数の多さが見て取れる。
「ねぇ迅君?」
「どうかしました?」
「さっきの、怖かった?」
沙羅さんは拳を強く握りしめ、
意を決したような言い振りで聞いてきた。
俺は正直な気持ちで答える。
「そりゃあ、怖かったですよ。
あんないきなり…」
「うっ…」
今回の敵は悪魔とは違う。
悪意を持って俺たちに襲いかかる。
それだけではなく、戦術的な思考も用いてくる。
もっと考えてから来るべきだった。
ここに潜む敵は悪魔よりも悪辣だ。
「迅君、私ね…」
沙羅さんが食い気味に言葉を紡ごうとした時、
正面から二人の男が歩いてきた。
どちらも大柄で、それぞれ銃と刀を持っている。
沙羅さんはすぐに魔法を発動して、
片手にいつものライフルを作り出す。
「えっ…?」
現れた敵に注意を向けていた時、
真横から何かが俺に飛びかかってきて…
「迅君!?」
俺の腕は強引に引き抜かれ、
沙羅さんと分断されてしまった。
まったく反応できなかった。
今の俺の目なら悪魔の動きだってとろく見えるのに。
視界の外からの急襲…
こいつ、戦い慣れてる。
俺に襲いかかってきたそいつは、
知らぬ間に真隣に立ち尽くしていた。
まるで最初からそこにいたかのように。
黒髪ロングで大きなアホ毛のある女が、
黒く澄んだ眼で不気味に見つめてくる。
歳は俺と同じくらいだろうか。
「お前は誰だ。」
俺が尋ねると、その女は不気味に
口角をあげながら答える。
「神代みより。」
いつからこいつは俺を狙ってだろうか。
まさか突入してからずっと…
「いや、名前だけ言われても、
ああそうですかとしか言えないんだけど。
お前たちは何者で、何がしたいんだよ。」
「私たちは"アルカナ"、
新世界を作るために戦う組織。
何がしたいかは教えてあ〜げない。」
アルカナ、まったく知らない名前だ。
組織的に沙羅さんを狙ってるってことか。
「だったら、無理やり教えてもらおうか…!」
「乱暴しないで、えっち。」




