受容
あの日僕は、麻里奈にすべてを打ち明けた。
アルバイトで苦い思いをしていることや、セクシュアリティのこと。
――そしてナツキチと田辺さんのこと。
ひとつひとつ打ち明けていくうちに、心が軽くなっていくのを感じた。
麻里奈は真剣に耳を傾けてくれた。
僕はセクマイであることを不快に思われないか心配していたが、杞憂だったようだ。
「カズ、今まで辛かったんだね。私も今までカズを傷つけたことがあったかもしれない。」
麻里奈は分かろうとしてくれた。
僕はそのことが嬉しくて、温かくて、涙が出そうになった。
麻里奈は厳しい助言もしてくれた。
「カズは奥手だからチャンスを取り逃がすんだよ。本気で付き合いたいなら戦略練ってアプローチしないと。」
確かにそうだと思った。しかし、僕は本気で付き合いたかったのだろうか?
「僕と付き合うことが、彼女にとって良いことだと思えなくて――。」
そんな卑屈な僕に、麻里奈は喝を入れてくれた。
「良いことかどうかは、彼女が決めるの!相手のことを思いやるのはカズの良いところだけど、自分を貶めるのはダメだよ。」
そして、こうも言ってくれた。
「カズはいい男だよ。もっと自信持って。」
ちょうどその時、麻里奈にヘルプを頼まれていたヒーコが到着した。
着替えや、温かい食料を持ってきてくれた。
僕はヒーコにも、麻里奈にしたのと同じ話をした。
ヒーコはゆっくり頷いて、こう言った。
「私はカズがマイノリティだって、気付いてたよ。だって、私もマイノリティだもん。」
今度はこちらが驚く番だった。
「でもヒーコ、君は見た目は完全な女性だし、彼氏だっているじゃないか。」
ヒーコは少し笑って、教えてくれた。
「私はバイなの。男性にも女性にも恋することができるんだよ。」
ヒーコはナゼか誇らしげだった。
暴露大会が終わると、僕らは解散した。
後日、病院で卒倒の原因を検査したが、確かな理由は分からなかった。
僕はコンビニのバイトを辞めることにした。
それからは卒論制作に専念した。
乱れた生活習慣を見直し、自炊にも励んだ。
生活が整うと、頭が冴えて論文も捗った。おかげで僕は、卒論発表を無事に終えることができた。結果は最優秀賞こそ逃したものの、優秀賞を取ることができた。
「カズ、おめでとう。」
そう声を掛けてきたのはナツキチだった。ナツキチも卒論発表をしたが、入賞には至らなかった。
「ありがとう。ナツキチもお疲れ様。」
「カズの入賞祝いに、みんなで飲みに行こうぜ!」
ナツキチは上機嫌でそう言った。
僕は恋敵だったはずの奴に、この時清々しさを感じた。
(ナツキチには、敵わないな。)
その晩、麻里奈やヒーコはもちろん、卒論発表を終わらせた同期生の皆と飲み明かし、朝まで騒いだ。
久しぶりに腹の底から笑い、皆と一緒が楽しいと感じた。
「カズ、また飲みすぎだよ。」
麻里奈に小突かれた。
「今日は飲ませてよ。」
僕も上機嫌だった。
そして楽しくて切なくて、苦い味のした大学生活は終わりを迎えた。
最後まで、ナツキチに田辺さんとのことは聞けなかった。




