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アダムの子  作者: ポポ
6/10

#6 鳥籠

気づいた時には周りの悪魔は

ピクリとも動かなくなっていた。

終わった、終わったんだ。

俺たちは勝った…!


喜びを噛み締めたのも束の間、

戦闘時の光景がフラッシュバックした。

ぐちゃぐちゃになった悪魔の体、

この手に残る虐殺の感触…

指の隙間のぬめぬめした感覚が、

これまたきつい…


「うっ、ゔぉえぇぇぇ!」


気持ち悪い気持ち悪い…

魔導士って、こんなに気分悪いものなのか…


「あっ、えっ…?」


ふと振り返ると、夏希が地面に這いつくばり、

目を丸くして口をパクパクさせていた。


「うぷ、大丈夫か?」


「は、はい…」


「じゃあ帰って先生に報告しようぜ。

立てるか?」


「はい、えっと…」


夏希は起きあがろうとするものの、

足が震えてまともに立ち上がれない。

生まれたての子鹿みたいになってら。


「あっ、あれ…?」


「無理するなって、肩かしてやるから。」


そう言って夏希の腕を俺の首の後ろに回し、

ゆっくりと立ち上がる。


「ゆっくり行くぞ、せーの…」


「すみません…」


痛みと傷を抱えながら、

俺たちは廃墟を後にするのだった。



ーーーーーーーーーー



「…よかった、一時は

どうなることかと思ったけど。」


迅君たちが無事に出てきたのを確認して、

私も学園へと足を進める。

二人ともかなり痛めつけられたようだった。

やっぱり咲月は少しやりすぎな気がするな。

安堵はあるが、モヤモヤも拭えずにいるのだった。


学園に戻ってきて早々、

私は咲月のもとを訪れる。


「沙羅おかえり、どこ行ってたの?」


「……ちょっとね。」


東雲咲月、迅君を除いて私の唯一の友達と言える。

孤独な私にも気さくに話しかけてくれるから、

良好な関係を築けていると思う。

それでも一つだけ、気に食わないことがある。


「ねぇ咲月、今日、迅君任務だったんだって。」


「…そっか。」


「結構危なかったみたいだけど。」


「だろうね。」


咲月の顔には動揺は一切現れない。

大事な弟が危ない目にあったというのに。


「咲月、やりすぎだと思う。

いくら魔導士にさせたくないからって。

迅君が死んでたら、

それでも正しかったって言えるの?」


「…迅のこれからの人生が幸せならいいもん。

こんな血に塗れたこと、迅には相応しくないよ。

あの子には健やかに、

普通の生き方をしてほしいの。」


「その考えはわかる。

咲月が迅君をとても大切にしてることも知ってる。

だからこそ、今のやり方は肯定できない。

迅君がこれを知った時、どう感じるかも考えて。」


「沙羅には関係ないでしょ。

これは私の問題なんだから。

誰がどう言おうとも、迅は魔導士にさせない。

ならなくていいように、私が悪魔を滅ぼす。」


「そうだね…」


私じゃ咲月を止められない。

このケージを破れるのは、

内側にある迅君だけなんだ。


私と咲月の間に気まずい沈黙が走った時、


「西園寺先輩、東雲先輩。」


一人の男の子が教室に入ってきた。

九条渚(くじょうなぎさ)

私たちと同じグレードSに属している2年生だ。

学園内では私に次ぐ実力者だ。


「渚君、どうかした?」


「今年の一年のデータを確認してたんですよ。

今年はかなり優秀で、

飛び抜けて適性の高い生徒が3人います。」


「それ霧島(きりしま)先生も言ってた〜!

