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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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失言

3年生の冬になると、高校の授業はほぼ終了し、受験前のラストスパートとなった。

寝食以外は全て勉強時間に充てられ、それはもう、頭から湯気が出るほどであった。


咲は都内の某名門大学を、僕は近県の国立大学を目指していた。


授業時間にクラスで自習をしていると、隣のクラスがなんだか騒がしくなった。後に、松本君が推薦入試で名門国立大学に合格したのだと知る。


推薦で合格を得た者は、残りの高校生活を優雅に過ごす。

対して僕ら受験組は、机に向かって働きアリのように問題を解く。


そんな、年末が差し迫った頃、あの出来事が起きたんだ。


僕は自習の時間、教室で解けない問題に苦戦していた。クラスメイトは皆それぞれに、自分の苦手分野に向き合ったり、得意な科目を伸ばそうと奮闘したりしていた。

ふと、廊下が騒がしい。

聞き耳を立てていると、既に受験戦争から解放された4、5人の推薦合格者が、持て余した時間を談笑に充てていた。

先生は近くにいない。

(うるさいなぁ。何処か別の場所でしてくれたらいいのに。)

そう思っていると、賑やかな中に咲の声が混じっているのに気付いた。

見ると、松本君と嬉しそうに話す彼女がいた。

いつもより声高に笑う彼女の声が疎ましく、無性に腹が立った。


それから別の日にも、自販機の前で二人が楽しそうに話すのを目撃することもあった。妙に親しげで、そこだけ春風でも吹いているような印象だった。

胸の奥が、きゅっと縮んだ。

理由は分かっているのに、認めたくなかった。

彼は推薦で合格し、もう戦わなくていい人間だ。

咲は今からが大変な時期なのに、どうしてあんな顔で笑っていられるんだろう。

羨ましさと焦りと、置いていかれるような感覚が、いっぺんに押し寄せてきた。


そんなことが度重なったある日のことだった。

放課後、僕はクラスの友達と自習をしていた。

「最近、推薦終わった人がうるさいよね。早く帰ればいいのに。」

と、その友達が愚痴った。みなストレスを感じていたんだろう。

胸の奥がざわついた。

つい僕も、

「本当だよね。それにしても咲なんかまだ受験前なのにさ、推薦組に混じって騒いでさ、本当に――

(口が止まらなかった。)

...男好きで嫌になる。」

言葉にした瞬間、しまったと思った。

自分の声が、思っていたよりも冷たく響いた気がした。


ガタン!


音がした方を見ると、咲がカバンを持って足早に去っていく姿が目に入った。

「聞かれたかな?」

友達がコソッと聞いたが、僕は返事もできず固まっていた。



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