灯火
鼓膜を振るわせ、全身に響く重低音。真っ暗な部屋に、音に合わせて動く無数の光線。
僕は慣れない店で、一人落ち着きなく飲んでいた。
いや、正確には一人ではない。
今日はヒーコに連れられて、セクシュアルマイノリティが集まるイベントに来ていた。普段このようなクラブに来たことのない僕は、圧倒されていた。
そんな僕のことなどお構いなしに、ヒーコはグラスを片手に、店内の何処かへヒラヒラと行ってしまった。
セクマイイベントということもあって、店には普段見かけないセクシャリティの人もたくさんいた。
僕は身の置きどころが分からず、偶然空いた2人掛けのソファに腰を下ろした。
(どこへ行ったんだあいつ。それにしても音楽がうるさいなぁ。)
ブツブツと独り言を言いながら、少し物思いにふけった。
僕が治療を進め変貌を遂げてから、たくさんの前進があった。
まず仕事が決まり、実家を出て再び一人暮らしを始めた。
治療の間、長期に休ませてもらったバイト先は辞め、新たにIT系の小さな制作会社へ就職した。
前職の時に起こした事故での後遺症も癒え、ローンで中古の車も買った。
それから、高校時代の部活の同級生とプチ同窓会をした。
久しぶりに木島や久美、そして咲と会った。
僕の姿を見て皆一様に驚いていたが、同時に納得した様子だった。
咲とも少し、話すことが出来た。
高校生の頃のように和気あいあいとは行かなかったが、一歩前に踏み出せた気がした。
そんな思い出に浸っていると、僕の隣に誰かが座ってきた。
ヒーコかな?と思って見ると、知らない人だった。
「こんにちは。」
声を掛けてきたのは、僕と同じ年くらいの女性だった。
「こ、こんにちは。」
どもりながら僕が返すと、彼女は微笑んだ。
彼女は顎のあたりで切り揃えたショートボブで、柔らかい色のニットを着ていた。派手さはないのに、不思議と目を引く雰囲気があった。
聞くと彼女もこの店は初めてで、僕と同じく友人に連れられてこられたそうだ。
名前はアイカといった。
アイカは僕より一つ下で、バイセクシャルだった。
お互いのことを話していると、思いのほか盛り上がった。
お酒の力もあってか、言葉が途切れなかった。
楽しく話していると、にわかに会場の音楽が大きくなった。
僕らは外に出て、出入り口横のデッキで飲み直すことにした。
外はもうすっかり暗く、冬の気配がした。
「ここは少し寒いね。やっぱり中に入ろうか?」
僕が尋ねると、アイカは首を横に振った。
「ここで、カズとゆっくり話したいな。」
その瞬間、僕の心にひとつの灯火が灯った気がした。
寒さに負けじと、たくさん話しをした。友人のことや、過去のこと、それから恋愛の話まで。
あっという間に時間が過ぎ、閉店間近になっていた。
そのまま話し込んでいると、ドアが開いてヒーコがヒョコッと顔を覗かせた。
「あー。ここにいたかカズぅ。探したぞ―」
と、かなり酔っぱらいの様子だった。
アイカを見るとニヤッと笑って、
「カズも隅におけないねー。わたし先に帰ろうかぁ?」
と、野暮なことを言った。
僕らは連絡先を交換し、解散した。




