予感
努力の甲斐あってか、僕は実家近くのゼネコンに就職が決まった。
全国区ではないが、上場している企業だ。
友人たちも次々と就活を終え、あとは大学の卒論に力を入れるばかりとなった。
この頃、僕は大学の研究室で知り合った後輩の女の子と仲良くなっていた。
彼女はとても人懐っこく、勉強の相談に乗るうちに、公私ともに一緒にいる時間が長くなっていった。
人に頼られる経験の乏しかった僕は、彼女に特別な感情を抱くようになっていた。
ナツキチと一緒に自習室で論文を書いていたある日のこと。
「こんにちは、和葉先輩。」
淡いベージュの膝丈ワンピースに、薄手のカーディガン。
足元は低めのパンプスで、髪は耳にかける程度に整えられていた。
ふわっと石鹸の香りが漂う。
「おう。珍しいね、自習室に来るの。」
彼女に声を掛けられ、急に顔が熱くなるのを感じた。
彼女はふとナツキチの存在に気づき、
「お友達と一緒の時にすみせん、また今度にしますね。」
そう言って立ち去ろうとした。
「大丈夫だよ。何か聞きたいことがあったんじゃないの?」
僕は慌てて引き留めた。
「研究室の子?」
ナツキチがこれまた珍しく興味を持った。
「うん、同じ研究室の田辺さん。」
本名は田辺美保だけど、ファーストネームは言わなかった。
「こちらはナツキチ。僕の友達だ。」
田辺さんの方にも、自慢の友を紹介した。
彼女の相談に乗った後、三人で他愛の無い話をした。話は盛り上がり、その晩三人で飲みに行くことになった。
ナツキチと田辺さんは妙に気が合ったようで、それ以降三人で飲みに行くことが増えた。
飲み会を重ねる毎に、僕は二人の仲が親密になっていくことが少し気になっていた。
そしてある日突然、二人の空気が変わった――
近くで見ていたから分かる、何か言いようのない違和感だった。
二人の何気ない会話の端々に、“ただの友達”ではない波長があった。
(なんだろう。胸騒ぎがする。)
ある日、いつも通り三人で飲み、解散しようとした時のこと。田辺さんが少しふらついて転けそうになった。とっさに支えようとした僕より先に、ナツキチが手を出した。
「美保!危ないよ。大丈夫?」
ナツキチは彼女の名前を呼んだ。
(名前――知ってたんだ。)
僕は気が気でなかった。でも聞けなかった。聞くことですべてが壊れてしまう気がしたんだ。
決定的なことが起こったのは、違和感を感じ始めてからすぐのことだった。
僕はいつものように、コンビニでバイトをしていた。4年経っても馴染めない職場で、薄暗い寒空の中、店外で掃除をしていた時のことだ。
通りの向こうを、二人が――ナツキチと田辺さんが、親しげに手をつないで歩いているのを見た。
(...やっぱりな。)
予感が的中し、寒さが一層身に沁みた。




