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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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20/25

静寂

半年記念の後しばらくして、彼女の方から別れを告げられた。

僕は最後まで不甲斐なく、彼女は最後まで優しかった。

彼女と過ごした半年は僕にとって大切な記憶となっり、綺麗な思い出をたくさん残してくれた。


家の中にある彼女の持ち物は、処分出来ずにしまってある。

彼女の方は、僕から渡したプレゼントなど捨ててしまったのだろうか。


ようやく色付いた暮らしは再びモノトーンになり、僕の日常が戻ってきた。


友人たちは心配してくれたが、誰かに相談したいとも思わなかった。


失恋の傷は癒えるのに時間がかかった。僕は悲しみを振り切るように仕事に打ち込み、生活の安定を手にしていった。


数年が経ち、僕は30歳目前になっていた。

仕事も軌道に乗り、業務を主体的に任されるようになっていた。

職が安定していく一方で、プライベートは波乱続きだった。

アイカと別れて以降、数人と交際をしたが、いずれも1年も経たずして関係解消となった。

僕はすっかり仕事人間になり、プライベートより働くことが生き甲斐になっていた。


そんな時、世間では世界的感染症が流行し、大問題となった。

僕は在宅勤務を余儀なくされ、遠隔による働き方を強いられた。

それでも仕事にあぶれなかったのは、ありがたいことだった。

厳戒令のなか、知人の誰に会うこともできず、孤独に仕事に打ち込んだ。


30歳の誕生日は、アパートで一人迎えることになった。

両親や友人からお祝いのメッセージを受け取り、コンビニで1ピースのケーキを買って食べた。

前より散らかった、でも居心地のよい部屋で、節目の年を堪能した。

刺激はないけど、安定的で落ち着いた暮らしに、僕は心底満足していた。


感染症の厳戒令が解かれると、徐々に職場での勤務へと戻っていった。


ようやく感染症の話題が下火になった頃、突然上司から研修に行くよう言われた。

「そろそろカズにも後輩を育てる役をやってもらいたいからな。中堅社員向きのコンプライアンス研修に行ってきてくれ。」

二つ返事で快諾し、僕は隣町まで研修を受けに行くことになった。


この頃僕は、ホルモン注射を定期的に打ち続けていた。

担当医から、事前に注射を中断した時の反応については聞いていた。

注射の影響で濃くなった体毛やヒゲ、低くなった声は戻らないが、生理や体つきは元の女性に戻ると言う。

治療費は総額にするとかなりの額になっていたが、それでも止めるつもりはなかった。


戸籍を見ない限り、誰も僕が女性だとは思わないだろう。

そんな自信を携えて、僕は研修に向かった。

まさかここで、僕の人生を大きく変える出会いがあるとは知らずに――

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