気付
海堂先輩は完璧だった。
顔も、スタイルも、声も性格も何もかも。
僕より一級しか違わないのに、落ち着きがあってクールで、大人の女性って感じだ。
僕は少しでも近付きたくて、自然と先輩の近くに身を置くようになった。
何かの拍子に先輩から声を掛けられるかもしれないから。いつでも応えられるように、常にセンサーは最高感度だ。
こんなに分かり安いのに、僕は本気で気持ちを隠しているつもりだった。
友達は皆、優しかったのか賢かったのか、そんな僕を嘲笑したり揶揄したりすることもなかった。
ある日、部活が終わってから海堂先輩に声を掛けられた。
「和葉、ちょっとこっち来て。」
心臓が跳ねた。ハードな練習のあとで疲れ切っているはずなのに、足が浮かれている。
「先輩、なんでしょうか?」
嬉々とした感情をなんとか抑え、声のトーンを落として尋ねた。
「言いにくいんだけどね、和葉...ちょっと気になって。」
「はい?」
すぐにはピンとこなかった。けど、先輩の視線の先を見て赤面した。
「大きくなってきてるんだから、付けたほうがいいよ?ブラジャー。」
最悪だ。よりによって先輩に指摘されるなんて...
ブラジャー。それは女の象徴。
僕も気づいていた。分厚いシャツでは隠れなくなってきた胸の膨らみ、そして突起に。
母はとっくに僕のためにブラジャーを用意してくれている。
付けないのは僕の意思だった。
第二次性徴期。それは本来、喜ばしくおめでたいこと。しかし僕にとっては地獄の裁判で有罪判決を受けるような悲劇だった。
(なんでだよ!)
止まらない成長に苛立つ事もあった。
そんな時だった。テレビのワイドショーで初めてその存在を知った。
「セクシャルマイノリティ」
「LGBTQ+」
衝撃的で新鮮だった。僕と同じ様な悩みを持つ人がいることや、性に多様性があることも。
それも、左利きの人の確率より多いだなんて。
左利きの人ならクラスに何人もいた。でも“こういう人”を僕は一人も知らなかった。
もしかしたら、周囲にいるのかもしれない。
僕は女の人が好きだし、自身の体の変化に違和感がある...
てことは、「T:トランスジェンダー」てこと?なのかもしれない。
でも僕は男になりたいわけじゃない。
好きな髪型、好きな服装、仕草が自然と男性寄りになるだけで...
それにしても、似たような感覚の人が世の中には居るんだな...
確信とまではいかないが、何だか今までの得体のしれない不安感が、少し和らぐ気がした。
しかし同時に、恐ろしくなった。
このことを皆が知ったら、きっと僕のことを疑うだろう。
“そっちだ”と思われたら、今までの関係が壊れてしまうんじゃないか?
結局、不安は形を変えただけで、僕から離れてはくれなかった。




