#2 魔導の始まり
ダメ元の懇願だった。
普通に考えて初対面の男に
連絡先渡すとかありえない。
それでも、それでも言わずにはいられなかった。
沙羅さんは一瞬で驚いた様子だったが、
すぐに紙とペンを取り出して、
「はいこれ、私の連絡先。」
と躊躇いなく教えてくれた。
「いいんですか!?」
「えっ?まぁ、うん。」
叫びたい気分だったが、
なんとか心の中に留めておいた。
「それじゃあ、もう行くね。」
「あっ、はい。また…」
沙羅さんは軽快に歩いて去っていった。
後ろ姿もまた綺麗で、可憐な感じがする。
家に帰ってきてすぐ、
スマホで沙羅さんの連絡先を登録して
メールを送った。
《さっきはありがとうございました。
俺、東雲迅って言います。
これからよろしくお願いします!》
(送ってしまった!
返信来るかな。)
送信してすぐ、沙羅さんからの返信が来た。
《よろしく。》
淡白な一言だったけど、それでも嬉しかった。
《沙羅さん、俺も対魔戦術学園に入学して、
魔導士になります!》
《頑張って。
時間があったら勉強教えてあげる。》
「っし!!」
さっきまで受験勉強のやる気なんて微塵もなかった。
今はやる気マックス有頂天だ。
この日は数分のメールのやり取りの後、
久しぶりに勉強机に向き合うのだった。
ーーーーーーーーーー
そして、俺の受験勉強の日々が始まった。
姉さんが稼いでくれたお金で塾に通って、
時には沙羅さんに教えてもらって。
「迅、そろそろ志望校決めたか?」
「ああ、対魔戦術学園にする。」
「マジかよ!じゃあ魔導士になるのか?」
「なりたい。」
「今どき珍しいな。
最近は成り手がいないって聞いてたけど。」
「そうらしいな。」
魔導士……
魔法を操り、日本の治安を守る公安の仕事だ。
命を天秤にかける危険な仕事のため、
年々志望者は減少傾向だ。
「あそこって偏差値どのくらいなんだ?
足りるのかよ。」
「ここ数年は定員割れてる。」
「お前ラッキーだな。
10年前とかは偏差値70超えてたらしいぞ。」
「すっげぇ。
成り手不足が深刻なんだな。」
「なぁ迅、本当に行くのか?
お前の偏差値なら、他のいいとこもいけるだろ?」
「…それでも、行きたい。」
俺も沙羅さんみたいに強く、
たくさんの人を救える人間をなりたいんだ。
「お前の選んだ道なら否定しねえよ。
頑張れよ!」
「おう!」
ーーーーーーーーーー
入試まであと3ヶ月ほど、
冬休みが間近に迫ってきた頃…
《ピー ピー》
スマホの着信音が鳴り響いた。
(沙羅さんかな!)
ワクワクを胸に電話に出ると、
「あっ、迅?
受験勉強の調子どう?」
電話の相手は姉さんだった。
「ちぇっ…」
「ちょっと!今舌打ちしたでしょ!
お姉ちゃんなのに!」
東雲咲月…
俺の2歳年上の姉だ。
俺の目指す対魔戦術学園に通いながら、
魔導士としての収入で俺の暮らしを支えてくれてる。
今は寮生活で滅多に会えない。
「今必死こいて勉強してんだよ、邪魔すんな。」
「酷!いいじゃんちょっとくらい!」
姉さんは正真正銘のブラコンだ。
毎晩毎晩2時間くらい電話する羽目になる。
着信を無視しようものなら、
俺が電話に出るまで永遠とかけてくる。
「それでそれで、今模試の判定どのくらいなの?
