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アダムの子  作者: ポポ
7/10

#7 分かれ道

「ああぁぁぁぁ…」


家に帰ってきてからも胸が張り裂けそうで、

全身が重く、手も震えていた。

悪魔の臭いがまだ鼻に残っていて、

吐き気が込み上げる。


(まだ入学したばっかりなのに、もうしんどい…)


リビングのソファに横たわりながら

スマホをいじっていた時、

玄関の扉が開く音がした。


(誰だよいきなり。)


上半身を起き上げた途端、

背後から誰かに抱きつかれた。

俺のよく知る甘い匂いがする。

白くて華奢な手、背中に当たる柔らかい感覚、

間違いない。


「勝手に入ってくるなよ、姉さん。」


「えへへ、いいでしょ?」


「何しに来たんだよ。」


「今日任務だったって聞いたからさ、

お姉ちゃんがお疲れ様を言いに来てあげたよ〜!」


そう言って姉さんはわしゃわしゃと

俺の頭を撫で回す。


「やめろ、子供扱いするなよ。」


「私にとってはいつまでも可愛い弟だよ?」


普段はうざったくて仕方ないけど、

今はこういう時間がめちゃくちゃありがたいかも。



ーーーーーーーーーー



かれこれ5分くらい甘やかし散らして、

私は本題の質問を叩きつける。


「迅、今日の任務どうだった?」


「色々しんどかったな…」


声色は低くなり、俯きながら答えた。

私は内心の喜びを表情に出さないように、

必死に顔を作り続ける。


「めちゃくちゃ大変だったし、死にかけたし…」


迅は言葉を紡ぎながらも度々嗚咽していて、

相当心に来たらしかった。

私の思惑通り、うまく行きすぎて怖いくらいだ。


「そっか〜。

わかるよその気持ち、私も最初そうだった。

怖いし、勝っても気持ちよくないんだよね〜。」


「うん…」


迅の目がうるうるしてきた。

あまりにも可哀想で、私はそっと抱きしめる。

迅の温かい体の温もりを直に感じる。

ああ、この温もり、ずっと離したくない…

食べちゃいたいくらい、大好きだ。


「これからやっていけそう?」


一瞬沈黙の間が空いて、迅は虚ろな目で返した。


「……わからない。」


ああダメだ、にやにやが止まらない。

魔導士を諦めるのもそう長くはないかな。


「ちゅっ…」


「なっ!おい!」


「私もう行くね。

ちゃんとご飯食べて、

お風呂入って、歯磨くんだよ?」


「まあ行くのかよ…」


「ふふ、また明日来るから、ね?」


「うん。」


迅の悩みを聞いてすぐ、あえて私は部屋を出る。

一人にして考えさせ、心を蝕むために。


「もうちょっとだ。」



ーーーーーーーーーー



姉さんはそそくさと出ていってしまった。

珍しいな、いつもなら一緒に寝るとか

言い出すところなのに。


(そばにいてほしい時に限って…)


そういえば聞き忘れた。

なんで入学前に魔法を教えてくれなかったんだろ。

まぁ、いいか。

この力があればしばらくは戦えそうだし。


戦闘で疲れきった身体を引きずるように、

風呂の湯を沸かす。

少し経って、静かな部屋に

スマホの着信音が鳴り響いた。

部屋があまりにも静かで、

小さな着信音でも耳に響く感じがした。


「もしもし?」


「迅君?私、沙羅。」


「沙羅さん!?」


寂しさを埋めてくれるかのように、

沙羅さんが電話してくれた。

最近沙羅さんからの連絡が増えてきて、

ちょっと嬉しい。


「どうかしました?」


「任務どうだったのかなって。」


「いや、その…」


俺は今日あったことを沙羅さんに語る。

話している間目頭が熱くなってきた。

沙羅さんは静かに相槌を打ちながら聞いてくれた。


「ごめんなさい。

沙羅さんに貰った武器、すぐに折っちゃって…」


「ああ、いいのいいの。

そうなるだろうと思ってたしね。」


「えっ、知ってたんですか?」


「うん、まぁ。

マナを込めないとただの剣だしね。

あくまで応急処置として渡しただけだったから。」


「そうだったんですか…」


結局俺は、沙羅さんの

予想を超えることはできなかった。

期待されてたわけでもなさそうだし…


「沙羅さん、俺魔導士向いてないです。

悪魔を殺した時の感覚がこびりついてて…

正直、続けられる気がしないです…」


俺の正直な気持ちだった。

沙羅さんには本当に申し訳ないと思う。

受験勉強の時は時間を使って教えてくれたのに。


「迅君、みんなそうだよ。

私だって、最初は魔法使えなかったんだから。」


「でも、沙羅さんは今、

学園で一番強いんですよね…?

俺には、とても…」


「いい?迅君、生まれ持った才能や体質は、

覆しようがないものだよ。」


「…………」


わかってる、だから俺は…


「迅君は私にないものを持ってる。

今日の任務でわかったでしょう?」


「…っ!ちょっと待ってください、

見てたんですか?」


「うん、どうしても心配になっちゃって。」


「そう、だったんですか。」


「本当に危ない時は、そっと手を貸してたよ?

正直行かないとやばいかなとは思ったけど、

迅君は私の想像を超えてみせた。

自身で危機を乗り越えた。」


「…………」


「私には、向いてないとは思えなかったよ?」


「でも俺、心が保ちそうにないです。」


「大丈夫、みんな同じなんだから。

相手が悪魔だろうと、犯罪者だろうと、

傷つけるのはいい気しないよね。」


「沙羅さんもですか?」


「私はもう慣れちゃった。

どれほど悪魔を殺してきたからわからない。

浴びた返り血も悲鳴も数え切れないや。」


「沙羅さん…」


「魔導士は2種類に分けられる。

傷つけることに嫌悪感を覚える優しい魔導士と、

何も感じない非道な魔導士。

心がすり減ったり、はなから感受性が低かったり、

憎しみが勝ったり。

それぞれ理由は様々だけど、

どっちが上に行けるのかは、言うまでもないよね。」


「沙羅さん、俺…」


「ゆっくりでいいんだよ?

時間はまだまだあるんだから。」


「……ありがとうございます。

なんだか少し、楽になった気がします。」


沙羅さんの声を聞いた瞬間、

胸の奥の重さがスーッと抜けていった。

涙が出そうになるくらい安心した。


「力になれてよかった。

そうそう、私、明日任務あるんだけど、

よかったら一緒に来る?」


「えっ!?いいんですか!?」


沙羅さんとのデート…!!

ああ、入学してよかった〜。


「うん、色々と教えてあげられるかもだし。」


「ぜひお願いします!」


「うん、それじゃあまた明日。

朝のメール忘れないでね。」


「はい、また明日。」


電話を切ってすぐ、思いっきりガッツポーズした。


「よっしゃぁぁぁ!!」


楽しみすぎて眠れない夜を過ごすのだった。




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