呼名
佐倉さんとはクラスでは別で行動したが、部活ではよく話した。
次第に、名前で呼び合う仲になった。
「和葉のディフェンスは粘り強いね。さすが北中出身だわ。」
初めて褒められた。嬉しかった。
咲は足が速く、シュートも得意で木島とプレイスタイルが良く似ていた。
ただ、木島の方が少し巧みだった。
高校バスケ部は部員数が少なく、1年生だけだと4人、先輩たちを含めても11人だった。
木島たち上達者は、既にスタメン圏内だ。
1年生でもう1人、勝田久美という子がいた。
この子は木島と同じクラスで、陸上部志望だったが木島に(無理矢理?)引っ張ってこられた子だ。
僕らは部活が終わると、近くのコンビニでたむろした。
何気ない会話がどうしようもなく楽しかった。
そんなある日、咲に誘われた。
「今度一緒に遊ばない?」
――青天の霹靂。断るはずがない。
僕は帰ってからタンスの中をひっくり返した。
お気に入りのズボン、買ったばかりのTシャツ。鏡の前で一人ファッションショーをしていた。――しっとりと見つめる、母の視線を浴びながら。
待ちに待った週末。
予定より早く待ち合わせ場所の駅に着いた。
そこに間もなく、彼女もやってきた。
僕に手を振る彼女は正に、天使だった。白いブラウスにデニムというシンプルな格好なのに、咲が着ると眩しいほど似合っていた。
「おはよ!和葉のほうが早かったね。」
そして僕の格好を見て一言。
「和葉って、めちゃボーイッシュだね。男の子みたい!」
言われて、ドキッとした。
「男の子」という言葉に、(ヤバい!)という思いと、胸の奥がくすぐられるような嬉しい感情が交差した。
「咲はえーっと、その...咲らしくてすごくいいと思う。」
僕はなんとか返した。
「無理しなくていいよ(笑)さ、行こ?」
幸せなデートの始まりだ。
僕らは駅周辺の商店やゲームセンターで遊び、近くのファミリーレストランで昼食を食べた。
お母さんに頼み込んで貰ったお小遣いで、彼女とお揃いのキーホルダーも買った。
彼女のどんな仕草も可愛くて、夢中だった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
帰り際、彼女は言った。
「今日は楽しかったね!また遊ぼうね。あ、これから和葉のこと、カズって呼んでいい?」
カズ...悪くない。
「いいよ。咲は咲のままでいい?」
「うん、いいよ。じゃあ、また明日学校でね!」
こうして天使は帰っていった。
彼女が僕をカズと呼ぶことにした真意は分からなかった。けど、僕はこの時確実に浮かれていた。
彼女に抱いていた恋心は、この日を境に大きく、強くなっていった。




