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僕が私になるまで  作者: 海丸ひとつ


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10/25

違和

僕は実家の援助により、バイトをしたり奨学金を借りなくても、大学生活を送ることができた。

両親が何不自由なく育ててくれたことに、とても感謝している。

しかし僕は皆でバイトをしたあの日以降、定期のバイトを探していた。

皆より上手に出来なかった悔しさと、働くことへの憧れが芽生えたからだった。


やがて僕は下宿先近くのコンビニで、夕方以降バイトをすることになった。

報酬は県の最低時給だった。

仕事内容は、レジ打ち・品出し・ファーストフード作り・掃除・廃棄品の回収―――とにかく全部だ。

バイト先の店長は厳しく、僕はよく叱られた。

他にも学生のバイトはいたが、僕は仕事の飲み込みが悪く、浮いていた。

僕がレジをすると違算が出たし、品出しをすると並べた商品はガタガタで汚く見えた。

極めつけは、お客さんがレジで会計を待っているのに、全く気づかない――

(何でうまくできないんだろう。)

正解が見えないまま、空回りの連続だった。


一方、大学生活はすこぶる順調で、成績も良い方だった。

たくさんの友達と楽しく過ごし、大学にいる時はずいぶん、明るく過ごせるようになった。


そんなアンバランスな状態のまま時が過ぎ、僕は4年生になった。この一年を無事に過ごせば、来春で卒業だ。


4年生になっても、ナツキチ、麻里奈、ヒーコとは、ずっと仲が良かった。

これまでにも春には登山をし、夏は海で泳ぎ、秋は紅葉狩り、冬はスキーをした。

20歳が過ぎてから僕らはよく飲み会を開き、大学で知り合った人たちとも交流を深めた。

お酒が入ると僕はとても上機嫌になった。朝まで騒いだことも、何度もあった。

僕の飲み方を見てナツキチはよくこう言った。

「ヤケで飲んでるみたいだ。体壊すぞ。」

僕の飲酒する姿がよほど乱暴に見えたらしい。それでも僕はその飲み方を止められなかった。

――まるで、嫌なことを忘れるように。


4年生になっても、相変わらずバイト先では疎まれ、居場所が無かった。

初歩的な作業をなんとかこなすまでには成長したが、商品の受発注など、重要な仕事は最後までさせてもらえなかった。それでも4年間同じ場所で働き続けたのは、逃げたと思われるのが怖かったからだ。


大学最後の夏、いよいよ就活が始まった。あちこちで開かれる就職説明会に参加し、どんな企業があるのか、どんな新人を欲しがっているのか、話を聞いて回った。と同時に、一般常識を学び直し、就職試験に備えていた。

就活女子に欠かせないもの――

それは、レディーススーツとお化粧だ。僕は鏡の前で何度もお化粧してみたが、完成品はひどいものだった。

慌てて麻里奈とヒーコに指導をお願いした。


この頃になると、僕は自身を性的マイノリティだと自認していた。正確には、FTМ(Feemale To Mail)――性同一性障害であると。

それでも就活は女子として行うつもりだった。

法的に性別を変える手段があることは知っていたが、別の性で生きていく未来が見えなかったし、何より両親に申し訳なかった――


「カズは化粧映えする顔してるから、マスターしたらいい女になるよ。もう一回やってみて。」

麻里奈は励ましてくれた。

「あ、ありがとう。」

こちらから頼んだ手前もあり、熱血先生に向かって“もういいよ”とは言い辛かった。

隣を見ると、ヒーコに励まされて化粧するナツキチの姿があった。

二人目が合って笑った。

「ヒデー顔だな。」

ナツキチに言われた。

「お互い様な。」

言って返してやった。

僕らは似た者同士、同じ壁に直面しているようだった。

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