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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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16/25

変化

両親に告白した後、僕はセクシャルマイノリティ専門のカウンセリングに通うことにした。


クリニックは予約でいっぱいで、診療を受けられるのは数カ月先になった。

事前にインターネットで、カウンセリングや治療のことは調べたが、当時はまだ体験談が少なく、いまいち先が見えなかった。


僕はクリニックの診療を待つ間、バイトを始めた。

デパートと居酒屋を掛け持ちし、お金を貯めた。

これまでの貯金でも治療は十分受けられたが、両親への恩返しもしたかったし、何よりじっとしていられなかった。

バイト先では相変わらず下手をしたが、少しずつ対策も取れるようになってきた。


忙しく過ごすうちに、いよいよ診療の日がやってきた。

流行る気持ちを抑え、クリニックに赴いた。

簡単なアンケートに答え、そしてようやく、担当医の先生と向き合った。

先生は僕の性の悩みを真剣に聞いてくれ、生い立ちから現在まで、不都合であった点を整理していった。

自分の声が高く、しゃべるのが嫌なことや、膨らんだ胸を抑えるために特殊なシャツを着ていることも伝えた。

そして心体検査を終え、下された診断は――

「性同一性障害で、間違いないと思います。」

その言葉を聞いたとき、胸のわだかまりが一つ、スッと消えたような気がした。

その後は治療方針を決め、ホルモン注射と乳房の切除手術を受けることになった。

僕は子宮の摘出までは望まなかった。


クリニックで紹介状を書いてもらい、ホルモン治療から始めることになった。

治療は月に1回、男性ホルモンを注射で摂取する方法だ。

治療の回数を重ねると、次第に声がかすれ、やがて男性のような低い声になっていった。

生理は止まり、体つきもゴツゴツと筋張った筋肉質となり、誰が見ても一見男性に見えるようになった。

胸も脂肪質でなくなり、小さくなっていった。

次々と起こる変化が嬉しくて、有頂天だった。


ちょうどその頃、麻里奈から電話が掛かってきた。

電話に出た僕の声が低くなっていることに驚いた麻里奈だったが、その後は他愛もない話で盛り上がった。そして後日、大学時代仲の良かった4人――ナツキチ、麻里奈、ヒーコと僕で集まることになった。


4人で集う日。

僕は少し気恥ずかしかったが、久々に皆と会えたことが嬉しかった。

僕の変化を見てナツキチは驚き、ヒーコは喜んでいた。

麻里奈はナゼか自慢げに、

「ほら私の言った通り、いい男になったでしょ。」

とか言っていた。

急に、ナツキチが下を向いた。

「どうしたの?」

ヒーコが尋ねると、ナツキチは

「実は、自分もたぶん、カズと一緒で性同一性障害かもしれないんだ。」

と言った。

ヒーコは優しく頷き、

「私はナツキチがマイノリティだって、気付いてたよ。」

と言った。その先の言葉は、僕も、恐らく麻里奈も分かっていた。

「だって、私もマイノリティだもん。」


それからしばらく経って、ナツキチも治療を始めたと聞いた。


再び訪れた春、桜が舞う季節。

僕は乳房切除手術を受けた。

両親は僕の変化を受け入れてくれた。

いや、本当は受け入れ難いことだったに違いない。

それでも僕を拒絶することなく、共に歩むと覚悟してくれたことを、今も本当に感謝している。

「和葉」という名は、周囲と調和し、穏やかな人生を歩めるようにと、亡き祖父がつけてくれたそうだ。

そんな大切な名前だったが、男性へと変化していく僕を見て、両親は名前の変更を許してくれた。

新たな名前は母が決めた。

「“和葉”が似合わなくなってきたね。季節が巡って葉が落ちたってことで、“和”(かず)はどう?」

異論はなかった。

僕は裁判所へ申し立てをした後、役場で手続きを終え、正式に“和”となった。

子宮の摘出をしなかったので、性別を男性にすることは出来なかったが、それでも新しい自分になれた気がした。

こうして僕は、戸籍上女性、社会上男性の人間として、確かに歩き出すことになったのだった。

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