化け物がいるって。」


咲月は興味津々な様子だ。


「一組の柊夏希、二組の黒瀬美緒(くろせみお)

この二人はグレードAスタート。

やがて俺たちに並ぶ可能性があります。」


(柊夏希は迅君とタッグ組んでる子だったな。)


「その二人に大差をつけている奴が一人います。

二組の御影煌(みかげひかる)

入学時の適性検査でグレードSの

判定を叩き出しました。

沙羅さん、あなたに並ぶ快挙です。」


「すっご!めちゃくちゃ有望じゃん!」


「ええ、あなたに並ぶ次代の異能と言えますね。」


「私のことを買い被りすぎじゃない?」


「何言ってんですか、

その謙虚さは称賛に値しますが、

それを聞いて気分を悪くする人も

少なくないはずですよ。」


「う〜ん。」


「渚、沙羅は嫌味なんて言わないよ。

受け取り方の問題じゃん。」


「それでも事実です。

実際に友人は少ないじゃないですか。」


「うっ…」


その言葉は胸に突き刺さる。

私はみんなと仲良くしたいのに、

なぜかみんな離れていくんだよね。


「ていうか渚、その報告だけしに来たの?」


咲月が尋ねると渚君は神妙な面持ちで口を開く。


「俺は西園寺先輩の血の滲むような

努力を見てきました。

だからこそ、努力もしてない天才が

先輩方と同列なんて認めません。

俺たちの西園寺先輩が、ぽっと出の奴に負けるなんて

ごめんですよ?」


「ふふ、言われなくても。」



ーーーーーーーーーー



ボロボロの夏希を肩に担ぎながら、

俺たちはようやく学園まで辿り着いた。


「着いた〜!」


「………」


帰り道、夏希は一言も喋らなかった。

俯いたまま、何かを噛み締めるように。


「とりあえず保健室行こう。

俺もお前もボロボロだ。」


「……はい。」


保健室の先生に"回復魔法"をかけてもらい、

夏希は万全の状態に戻った。

俺もかけてもらったけど、別に怪我してないよ?

と言われてしまった。

やっぱりあの時、傷は全部治ってたのかな。


「夏希、報告は俺がしてくるから、

寮に戻って休めよ。」


そう言い残して保健室を出ようとした瞬間、

ドアを思い切り開けて、

担任の霧島先生が入ってきた。


「柊!東雲!大丈夫か!?」


「わっ!先生!びっくりさせないでくださいよ。」


「ああ、すまん。

さっき西園寺から二人が傷だらけで

帰ってきたと聞いてな。」


霧島先生、ホームルームでは

淡白な雰囲気出してたけど、

ちゃんと俺たち生徒のこと心配してくれてるんだな。


「お前らに死なれると学園長にキレられるんだよ。」


前言撤回、ただの保身野郎だったわ。


「大丈夫ですよ、俺も夏希も。

もうピンピンしてます。」


「そうかぁ、そりゃよかった。」


霧島先生は肩の力が抜けたように

座り込んでしまった。

汗だくだし、息も切れてる。

俺たちのために急いで

駆けつけてくれたことが伺える。


「霧島先生、今回の任務、

聞いてた話と違っていました。

あの数の悪魔を把握できなかった、とはとても…」


「その件は本当にすまなかった。

完全に俺たち教員側のミスだ。」


「任務の采配ミスとかですか?」


「いいや、把握できなかった。」


「できてないんかい。」


学園側にとっても不測の事態だったのかな。


「今は命があることを喜んでくれ。

明日は公欠でも構わないぞ?」


「いいえ、休む暇なんてありません。

私は行きます。」 


「俺も。」


「やる気満々だなおい。

わかった、申請は出さないぞ?

後これ、今日の報酬だ、大事に使えよ。」


先生はそう言って茶色の封筒を渡してくれた。

いきなり金もらえるのか!?

いやまあ死にかけたし割に合わないんだけども。


先生は任務の報告を受けた後

そのまま職員室に戻っていって、

俺も帰ろうとしたのだが。


「東雲君!」


夏希に呼び止められた。


「ん?何?」


「あ、あの…」


夏希は頬を赤く染めてもじもじしている。

口をもごもごさせていて何か言いたげな顔だ。

今日初めて可愛いと思えた。


「なんだよ。」


「その、助けてくれて、ありがとうございます。

東雲君がいなかったら、私…」


「いいんだよ、これからもよろしく。」


「…っ!はい!!」


こうして初めての悪魔退治は幕を閉じた。

胸に残った大きなしこりは、

そう簡単には消えなさそうだ。





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