残響
連休の初日、初夏の陽気が漂う空のよく晴れた日だった。
僕は篠崎さんに連れられて、クレー射撃の県大会に来ていた。
それまで知らなかったが、クレー射撃はオリンピック種目であり、競技人口も場所によっては少なくない。
そして驚くことに、男女の垣根がないスポーツだった。
選手たちは実績や年齢によりクラス分けされ、そのなかで上位となれば全国大会に出場できる。
篠崎さんは年齢別最高クラスでのエントリーで、毎年優勝する凄腕だった。
「俺、目が良いからね。」
篠崎さんは自慢げにそう言って、大切な銃を見せてくれた。
射撃には縦狙いのトラップと、横狙いのスキートがある。篠崎さんはトラップの名手だった。
篠崎さんから借りた耳栓をつけて、僕は試合の行く末を見守った。
「プル!」パンッ、パンッ
選手の掛け声で標的の皿が飛び出す。発砲は一度に2回までだ。
篠崎さんはほとんどの皿を1回で当てた。
「2発目はだいたい、当たらないんだよ。だから1発目にかけるんだ。」
と彼は簡単そうに言うが、それが至難の業だと言うことは素人の僕にも分かった。
「篠崎さんの腕は群を抜いてすごいですね。それより、僕がいたら気が散りませんか?」
僕は試合の規模に圧倒されて、何も知らずに付いて来たことに申し訳なさを感じていた。
「なに、構わないよ。集中するのは発砲する瞬間だけで十分さ。少しは楽しいかい?」
篠崎さんはそう言って、またニカッと笑った。
「楽しいです。」
僕は笑顔で返した。
(篠崎さんの笑顔、眩しいなぁ。)
僕は彼の人となりに惹かれていった。
試合の結果、篠崎さんは見事優勝した。
自然とたくさんの人が篠崎さんの元へ集まり、その中心で彼は射撃仲間に肩を叩かれ激励されていた。
「どうだ、カズも射撃やってみるか?」
帰り際、篠崎さんに誘われたけど僕は首を振った。
「近視なんです、僕。」
そうか、と残念そうに言う彼が切なく見えた。
「射撃、また見たいです。また来てもいいですか?」
篠崎さんは笑って、もちろんと言った。
射撃大会が終わってから、しばらく篠崎さんと会うことはなかった。
全国大会が終わった頃、篠崎さんから、射撃練習の誘いがあった。
久々に会えた時、気になっていた全国大会の結果について聞いてみた。すると彼は笑ってこう言った。
「俺なんかじゃ、全国で結果は残らないよ。まだまだ、練習が足りないんだろうな。」
どうやら、苦手なスキートの結果が振るわなかったようだ。
そんな悔しい大会の話をしていても、篠崎さんは明るかった。
この日は射撃練習を小一時間見せてもらった。得意のトラップは相変わらずの凄腕だった。
「今日はライフルも持ってきてるんだ。」
そう言って、場所を変えてライフル射撃も見せてくれた。
射撃小屋から50m先の小さな的を狙うこの方法では、当たったかどうかを双眼鏡で確認する。
イヤーマフ(防音用の耳あて)を付けて双眼鏡を覗いていると、篠崎さんの放つ発砲音と同時に、的の中心付近に穴があいた。
「当たった!すごい。」
僕は感心しきりだった。
篠崎さんはそんな僕を嬉しそうに見つめていた。
この日は射撃の後喫茶店で少し雑談をした。その中で、彼にはパートナーがいないことが判明した。
そんな些細な情報が僕には重大なことに思えた。話は尽きず、また会おうと約束して僕らは解散した。
それ以降も射撃の練習に付いていったり、彼の農作業を手伝ったりして、僕らは頻繁に会うようになっていった。




