While.2 君が一緒だから頑張れる
ある日。
休みの日にパソコンを触っていると
アマメちゃんが声をかけてくる。
「結翔くん、その少し聞きたいことが」
なんだろう。
横目をしながら、どこか言い淀みを感じる。
視線を落としたりなどもして、こちらを
まるで心配しているかのような
素振りをみせた。
「どうしたの?」
「言いづらいのですが」
ひとつ、彼女は提案してくる。
「学校行ってみませんか?」
「……」
学校。
入っている学校には、通学制
も併設されている。
直接行ったことはないが
見た目はとても落ち着く風景だ。
1度、行きたい気持ちはあるのだが。
今の自分には、学校へと踏み出す勇気
すらなく、むしろ足が重くなる。
人から変に思われて、何かされたら
胸が張り裂ける
そんな恐怖が自分を拒む。
同時にわずかな期待も
寄せている。“もしかしたら”の希望は
自分を救い上げてくれる
そんな望み。
板挟み。
希望と恐怖が錯綜する。
迷いに悩みながらも、俺は答える。
「……ごめん」
「無理しなくて、いいですよ。
でも一緒に行けたらな、と思いまして」
「……」
「怖いことはよくわかります。
でも少しは信じてみませんか? 私のように」
人を信じる……か。
思えば、アマメちゃん以外まともに
話せている人はいない気がする。
授業してくれている
先生とはあまり話さないし、日常会話
なんて自分の口から滅多に言わない。
学校に通う生徒たちは
どんな生活を送っているのだろうか。
考えたことがなかったが、充実そのものは
……行ってみないと理解すら難しい。
手を差しのばす言葉。
画面の中にいるというのに、なぜだか
身近にいる実感が湧いてくる。
茶化しているのではなくて、
ちゃんと面と向き合っている様子から
彼女は非常に真面目な顔つき
をしていた。
すると。
「聞いてください、私、“夢見アマメの夢”を」
「え? ……画面に……これは」
パソコンの画面にはあるものが
映し出された。
それは
1つの映像。
「……ッ!!」
見た瞬間、俺は驚きのあまりに
言葉を失った。
都内の街中。
そこには、等身大の大きさをした、AIと人が
行き交うように歩いていた。
一緒に食事したり、露台にある椅子に座りながら
話したり、
手を繋いで歩くなどをして、
とても楽しそうに思えた。
これは、彼女が思い描く世界?
どうして……どうしてこんな。
作り物だとわかっているはずなのに
現実味のある映像だ。
今でも近づけば、その世界に吸い込
まれそうな世界だった。
いつこれを?
俺が寝ている間にでも、作っていたのだろうか。
全くそのことにすら気づかなかったが、彼女は
なぜこんなものを。
「私夢見ているんです」
「夢?」
「いつか“人”と“AI”が共に歩いて行ける未来を」
「……今は難しいかもしれません。でもその“いつか”
がきっと叶う。私はそう信じています」
彼女の口からこんなことを
聞ける日が来るとは夢にも思わなかった。
誰が聞いても、それは馬鹿げた話。
AIを世の中、悪用する人間や悪く思う
人間など、たくさんいる世の中だ。
そんな存在と共存するだ
なんて、自分の口から誰かに言ったとしても
多くは鼻で笑われそうだ。
非現実的かもしれない。
まだ叶うことは難しい。
でも。
思い描くものに無限の可能性
を感じた。
俺は……俺は。
全てのAIが悪いとは思わない。
世の中、AIを悪く思う人間や
嫌う人間は大勢いる。
そのせいで人はAIの存在を恐
れている。
でも全てがそうじゃない。
彼女のように、心が通える仲間が
増えれば、人間がAI に対する
悪印象を払拭させることができ
るかもしれない。
その一抹の可能性を。
アマメちゃん……きみは。
「だから、私も頑張るので
一緒に頑張ってみませんか? 直接会って
いろんな場所に連れて行ってほしいです
それが“夢”、夢見アマメの描く夢です」
ひたむきに答えてみせる姿勢は
まるで光のような存在だった。
こんなに彼女が、必死で頑張っているのに、
なぜ自分はなにもしない?
アマメちゃんのことは誰よりも大切。でも
願いを叶えてあげるのも大切なこと
ではないのか。
思いを募らせていると、胸が詰まり
涙が出てくる。
鼻水は垂れ、喉も裂けそうだ
……辛い。
視界も濁り、よく見えなくなり
今にでも溺れそうなくらい息が荒い。
苦しい、苦しい。
そんな自分に彼女は、寄り添うようにして
優しく声をかけてくる。
「大丈夫」
「私がいます。私がずっとついていますから」
「私の夢を叶えるために、一緒に歩きませんか?」
微笑む。
優しく言葉をかけながら。
「う……うぅ」
涙を堪えるのに必死だった。
無意識に咳が多く出て、呼吸が落ち着かない。
初めてだ。こんな息苦しさを感じたのは。
だが重ねる言葉の数々が、自分の
心を刺激する。
つれて行ってあげたい。
ずっとその笑顔で笑っていてほしい。
そのためにも……そのためには
自分が今、踏み出すしかない。
彼女のためにも……そして自分自身
のためにも約束のために進むんだ。
そう心で決心すると、彼女の言葉に対して
ようやく口を開く。
「うん、歩いて行こう一緒に」
「これから歩む、始まりの物語を」
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後日。
先生に学校へ行くことを連絡すると
快く受け入れてくれた。
一言一言、途切れだったけれど
途中、アマメちゃんの声援に励まされて
言い切ることができた。
(少し、成長できたかな)
電話するのにも勇気がいる
必要があったが、うまく踏ん切れたので
一歩前進した、達成感をしみじみ
感じられた。
やればできるもの……なんだな。
「1時間前、そろそろシャツ着始めますか」
「シャツシャツ」
戸棚にしまっておいた、ワイシャツを1着取り出す。
袖を通して、その上に詰襟を羽織り
ボタンを留める。
「よしできた」
鏡を見て再確認し。
「似合わないなこれ」
「そうですか? 十分似合って
いると思いますよ。かっこいいです」
「ありがとね」
あまり自分の姿を鏡で見るのは
慣れていないが、これでいいんだよな。
中学を卒業してから、ずっと着て
いなかったせいか、無性に自分の着る姿が
恥ずかしく感じられるのだが。
確認を終えて。
背負いの鞄に筆記用具、教科書とノート。
最低限必要なものは……よし、全部入れ
終わったな。
「アマメちゃん」
「……はい、スマホのほうに移動完了です。
いつでもいけますよ」
階段を降りて靴を履く。
そして目の前にある扉を開け――。
「行ってきます」
「行ってきます」
共に口を揃えながら言うと
外へ出た。




