#1 進路選択
この世界には"悪魔"と呼ばれる存在がいる。
驚異的な生命力を持ち、
古くから人類を苦しめてきた存在だ。
しかし、人類はただ殺されるだけではなかった。
"魔法"という異能を用いて対抗してきたのだ。
魔法を操り悪魔を狩る者たちのことを、
人々は"魔導士"と呼ぶ。
これは、人類と悪魔の知られざる物語……
ーーーーーーーーーー
4月中旬、桜の花びらが舞い散る心地の良い春の季節、
過ごしやすい日差しに照らされながら、
俺、東雲迅は
友人二人と共に通学路を歩き進めていた。
「俺たちもとうとう受験生かぁ。
お前らもう志望校決めた?」
友人の一人が気だるそうに口を開く。
ああそうだ、俺にとって中学生活最後の一年が始まったのだ。
「俺はもうとっくに決めてるよ。
すぐそこの県立高校でいいかなってさ。」
「へぇ、あそこって偏差値まあまあ高かったくね?
いけんのかよ。」
「この前の模試ではB判定だった。
これから一年、勉強頑張れば受かるだろ。」
「マジか〜、俺模試ダメだったんだよなぁ。
迅は?もう決めたか?」
自然な流れで俺に聞いてきた。
でも……
「俺は、まだ全然。」
「そっか、まぁまだいいんじゃねえか?」
「早いことに越したことはないけどな。」
「うん……」
進路選択か、こういうの苦手だ。
たった一つの選択で自分の人生が左右される。
齢14の子供にとっては重大すぎると思うんだけど…
最近、1日が終わるのが早く感じる。
あっという間に放課後、下校の時間だ。
「迅、また明日な〜。」
「おう!」
昇降口で靴を履き替え、そそくさと校門を出る。
帰宅部の俺には放課後は暇すぎる。
(あいつらは今頃、最後の大会に向けて頑張ってるんだろうな。俺にも何か、夢中になれるものがあればなぁ…)
そのまま無味無臭の帰路につき、
進路について考える。
何かやりたいことがあれば決めやすいんだけど、
あいにく俺には何もない。
特別勉強ができるわけじゃないし、運動も平均的だ。
人に誇れるものが、何もない。
敢えて言うなら可愛い姉がいるくらいか?
(ちょっと、散歩してくか。)
俺は普段通る曲がり角とは逆の道に足を進める。
時刻は午後4時頃、近所の小学生たちが宿題を終え、
公園で遊び始める時間だ。
つまらない、本当につまらない。
ゲーセンも飽きたし、スマホゲームもマンネリ化してきた。
勉強のモチベーションは湧かないし…
「おっ?」
訪れる天啓、平凡な日々に飽き飽きした俺の興味を駆り立てるものが、そこにあった。
廃墟だろうか?
コンクリート仕立ての低層ビルだ。
人の気配を一切感じられず、手入れもされていない様子だ。
(本当はダメなんだろうけど、バレなきゃいっか。)
俺はこっそり廃墟ビルに入り込む。
この些細ないたずら心が、俺の人生を大きく変えることになるとは、全く想像してなかったんだ。
「うわ、ひどいなこれ…」
ビル内は外見以上に荒れていた。
瓦礫が散らばり、椅子や棚がいたるところに倒れている。
(住宅街のど真ん中にこんな場所があったんだなぁ。
冒険みたいで、なんか楽しいかも。)
高鳴る胸を隠すことなく、奥へ奥へと進んでいた時…
「ぁいやぃあぁぁ…」
「っ!?」
正面の方から声にならない呻き声が聞こえてきた。
犬猫の鳴き声じゃない。
間違いない、悪魔だ。
「うわぁぁぁぁ!」
俺は即座に身を翻し、一目散に駆け出す。
先ほどまでの好奇心は一瞬で消え去り、
恐怖が心を支配した。
(なんで!なんでこんな街中に悪魔がいるんだよ!
しかも真昼間だぞ!?)
悪魔を見つけたらすぐに逃げろ、
小さい頃からそう教えられてきた。
まず間違いなく、俺たち一般人が襲われれば命を落とす。
生物としての格が違うんだ。
人間の骨なんて、悪魔にとっては木の枝も同然。
(早く、早くここから出な、きゃ……)
「ァァァァァァァァァァァァァァァア…」
ビルの入り口の前、
そこには3mくらいの大柄の悪魔がいた。
黒光りする皮膚が窓から差し込む光を反射し、
真っ赤に輝く目が俺を見つめている。
「はっ、はっ、はっ…」
呼吸が浅くなる。
冷や汗と体の震えが止まらない。
カビのような匂いが鼻をつんざく。
「アバァァ!」
その悪魔は大きな足音を立てながら近づいてくる。
「あ、あああ、うわぁぁぁぁ!!」
思わず出口とは真逆の方向に走ってしまう。
出口にも内部にも悪魔がいる。
そしてその数は未知数だ。
(やばい、このままじゃ死ぬ…!)
ーーーーーーーーーー
タバコの匂いが染みついた先生の車の後部座席で、
私は窓の外を眺めていた。
田舎というには発展してるし、都市と言えるほど栄えてもない、なんともいえないのどかさがある。
一見平和だけど、いつどこから悪魔が湧いて出るかわからない。
悪魔が存在する限り、この世界に真の意味での安寧はない。
「西園寺、目撃情報があったのはこの辺だ。
夕暮れの前に任務を終えてくれるとありがたい。」
「人使いが荒いですね。
居場所に目星はついてるんですか?」
先生は少し考える素振りを見せた後、
ゆっくりと口を開いた。
「すぐ近くに廃墟がある。
何年も人の手が入っていないそうだ。
悪魔が姿を顰めるには最適な場所だと思うが…」
「了解です、すぐに向かいます。方角は?」
「ここから南西方向、見ればわかるはずだ。」
それを聞いて私は窓を開けて身を乗り出し、
車のルーフ部分に立ち上がる。
「おいちょっと待て!
