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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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15/25

両親

初めて告白された。それも男の人に。

僕は慌てて手を解き、

「ごめん」

そう言ってその場を離れた。


菊池君はどれほど勇気を出して告白してくれたのだろう。

僕は過去に告白をした時、心臓が飛び出しそうなほど緊張したのを覚えている。それだけに、彼に対し簡単な言葉で振ってしまったことが申し訳なく思われた。


それから間もなくして、仕事を辞めた。

しかしそれは失意のうちの退職とばかりではなかった。

僕は就職してからこの3年、女性で生きることへの限界を十分に感じていた。


思い悩んだ日は、大学時代の友達、特にヒーコに相談した。

「セクマイのイベントがあるから、一緒に行ってみる?」

そう言って誘われたイベントで、当事者の人と繋がりができた。

色々な人と会ううちに、人生観が変わったのかもしれない。

僕は自分のアイデンティティを受け入れ、望む性で生きることを考え始めていた。


退職後、僕は実家に戻った。

両親は逃げ帰った僕を責めるでもなく、受け入れてくれた。

「これまでの経験は無駄じゃない。和葉がやりたいと思える仕事を、また探したらいいさ。」

父はそう言ってくれた。

母は僕が帰ったことで、むしろ嬉しそうだった。

(これから、この二人を悲しませることになるのは辛いな。)

そう思ったが、僕はもう心に決めていた。


夕ご飯が終わり、家族団らんの時間。

網戸の向こうから聞こえる鈴虫の音色が、テレビの音に混じっていた。

「お父さん、お母さん、ごめん。」

唐突に謝る僕を、二人が驚いて振り返る。

「なに?どうしたの?」

そう言った母は、僕のただならぬ雰囲気に触れ、一気に不安な顔になった。

「僕は、普通の娘じゃないんだ。ずっと、生まれたときから二人に嘘をついてきた。」

どう伝えたら、二人の傷が浅くて済むのだろう?――どんなに考えても答えが解らなかった。

「どういうことだ?」

怪訝な顔をする父。不安そうな母。

「僕は――」

ブワッと、涙が溢れた。

「僕は、心が男なんだ。」

やっと、言えた。

「性同一性障害なんだ。もう女で生きるのは嫌なんだよ。」

その瞬間、二人とも言葉を失ったようだった。

母の目が、みるみる潤んだ。

「――そうなのね。」

涙なんて見せたことのない父までが――泣いた。

「ごめんね。ごめんね。」

泣きながら、母は僕を抱きしめてくれた。

その温もりが辛くて、僕は嗚咽を漏らした。

言葉をたくさん交わすでもなく、ただただ、3人で泣いた。


翌朝、母の目は真っ赤だった。

おそらく床に入ってからも、泣いたのだろう。

本当に申し訳なくて、辛い出来事だった。

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