エピローグ〜すずねの新たな日記〜
その夜、すずねは初めて手に入れた自分の日記帳を開いた。部屋は見違えるように整い、洋服ダンスやテーブル、テレビまでが並ぶ中、彼女の手には小さなペンが握られている。
地下牢での寒さや恐怖がまだ体に残るようで、指先が少し震えた。でも、たー君が持ってきた暖かさが心に広がり、初めて自分の気持ちを言葉にしてみようと思った。ページにペンを走らせながら、彼女は静かに呟いた。
「今日、たー君が私の主様になった。朝、薄っぺらい布団で震えていた私を、彼は助けてくれた。あの時、寒さで体が動かなかったのに、たー君のドヤ顔で部屋に入ってきた瞬間、なんだか安心したんだ。
ファンヒーターや新しい布団を運んできてくれた時、信じられなかった。こんな贅沢なものを、私みたいな奴隷に?以前の主人は私を物としてしか見てなかったから、たー君の行動はまるで夢みたいだった。
喧嘩の約束とか、アホらしいくらい元気だったけど、その裏に優しさがあった。最初は怖かったけど、だんだんその大声も愛おしく感じてきたよ。」
すずねはペンを止めて、部屋の暖かい空気を吸い込んだ。窓の外は暗く、遠くの風が木々を揺らす音が聞こえる。彼女の心の中では、地下牢での辛い日々がフラッシュバックした。
「以前の主人は、私を働かせては鞭で打ち、笑いものにしていた。あの暗い牢獄で、希望なんて言葉は遠い存在だった。
でも、たー君は違う。彼が『奴隷を買うのはその人生を買うことだ』って言った時、胸が熱くなった。前の主人がボコボコにされたって聞いて、ちょっと笑ってしまった。
たー君の乱暴なやり方だけど、私を人間として扱ってくれた初めての人だよ。ラーメンに行く約束も、喧嘩の約束も、全部が新鮮で、なんだか生きてるって感じがした。」
日記を続ける手が、少しずつ力強さを増していく。すずねは目を閉じて、たー君の笑顔を思い浮かべた。
「今日、たー君が部屋をこんなに変えてくれた。洋服ダンスもテレビも、私のために?信じられなかった。服を買う約束や、目覚まし時計を探すって言ってくれた時、涙が出そうになった。こんな幸せ、夢じゃないよね?
たー君のおかげで、初めて自分の意志で何かを選べる気がする。明日、ラーメンを食べに行くのが楽しみだ。たー君と一緒に笑いながら、美味しいスープを味わいたい。
喧嘩の約束も忘れてないみたいだけど…たー君と一緒なら、なんでも頑張れそう。」
ノートに書く文字が、最後には優しい曲線を描く。すずねはペンを置いて、布団に深く潜り込んだ。
「主様…ありがとう。前の主人の下では考えられなかったことだよ。たー君がいてくれたから、生きる意味を少し見つけられた気がする。明日から、新しい服を着て、たー君と一緒に外を歩いてみたい。まだ怖いけど、たー君の側なら、少しずつ強くなれるよね。次は、私もたー君に何かお返ししたい。ラーメン屋で、私が奢る番にしてみようかな。」
日記を閉じ、すずねは小さく微笑んだ。暖かい部屋で、初めて穏やかな眠りに就く。窓の外の風が静かに歌う中、彼女の心は新たな一歩を踏み出していた。




