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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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引力

人は恋をすると、好きな人に好かれる自分になれるよう、自ずと努力し、変化するのだろう。

それは偽りの姿かもしれないし、本当の自分かもしれない。


僕はこれまで好きになった女性に対し、頼れる男性的な自分を見せてきた。

しかし篠崎さんへの恋心に気づいてからは、守られる弱い存在――女性的な自分に変化していった。

それは完全に無意識の領域で、まるで大きな運河が、ある日突然大きな力で川の流れを変えられるようなものだった。

理性や意思ではどうにもならない、不思議な引力に導かれて、僕は新たな自分へと変貌を遂げようとしていた。


篠崎さんとの交流は続いたまま、新年を迎えた。

この年、僕は33歳になる。

篠崎さんにとっては、僕は従順な弟分でしかなかったのかもしれない。

でも僕にとって彼は、かけがえのない、大切な人となっていた。


僕はホルモン治療を、自己判断で中断した。本来なら医師の判断を仰がなければならない重要なことだったが、この時、医師に自分の状態を説明できる自信がなかった。

僕自身、自分が何者なのか、すっかり分からなくなっていたのだ。

セクシャルマイノリティのカテゴリーに、“LGBT”とプラスして“Q”がある。


「Q」Questioning――性別がわからない人――

この時の僕はまさに、Questioningだった。


ただ純粋に、篠崎さんの前では雄々しい自分を見せたくないと、そう思うようになっていた。


ホルモン治療を止めると、肌艶が良くなり、顔つきが女性化していった。やがて生理も始まり、体型が筋肉質から脂肪質へと変化した。

声は低いままだったが、見た目は女性に近付いた。


急激な変化は、僕の精神にも影響した。

(何やってるんだ僕は。親を泣かせてまで手に入れた姿を、理由のわからないことで反故にしようとしている。こんなに勝手をして良いはずがない。)

自分を否定する言葉ばかりが脳裏をよぎり、感情の浮き沈みが激しくなった。

(これ以上生き恥をさらすくらいなら、いっそのこと...)

そんな考えが浮かぶこともあった。


しばらく間が空いて、篠崎さんと会うことになった。

彼が旅行のお土産を渡したいからと、少し会うだけの予定だった。


僕は髪が伸び、ボブになっていた。外見だけは、もはや男性には見えなかった。


互いの家から等距離の運動公園で待ち合わせとなり、僕は乗り古した車の中で待っていた。妙に緊張して、時間が過ぎるのが遅く感じた。

目の前に白い車が止まった。篠崎さんだった。

「こ、こんにちは。お久しぶりです。」

僕は動揺しつつも、平常を装って声をかけた。

篠崎さんは僕をあまり見ることなく、

「おお、カズ久しぶり。まあ中へ入れや。」

そう言って助手席へ乗るよう手招きした。

すぐに車に乗り込んだ僕は、恐る恐る彼の方を見た。彼は何やら携帯を確認していたが、ふと僕の顔を見た。その瞬間、口が開いたまま固まった。

「カズ、あれ?なんかお前――可愛くなったな。」

そう言って、ぎこちなく笑った。

彼から以前放たれたのと同じ言葉だったが、その聞こえ方はまるで違った。

その後の彼は、今までのようなフレンドリーな接し方ではなく、1枚壁が生じたように感じた。


僕はこの目に見えない空気を知っていた。

ずっと前、高校時代に味わった苦い思い出が脳裏に過った。

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