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夢を叶える料理店  作者: 名無しの旅人


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9/19

第3話・中編 揺れる進路、揺れない心 ― 颯太 ―

翌日。


教室の窓から見える空は、やけに高く澄んでいた。


颯太は、机の隅で小さなノートを開いていた。


昨夜、もらった無地のノート。


何を書くのかも決めないまま、一行だけ書いて眠った。


《バスケ、嫌いじゃない》


その文字をなぞりながら、胸に引っかかる違和感を噛みしめる。


――嫌いじゃない。

でも、“好きだ”とも、言い切ってない。


授業中。


教師が言う。


「進路希望票、来週提出だからな」


クラスの空気が、わずかに張り詰めた。


周囲から聞こえる、小さな声。


「推薦どうする?」

「模試E判だった……」


進路という言葉が、教室中を支配していく。


颯太は、白紙のプリントを見つめていた。


書くべき未来が、見えない。


放課後、部室。


ボールの音が響く。


基礎練習の時間。


ドリブルをしながら、昨夜の料理人の言葉を思い出す。


――“準備期間”。


そんな言葉で、焦りは消えない。


「……」


シュートを放つ。


外れる。


リバウンドが、床に跳ね返る。


「最近、シュート率落ちてね?」


チームメイトが言った。


「……まぁ」


軽く返すが、内心は強く揺れた。


集中できていないのは、自分でもわかっている。


バスケをやめる理由探しをしている自分と、続けたい気持ちを否定しきれない自分が、コートの上で、ぶつかり合っていた。


練習後、一人残って、再びシュートを打つ。


ぼすっ――ネットが揺れた。


久しぶりに決まった一本。


胸が、少しだけ熱くなる。


――やっぱ、楽しいよな……。


帰り道、ノートを取り出す。


ベンチに腰掛け、書き足す。


《シュートが決まると、嬉しい》

《勝った試合の夜は、眠れなかった》

《負けた日は、めちゃくちゃ悔しい》


書いているうちに、次々と思い出が溢れてくる。


《初めてレギュラー取れた日のこと、ずっと覚えてる》


「……あ」


ふと、気づく。


迷い続けているくせに、バスケのことだけは、やたら詳しく書ける。


家に帰り、夕飯。


母親が言う。


「志望校、そろそろ決めなきゃね」


「……うん」


父親は、新聞を畳みながら言った。


「スポーツ推薦、来てる学校もあるって言ってたな」


「……」


推薦。


簡単な道。


と同時に――重たい選択。


「大学行って、何になるんだ?」


「分からない」


「……なら、無理に行かなくても――」


母が口を挟む。


「続けてきたことは、無駄じゃないでしょ。続きの場所として、大学って選択もあるよ」


母の声には、優しさと、期待が混ざっていた。


期待。


それが、怖い。


――応えられなかったら?


部屋に戻り、布団に寝転ぶ。


天井を見つめ、ノートを胸に抱える。


料理人の言葉が、再び響く。


――“続けるか、辞めるか、どちらも間違いじゃない”。


「……でも……」


つぶやく。


もし、続けて中途半端だったら?


結果が出なかったら?


努力して、何も得られなかったら?


それが、一番怖い。


――怖いのは、挑戦じゃなくて、“失敗を形にすること”なのか。


ノートに、迷いを書き出す。


《頑張っても、報われないかもしれない》

《やるなら、意味が欲しい》


書いた直後、ため息が漏れる。


「……意味は、結果だけじゃないって言ってたな」


料理人の声が、脳裏で重なる。


週末。


部室で、顧問が言った。


「来月、練習試合入れた。スカウトも来るらしい」


胸が、跳ねた。


「……マジすか」


「お前、出せるから、しっかり準備しろ」


声が、震える。


評価されるチャンス。


同時に、逃げたかった。


夜。


また、颯太は、あの路地に立っていた。


無意識に、足が向いていた。


――あの店、もう一度……。


だが。


路地に、灯りはなかった。


いつもの闇だけ。


「……来たいって思ったら、来れないのかよ……」


料理人の言葉を思い出す。


――“必要な時にしか、現れない”。


拳を、強く握る。


――今、必要なのは……背中を押されることじゃない。


“自分で、選ぶこと”なんだ。


ノートを取り出す。


大きく、一行、書く。


《一度、本気でやる》


胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。


怖い。でも、逃げ続けるよりマシだ。


何者にもなれなくてもいい。

“今、全力だった自分”だけは、残る。

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