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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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19/25

不安

何をしていても楽しくて幸せで、こんな気持ちは生まれて初めてだった。

散らかった部屋も綺麗に掃除し、仕事も張り切って頑張っていた。

僕はアイカと付き合い始めて、明らかに浮かれていた。


麻里奈たちに報告をしたら、ヒーコはふふっと笑ってこう言った。

「私は二人が付き合うと思ってたよ。だって初対面の時から良い感じだったもん。」

僕はヒーコに礼を言った。イベントに参加して本当に良かったと思った。


アイカとは順調で、始めのうちは毎週末デートをした。

アイカはよく待ち合わせに遅れてきたが、それは彼女の悪い癖なのだろうと、さほど気にしなかった。

付き合い始めて1ヶ月もすると、彼女は僕の部屋に泊まるようになった。

徐々に部屋の中に彼女のものが増えていき、僕の大切な空間となった。

二人でドライブや映画館に行ったり、居酒屋をハシゴしたり、朝までカラオケをしたり。

楽しい思い出をたくさん積み上げていった。

バレンタインには、初めての本命チョコを貰った。

彼女の真っ直ぐな愛情が嬉しくて、愛おしかった。


アイカと付き合い始めてから、旧友たちと連絡を取る頻度が減っていった。

僕の友達は必然的に女性が多いため、それは仕方がないことだと思った。


それでもたまにグループで電話をしたり、集まって遊んだりした。

ナツキチも治療を進め、見た目は完全に男性になっていた。


ある日、アイカの機嫌が悪いことに気がついた。

「どうした?何か怒ってるの?」

恐る恐る聞くと、彼女は首を振って答えなかった。

それから、徐々に彼女の不機嫌な日が増えていった。


原因はなんとなく分かっていたが、僕は知らないふりをした。

アイカのことは好きだったが、自由を束縛される理由にはならないと思った。


付き合って半年が経つ頃、二人の出会いを記念してお祝いをすることにした。

少し高めの店で、いつもと違う大人のデートを予定していた。

アイカは少しフォーマルな服装で、普段より女性らしさが増して美しかった。

しかしどこか淋しい表情で、素っ気ない雰囲気だった。

僕はせっかくの記念日なのに、物憂げな彼女が気になり、食事を楽しむことが出来なかった。


帰り道、僕はつい口を尖らせてこう言った。

「なんだか最近のアイカ、僕といてもつまらなそうだ。」

すると彼女は、

「そんなことない――」

と言って、街角の物陰で急にうずくまってしまった。

僕は焦り、彼女に寄り添った。

そっと彼女の顔をのぞき込むと、泣いていた。

僕は慌てて取り繕おうとしたが、事態は良くならなかった。

アイカはしばらく泣き続け、落ち着いてから、ようやく話してくれた。

「私、不安症なの。デートの時も、不安で家から出られなくなるし。カズが他の人と楽しそうに話してると、私が要らなくなってしまう気がして、不安なの。」

僕は知らなかった。アイカは積極的で、能動的で、自信に満ちている人だと思い込んでいた。

本当はその明るさの裏で、得体のしれない不安と戦っていたのだ。

「気づいてあげられなくて、ごめん。」

しかし次の言葉が見つからなかった。僕に彼女を支えられるだろうか。全てを投げ売ってでも、彼女に寄り添っていくべきなのだろうか。

そんな僕の心のゆらぎを見透かしたのか、彼女は立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。

もう春なのに指先が冷たく、彼女の声も遠くに感じた。

言葉少なに会話しただけで、僕らはそれぞれの家へと帰っていった。

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