#3 現実は非常なり
入学式の次の日、ホームルームで
担任の先生が口を開いた。
「昨日の適性検査の結果を返却する。
名簿順に取りに来い。」
ついに来た!
この結果で俺の魔法がなんなのか、
そして俺のグレードがなんなのか、
マナがどれくらいあるのかがわかる。
沙羅さんとの距離を具体的に知ることができる。
「次、東雲。」
期待と不安の入り混じる中、
担任の先生からその紙を受け取り、
先についてからゆっくりと確認する。
一瞬だけ、紙を握りつぶして捨てたくなった。
こんな結果なかったことにしたかった。
検査の結果を見て、俺は声を失ってしまった。
マナの量は平均以下、固有魔法は"磁力魔法"、
グレードは最低のC…
(明らかに良くないよなぁ…)
紙を持つ指が情けなく震える。
グレードCの生徒はそれなりにいるらしいが、
安心できる理由にはならない。
このままじゃ、沙羅さんに追いつくなんて
夢のまた夢だ。
落ち込む俺を追撃するかのように、
先生は絶望的なことを語りだす。
「本日から始まる任務のために、
なるべく同じグレード同士になるように
"タッグ"を組んでくれ。
これからずっと関わっていく相手になるぞ。」
タッグを組め?
俺が一番苦手なやつじゃないか。
このクラスでグレードCの生徒は7人、一人余る。
やばい、早く組まないと取り残され…
何人かに話しかけたが、
ほとんどがグレードBの生徒ばかりで、
数少ないCの生徒はすでに全員組み終わっていた。
最も恐れていたことが現実になってしまった。
グレードCの奴となんて、
誰も組みたがらないだろうなぁ…
「すいません、一人ですか?」
自席で落ち込んでいた俺に、
髪の長い女子が話しかけてきた。
清楚な雰囲気で可愛らしい、
お嬢様と呼ぶのに相応しい。
「うん、一人だよ。」
「よかったです。」
「よくないよ?」
その女子は軽く微笑みながら話し続ける。
「私とタッグ組んでくれませんか?
私も余ってしまって…」
こんなに可愛い子が?
俺としてはありがたいことこの上ないけども。
「組もう!ぜひ組もう!これからよろしくな!」
「ええ、よろしくお願いしますね。
私は柊夏希と言います。
あなたは?」
「東雲迅だ。」
「東雲君ですね。
ちなみに習得している魔法は?」
「えっ、習得?
これから身につけるんじゃないの?」
「何言ってるんですか。
入学前に最低限一つは
身につけておくのが常識でしょう?
使えないんですか?」
おいおいマジか、そんな常識知らないんだけど。
そんなこと、沙羅さんも姉さんも
教えてくれなかったぞ?
沙羅さんはしょうがないとして、
姉さんはなんで教えてくれなかったんだよ。
もしかして俺って、俺が思ってる以上に
遅れてるのか…?
「あの、特に何も…」
「そうですか、ちなみに固有魔法は?」
「磁力魔法らしい。」
「磁力、私の魔法との相性は
良くも悪くもないですね、十分です。」
なんか一人で勝手に納得しちゃったぞ?
ものすごい先を進んでる気がする。
「東雲君、私はこのクラスで唯一のグレードAです。
あなたはCですよね?」
「はい、そうです…」
マジかよこいつ優等生じゃんか。
肩身が狭すぎるだろ。
「はっきり言いますが、
このクラスで私に釣り合う人はいません。
ですから、任務では主に私が戦います。
東雲君は後方支援をお願いします。」
「おいおい、それじゃあ俺が強くなれないだろ?」
「それはそうですね。
私の目的は私が強くなることですから。」
なんだよこいつ、一緒に頑張ろうみたいな
精神がまるでないぞ。
確かにこいつが全部こなす方が
効率的かもしれないけどさ…
「それでも、俺は頑張るよ。
グレードAのお前に名前負けしないように。」
「ええ、構いませんよ。
私の足を引っ張らない限りは…」
めちゃくちゃ見下されてる。
まったく戦力として見てないな。
俺、こいつと仲良くなれる自信ないぞ。
夏希とタッグを組んで早々に、
担任の先生から次の指示を出された。
「全員組み終わったな?
それでは任務の概要について説明する。
この学園の生徒は週に2回、担当の曜日の日に
任務に向かってもらう。
任務の内容は悪魔とクリミナルの排除だ。
昨日西園寺が語ったように、
常に命の駆け引きが隣り合わせとなる。
ちなみに先月は3名が命を落とした。」
さっきまでざわついていた教室が、
水を打ったように静まり返った。
とうとう始まるんだ、悪魔との戦いが。
不味くないか?
魔法使えないのにいきなり戦闘か?
「基本的にタッグでこなしてもらう。
友好関係を築くことも重要になってくるぞ。
仲良くしろよ。」
「ふん。」
(ふんって言われた…)
「任務達成の確認は学園で行う。
無事に目標を排除できたら
一度学園に戻ってきてくれ、以上だ。」
説明が終わって、クラスで任務の担当曜日を決めて、
ホームルームは幕を閉じた。
モチベーションが高く、実力もある夏希は喜んで
今日の担当を名乗り出た。
魔法を習得する暇など与えられず、
いきなり実践に放り出されるらしい。
帰りのホームルームが終わってから、
夏希が俺の席に来て言った。
「お互い準備が終わったら校門前に集合しましょう。
安心してください、私が全てなんとかしますから…」
(完全な戦力外扱いかよ。)
それだけ言い残して夏希は足早に教室を出て、
俺は取り残されてしまった。
ーーーーーーーーーー
放課後、俺は部屋に荷物を置いてすぐ
校門前で夏希を待っていた。
周りにはそこそこな数の生徒がいる。
おそらく同じように任務に行くのだろう。
「はぁ…」
さっきからずっと喉が渇いてる。
思わずため息をついた時、
背後から俺の名を呼ぶ声がした。
「迅君、よかった、ここにいて。」
振り返った先にいたのは沙羅さんだった。
どうやら俺に用があるらしい。
「沙羅さん!どうかしましたか?」
「さっき先生から、迅君が今日任務だって聞いたの。
迅君って、まだ魔法使えないよね?」
「はい…」
「そうだと思った。
はい、これ使って。」
沙羅さんはそう言って一振りの剣を作り出し、
俺に手渡してきた。
沙羅さんのその優しさが、逆に心を締め付ける。
これがないと弱いよ、と言われてるようだった。
「これは…」
「私の魔法で作り出した"魔道具"だよ。
これさえあれば最低限は戦えるかなって。」
「…っ!ありがとうございます!」
俺は深々と頭を下げる。
「……無茶しないでね。」
それだけ言って沙羅さんは去っていった。
「へへっ。」
不安なことばっかしだったけど、
沙羅さんは俺の味方なんだ。
これほど心強いことはない!
上機嫌の俺のもとに夏希がやってきた。
夏希もまた剣を携えていて、
戦闘準備は万端のようだ。
「それでは東雲君、行きましょうか。」
クラスで一番の優等生と、
一番の落ちこぼれの悪魔退治が幕を開ける。
せめて足手纏いにはならない。
それだけは絶対に。




