初雪
引越してしばらく経つのに、荷解きの終わっていない部屋。
僕は仕事の復習をしていた。
新しく始めたIT会社での仕事は順調で、人間関係に悩むこともなく、充実した日々が送れていた。
ふと、携帯の通知が気になった。
アイカからの連絡に備え、無意識に携帯に目がいくようになっていた。
イベントで出会ってからというもの、僕らは頻繁に連絡を取り合った。
彼女との会話はいつも楽しく、生活に色彩を与えてくれた。
僕はまた彼女に会いたくなっていた。
耳の奥で、麻里奈に言われた言葉が反芻する。
「本気で付き合いたいなら戦略練ってアプローチしないと。――」
よしっ!という掛け声とともに携帯を握って立ち上がった。
そのまま、アイカにメッセージを送った。
“また会いたいので、都合の良い日時を教えてください。”
すぐに返事が来て、週末デートの約束を取り付けた。
再び会えることが嬉しくて、笑みがこぼれた。
待ちに待ったデート当日。
といっても、アイカと初めて出会った日から1ヶ月も経っていない。
僕は髪型や服装をしっかり整え、緊張した面持ちで待ち合わせの場所で待っていた。
しかし、約束の17時が来ても彼女はなかなか来なかった。心配になって彼女に電話をしてみたが、繋がらない。
不安になってうろうろと歩き回っていたところに、30分遅れでようやくアイカがやって来た。
「遅れてごめんなさい。」
彼女は申し訳なさそうに言った。
「大丈夫だよ。」
僕は彼女に無事会えたことで、心から安堵していた。
聞くと、友達に捕まって遅くなったそうだ。
気を取り直し、二人は日暮れ前の街へ繰り出した。
ちょうど晩ご飯時だ。
「アイカは夕ご飯、何が食べたい?」
僕は緊張を悟られまいと、明るく話しかけた。
「うーん、走ってきたから白いご飯がたくさん食べたい。」
僕は前もって調べ尽くした周辺の飲食店を脳内に巡らせた。
(彼女は今日、白基調の服装なので焼肉は無し。ご飯となると和食かな。たくさん食べられるとなると――)
うーーん...と目を瞑って悩んでいると、彼女が「あっ」といって指さした。
「あの店にしない?」
それは大衆居酒屋だった。
僕らはその店で楽しくお酒を飲み、気が付くと夜になっていた。
「もうこんな時間だ。そろそろ帰ろうか。」
本当はお店をハシゴしたかったけど、あまり遅くなると彼女の帰路が心配だ。
「もう少し話さない?」
そう言い出したのは、アイカの方だった。僕は心配を態度に出したが、彼女に大丈夫だからと押し切られた。
2軒目を探して歩き出したが、通りがかった駅前のイルミネーションが綺麗だったので、外のベンチで話すことにした。
「寒いね。」
僕が言うと、彼女は笑った。
「前もそう言ってたよ。」
笑顔の彼女が冬の光のなかであまりに美しく、僕は引き込まれそうになった。
(なんて綺麗なんだ。)
お酒を飲み過ぎたせいか、酔った頭に歯止めがきかなかった。
ドクンと波打った心臓の勢いそのままに、口から想いが溢れ出した。
「アイカ、僕は君のこと、好きになったみたいだ。」
そう言った途端、我に返った。
まだ告白するつもりでなかったのに。
慌てて話を変えようとした僕に、彼女は優しくこう言った。
「嬉しい。わたしもカズが好き。」
瞬間、時が止まった気がした。
僕は言葉が出ず、アイカを見つめたまま固まった。
彼女は優しい顔のまま、そっと僕にキスをした。
暖かい氷に包まれて、僕は動けなかった。




