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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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23/25

鼓動

僕は職場の人を含め、男性女性問わず人と接してきた。

職場での僕は相変わらず不器用な仕事人間だったが、上司や同僚に恵まれた。仕事仲間と意見をぶつけ合い、熱のこもった議論をすることもあった。

だけど、これまで会った誰とも違い、篠崎さんと話すと、時々心がざわついた。

そんな異変を感じ始めていた頃、例により篠崎さんの家業を手伝っていた時のことだった。


収穫したお米と引き換えに、僕は稲刈りの手伝いをしていた。

篠崎さんはコンバインに乗り、職人さながら稲を刈っていく。

僕は慣れない鎌を片手に、機械で刈れない所の稲を刈っていた。

もう秋口に差し掛かる頃なのに、額に汗がにじんだ。

篠崎さんは機械を止め、休憩しようと声をかけてくれた。

「しんどい作業を任せてすまないな。怪我はないかい?」

僕は彼の気遣いが嬉しく、疲労を忘れて上機嫌になった。

「大丈夫ですよ。でも、日ごろの運動不足が祟りますね。」

僕が腰の悲鳴と共に悲しく笑うと、篠崎さんは妙なことを言った。

「ははは。しかし、なんだかなぁ。俺は最近、カズが可愛く見えるよ。」

その瞬間、胸が鳴った。

(あれ?なんでドキッとしたんだ?)

自分でも理由がわからず、その場を濁した。


家に帰ってからも、篠崎さんの言葉の真意が気になっていた。

(たぶん、深い意味はないんだろうな。単に冗談で言ったんだろう。しかし、男性相手にしては、あまりに子供扱いな言葉だ。篠崎さんがそんな言葉を軽々と使うだろうか。)

推測は頭の中をぐるぐると巡り、答えは見つからなかった。


そんな中、麻里奈とヒーコに会う機会があった。ナツキチは風邪で来られなかった。

ヒーコは僕の顔を見るなり、

「あれ?カズ、なんだか雰囲気変わったね。」

と言ってきた。麻里奈は分からないというふうだった。

「ど、どう変わったの?」

僕は変化の自覚がなかったので、気になって尋ねた。

ヒーコは少し悩む素振りを見せ、こう言った。

「うーん、何ていうか。顔つきが柔らかくなって――可愛くなった気がする。」

僕は眉をしかめ、麻里奈は笑った。

「ヒーコまでそんな。」

僕がそう言うと、麻里奈は即座に反応した。

「え、誰か他にも言われたの?」

聞き流してくれそうもない彼女らの圧力に僕は観念し、篠崎さんの話をした。

彼の話をする時、僕は無意識に、“そういう顔”をしていたのだろう。

二人は顔を見合わせ、ヒーコが恐る恐るという感じで、僕に尋ねた。

「もしかしてカズ、篠崎さんのこと気になってるんじゃないの?」

僕は最初意味が分からず、しばらくしてハッとした。

「気になるってまさか、好きってこと?」

驚く僕を二人は、真剣な眼差しで見つめていた。

「まさか、そんなわけないよ。」

僕は否定したが、胸の高鳴りがそれは嘘だと物語っていた。

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