合格できそう?」
「ずっとAだよ。」
「……そうなんだ、よかったね…」
「ん?」
なんか声のトーンが悲しそうだった。
「よくサボらないね。
私だったら余裕こいてサボっちゃう。」
「俺は姉さんみたいにアホじゃないから。」
「んもう!」
「それで、なんで電話かけてきたんだよ。
いつもの時間じゃないだろ?」
姉さんは一瞬押し黙ってから答える。
「…なんでもいいでしょ。
声聞きたかったの。」
「はぁ?」
それから1時間ほど取られた。
毎日毎日いい加減にしてほしいものだ。
気を取り直して勉強を再開しようと思ったのだが、
再びスマホの着信音がけたたましく鳴り出した。
「今度はなんだよ…!」
イライラを抑えきれないまま電話に出る。
「もしもし!!」
「迅君?今都合悪い?」
今度は沙羅さんからだった。
「良すぎて困るくらいですね。」
やり取りを始めてから結構経つが、
沙羅さんから電話をかけてきたのは初めてだ。
「それならいいんだけど…」
スマホを耳に当てながらドキドキする胸を押さえる。
「沙羅さん、どうかしたんですか?」
「用ってほどでもないんだけど、
今日は朝のメールなかったから。」
「えっ?あっ、すいません。
寝坊しました。」
「そう、体調が悪くなったとかじゃないのね?」
「はい!ピンピンしてます!」
「それならよかった。」
「もしかして、俺のこと心配してくれたんですか?」
「…まあね。
こんなふうに男の子と連絡取るの、
迅君が初めてだから。」
少し気まずい沈黙の時間があったが、
沙羅さんが断ち切るように口を開いた。
「勉強の調子はどう?
合格できそう?」
俺は脊髄反射で答える。
「厳しいです。」
「そっかそっか。
なら今度の日曜日、私が見てあげようか?」
「お願いします!」
好きな人にこんなにも応援されて、
やる気がなくなるはずがない。
ーーーーーーーーーー
時の流れは急速に進み続けるものだ。
あれから数ヶ月、沙羅さんや姉さんに支えられて、
俺は無事に合格を掴み取った。
そして今日、とうとう入学式当日だ。
スーツケースに荷物を詰め込み、
誰もいないアパートの一室に挨拶をして、
俺は学園へと歩き出す。
今日から俺は、国立対魔戦術学園の一年生だ。
与えられた寮の一室に荷物を置いて
学園にやってきた。
昇降口で自分のクラスを確認して、
そそくさと教室に向かう。
(俺のクラスはAか。)
教室に入ってすぐ、
真ん中最後列の自分の席についた。
ここから始まるんだ。
ここで魔法を極めて、沙羅さんに追いつくんだ!
数分経って、担任の先生らしき人がやってきた。
「お前たち、入学式が始まるから体育館に行け。」
言われるがままに俺たちは歩き出す。
そして入学式が始まった。
基本的な流れは普通の学園と同じだ。
学園長の話が終わってすぐ、
壇上にその人は現れた。
俺をこの学園に誘った存在、西園寺沙羅だ。
「皆さん、入学おめでとうございます。
魔導士を目指すあなた方の新たな旅路に、
心からの祝福を捧げます。」
沙羅さんの姿を見て、
周りの生徒たちはザワザワ話始めた。
すでに注目の的のようだ。
「しかし、入学はあくまでスタートラインです。
これからあなたたちは、周りのライバルと高めあい、
頂まで上り詰めていきます。
前後左右の同志たちは、
あなたの友人ではありません。
ライバルであることを心に据えてください。」
脅し、とも取れる言い方だ。
それでも俺は怯まない。
「早速ですが、あなたたちは明日、
初めての任務に赴くことになります。
我が校では生き死にの駆け引きが間近にあります。
くれぐれも、死なないように…」
沙羅さんは不敵な笑みを浮かべながら告げる。
ちょっと怖くなってきたぞ?
入学式を終えてすぐ、教室に戻ってきた俺たちは
魔導適性検査を受けることになった。
魔導適性検査…
マナ量と適性から最初の"グレード"が決まる。
S、A、B、Cの四段階で、Sはほんの一握りだ。
なんと、沙羅さんはグレードSの中でも
頂点に君臨する存在のようだ。
憧れの人は遥か彼方、
絶対に追いついてみせる。
これから歩み出す道は、青春への道。
そして、地獄への第一歩だ…




