鼓動
僕は職場の人を含め、男性女性問わず人と接してきた。
職場での僕は相変わらず不器用な仕事人間だったが、上司や同僚に恵まれた。仕事仲間と意見をぶつけ合い、熱のこもった議論をすることもあった。
だけど、これまで会った誰とも違い、篠崎さんと話すと、時々心がざわついた。
そんな異変を感じ始めていた頃、例により篠崎さんの家業を手伝っていた時のことだった。
収穫したお米と引き換えに、僕は稲刈りの手伝いをしていた。
篠崎さんはコンバインに乗り、職人さながら稲を刈っていく。
僕は慣れない鎌を片手に、機械で刈れない所の稲を刈っていた。
もう秋口に差し掛かる頃なのに、額に汗がにじんだ。
篠崎さんは機械を止め、休憩しようと声をかけてくれた。
「しんどい作業を任せてすまないな。怪我はないかい?」
僕は彼の気遣いが嬉しく、疲労を忘れて上機嫌になった。
「大丈夫ですよ。でも、日ごろの運動不足が祟りますね。」
僕が腰の悲鳴と共に悲しく笑うと、篠崎さんは妙なことを言った。
「ははは。しかし、なんだかなぁ。俺は最近、カズが可愛く見えるよ。」
その瞬間、胸が鳴った。
(あれ?なんでドキッとしたんだ?)
自分でも理由がわからず、その場を濁した。
家に帰ってからも、篠崎さんの言葉の真意が気になっていた。
(たぶん、深い意味はないんだろうな。単に冗談で言ったんだろう。しかし、男性相手にしては、あまりに子供扱いな言葉だ。篠崎さんがそんな言葉を軽々と使うだろうか。)
推測は頭の中をぐるぐると巡り、答えは見つからなかった。
そんな中、麻里奈とヒーコに会う機会があった。ナツキチは風邪で来られなかった。
ヒーコは僕の顔を見るなり、
「あれ?カズ、なんだか雰囲気変わったね。」
と言ってきた。麻里奈は分からないというふうだった。
「ど、どう変わったの?」
僕は変化の自覚がなかったので、気になって尋ねた。
ヒーコは少し悩む素振りを見せ、こう言った。
「うーん、何ていうか。顔つきが柔らかくなって――可愛くなった気がする。」
僕は眉をしかめ、麻里奈は笑った。
「ヒーコまでそんな。」
僕がそう言うと、麻里奈は即座に反応した。
「え、誰か他にも言われたの?」
聞き流してくれそうもない彼女らの圧力に僕は観念し、篠崎さんの話をした。
彼の話をする時、僕は無意識に、“そういう顔”をしていたのだろう。
二人は顔を見合わせ、ヒーコが恐る恐るという感じで、僕に尋ねた。
「もしかしてカズ、篠崎さんのこと気になってるんじゃないの?」
僕は最初意味が分からず、しばらくしてハッとした。
「気になるってまさか、好きってこと?」
驚く僕を二人は、真剣な眼差しで見つめていた。
「まさか、そんなわけないよ。」
僕は否定したが、胸の高鳴りがそれは嘘だと物語っていた。




