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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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17/25

灯火

鼓膜を振るわせ、全身に響く重低音。真っ暗な部屋に、音に合わせて動く無数の光線。

僕は慣れない店で、一人落ち着きなく飲んでいた。

いや、正確には一人ではない。

今日はヒーコに連れられて、セクシュアルマイノリティが集まるイベントに来ていた。普段このようなクラブに来たことのない僕は、圧倒されていた。

そんな僕のことなどお構いなしに、ヒーコはグラスを片手に、店内の何処かへヒラヒラと行ってしまった。

セクマイイベントということもあって、店には普段見かけないセクシャリティの人もたくさんいた。

僕は身の置きどころが分からず、偶然空いた2人掛けのソファに腰を下ろした。

(どこへ行ったんだあいつ。それにしても音楽がうるさいなぁ。)

ブツブツと独り言を言いながら、少し物思いにふけった。


僕が治療を進め変貌を遂げてから、たくさんの前進があった。

まず仕事が決まり、実家を出て再び一人暮らしを始めた。

治療の間、長期に休ませてもらったバイト先は辞め、新たにIT系の小さな制作会社へ就職した。

前職の時に起こした事故での後遺症も癒え、ローンで中古の車も買った。

それから、高校時代の部活の同級生とプチ同窓会をした。

久しぶりに木島や久美、そして咲と会った。

僕の姿を見て皆一様に驚いていたが、同時に納得した様子だった。

咲とも少し、話すことが出来た。

高校生の頃のように和気あいあいとは行かなかったが、一歩前に踏み出せた気がした。


そんな思い出に浸っていると、僕の隣に誰かが座ってきた。

ヒーコかな?と思って見ると、知らない人だった。

「こんにちは。」

声を掛けてきたのは、僕と同じ年くらいの女性だった。

「こ、こんにちは。」

どもりながら僕が返すと、彼女は微笑んだ。

彼女は顎のあたりで切り揃えたショートボブで、柔らかい色のニットを着ていた。派手さはないのに、不思議と目を引く雰囲気があった。

聞くと彼女もこの店は初めてで、僕と同じく友人に連れられてこられたそうだ。

名前はアイカといった。

アイカは僕より一つ下で、バイセクシャルだった。

お互いのことを話していると、思いのほか盛り上がった。

お酒の力もあってか、言葉が途切れなかった。

楽しく話していると、にわかに会場の音楽が大きくなった。

僕らは外に出て、出入り口横のデッキで飲み直すことにした。

外はもうすっかり暗く、冬の気配がした。

「ここは少し寒いね。やっぱり中に入ろうか?」

僕が尋ねると、アイカは首を横に振った。

「ここで、カズとゆっくり話したいな。」

その瞬間、僕の心にひとつの灯火が灯った気がした。

寒さに負けじと、たくさん話しをした。友人のことや、過去のこと、それから恋愛の話まで。

あっという間に時間が過ぎ、閉店間近になっていた。

そのまま話し込んでいると、ドアが開いてヒーコがヒョコッと顔を覗かせた。

「あー。ここにいたかカズぅ。探したぞ―」

と、かなり酔っぱらいの様子だった。

アイカを見るとニヤッと笑って、

「カズも隅におけないねー。わたし先に帰ろうかぁ?」

と、野暮なことを言った。

僕らは連絡先を交換し、解散した。


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