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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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9/25

親友

「菜月のこと、ナツキチって呼んでいい?」

予てから、僕はそう呼びたいと思っていた。

ナツキチは嬉しそうに頷き、

「じゃあ、和葉のことはカズって呼ぶよ。」

と返してきた。

久しぶりにその呼び名を聞き、胸がチクリと痛んだ。

でも僕は新しい“カズ”になりたかったから、快諾した。


ナツキチはまるで僕みたいだった。

短髪で男物の服を着て、仕草も粗野で笑うツボも一緒だった。

お互い無意識に、一緒にいるようになった。

大学の中でも外でも、共に勉強し遊んだ。

彼女といる時間は、とても楽だった。


「なぁカズ、今度短期バイトに一緒に行かない?」

そう誘ってきたのはナツキチの方だった。

「いいね!どんなバイト?」

僕はまだ、アルバイトをしたことがない。ワクワクした。

「となり町であるイベントのスタッフだよ。麻里奈も行くかな?」

彼女も参加してくれたら賑やかになりそうだな。そう思った。

「誘ってみたら?一緒に行けたらいいね。」

僕は既に、みんなでバイトする光景を想像して楽しくなっていた。

「そうだな。誘ってみるよ。」

ナツキチはニコッと笑った。


麻里奈は愉快な子で、いつも周りには人が集まり、笑いの絶えない雰囲気を作り出す天才だった。


麻里奈を通して知り合った、ヒーコという女の子がいた。

本名は佐伯ひかり。友達は皆、彼女のことをヒーコと呼んだ。

ヒーコは学生でありながら車を所持していた。僕ら自転車組にとって、それは憧れだった。


空に雲一つない、よく晴れた晩春のある休日。地元振興会主催の、地食べフェスタが開催された。


僕らの大学がある県は、山海の幸に恵まれた、食べ物のおいしい所だ。フェスタにはたくさんの地元飲食店がブースをだし、大変なにぎわいだった。


僕ら4人――ナツキチと麻里奈、ヒーコと僕は、応募したバイトに当選し、イベントスタッフとして駐車場整理や客の長蛇の列を案内する仕事をしていた。


僕以外の皆はアルバイト経験者だったためか、要領が良かった。

僕は“仕事”というものの勝手がわからず、一人あたふたと空回っていた。

初め思い描いていたキラキラしたイメージとは反対に、バイトは立ちっぱなし、動き通し、気を遣うので大変だった。


やっとの思いで昼休憩に入る頃には、僕は疲れてヘトヘトになっていた。

そんな様子を見て他の皆は笑っていた。


太陽が夕日に変わる頃、ようやくフェスタが終わった。その頃には僕はもちろん、ナツキチたちも疲れ切っていた。

「初バイトにしては上出来だよ」

麻里奈がそう労ってくれた。

素直に嬉しかった。

足の関節がギシギシいって、体中の筋肉が乳酸を蓄えたようだった。

仕事が終わり、初めて貰った茶封筒のお給料を手にした。

(これはなかなか使えないな。)

体の疲れと対照的に、やり切った達成感と人の役に立った清々しさが全身を覆った。


帰りはヒーコの車に乗せてもらったが、ヒーコも疲れて運転が辛そうだった。ほかのメンバーは運転手を代わることができず、応援するしかなかった。

働くことの大変さが身に染みた一日だった。


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