お前に蹴られたら凹んじまう!」
「ふふ。」
私は両足に"マナ"を込めて、
力強くルーフパネルを蹴り出して飛び上がる。
「やりやがったなぁぁぁ!!」
先生の悲鳴を後にして、
家屋の屋根に次々と飛び移りながら
目標の廃墟へまっすぐ向かう。
車から飛び出てから約40秒、
それらしい廃墟の屋上に到着した。
確かに複数の悪魔の気配を感じる。
それだけじゃない、人間も。
「あら、急ぎの用事ができちゃったみたい。」
私はマナを消費し、短剣を作り出して
床を円状に切断して中に入る。
ビルの最上階にして、すでに5体の悪魔が姿を現した。
悪魔どもの鳴き声が、今日の任務の開始を告げた。
「ギィヤァァァァァァ!」
まず一体、私の左斜め後ろから悪魔が接近してくる。
床に散らばる石ころを粉砕しながら突進してくるが、
私は即座に銃を作り出し、
振り返ることもなく銃口を突きつけ、
その引き金を引く。
破裂音が響き渡り、その悪魔の頭が砕け散った。
その様子を見て怯んだ他の悪魔に向けても容赦なく
銃口を向け、次々と銃弾を放つ。
(右、左、上、右…)
「はい、おしまい。」
ビルに侵入してまもなく、
5体の悪魔を冥界に送り出す。
残りの悪魔も逃がさない。
一匹残らず狩り尽くす。
ーーーーーーーーーー
「っ!っ!っ!」
俺は両手を口に当てて、必死に声を殺す。
冷たい空気が肌を刺すようで、心臓が凍るようだ。
どのくらい逃げ回ったのかわからない。
悪魔の数があまりにも多い。
このままじゃ本当に……
(ごめんなさい、姉さんごめんなさい…)
背中がぞわぞわする。
嫌な汗が頬をつたる。
今俺がいるのはビルの中央付近、
周囲の部屋には悪魔がウジャウジャといる。
なんとか窓から飛び降りようかとも思ったが、
それも叶わなかった。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ…」
「チューチュー!」
俺はすこぶる運が悪いようだ。
潜伏していた部屋の奥からネズミが一匹現れた。
その鳴き声を聞きつけて、俺の後ろの壁を叩き割って
悪魔が入ってきた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
慌てて反対側の壁まで下がるものの、
悪魔の目はとっくに俺をロックオンしていた。
もう逃げ場がない、詰みだ…
「アアアアアア!!」
悪魔は叫び声を上げながら急接近してくる。
その声は鼓膜に振動し、より恐怖を駆り立てる。
不気味に体を唸りながら猛スピードで駆け寄る。
(もうダメだぁ…)
そう思った時、ダダダダダダ、
と天井から無数の破裂音が聞こえてきた。
気づいた時には悪魔が八つ裂きにされていて、
無数の肉塊が転がっていた。
「あっ、えっ…?」
次の瞬間、穴の空いた天井から
一人の女性が飛び降りてきた。
ライフル銃を片手に担ぐその姿は、
さながら正義のヒーローで、女神だった。
見たところ高校生だろうか。
その女性は俺の方へ向き直り、
優しい声色で手を差し伸べてくれた。
「僕?大丈夫?立てる?」
「こ、腰、腰が…」
腰が抜けて立ち上がれなかった。
依然状況が掴めず、精神が安定しない。
そんな情けない俺のことを、
彼女は笑うことなくおぶってくれた。
「もう大丈夫、ここにいた悪魔は全部殺したから。」
彼女は平然と言ってのけた。
ここには何体もの悪魔がいたってのに、
たった一人で全滅させたのか?
「えっと、お姉さん、あなたは一体…?」
「西園寺沙羅、
国立対魔戦術学園に通う2年生よ。
今は魔導士として、悪魔を狩り続ける日々を送ってるわ。」
(この圧倒的な強さ、これが魔導士…!)
沙羅さんと話すうちに、だんだんと落ち着いてきて、
自分の足で歩けるようになった。
「沙羅さん、もう大丈夫です。
下ろしてください。」
「いいの?」
「あっ!やっぱ!まだ無理かもしれません!」
「ふふ、そう。」
沙羅さんは笑顔を浮かべたまま、
俺を出口まで連れてってくれた。
「さて、私は帰るから。
あなたも気をつけて帰ってね。」
沙羅さんは俺に背中を向けて歩き出す。
そんな彼女に無意識的に声をかけてしまう。
「あ、あの!」
「ん?」
沙羅さんはきょとんとした顔で振り返ってくる。
俺は恐る恐る尋ねる。
「連絡先教えてくれませんか!?」
この日の出会いが、俺の運命を大きく変えたんだ。
きっかけは些細ないたずら心、
それと偶発的な恋慕の情。
味気なかった俺の人生を、彼女は優美なキャンバスで
彩ってくれた。
これは、一つの恋から始まる戦いの物語だ。
俺の人生、これからは平凡じゃいられないみたいだ。
読んでいただきありがとうございます!
これから迅と沙羅の新たな物語が紡がれていきます!
次回も読んでいただけると嬉しいです。




