097. バルドの思いと本拠地
4月7日1回目の投稿です
エリアスは視線をゆっくりと巡らせ、集まった顔ぶれを再確認するように頷いた。
「これで創舎のメンバーと導き手が確定したな」
メンバーは、ツムギ、エリアス、ハル、リナ、ナギ、エドの六名。
そして、導き手としてジン、バルド、イリアが名を連ねる。
「創舎を運営していくにあたって、まず決めなければならないのは、本拠地と資本金、そして組織の方向性や役割分担だ」
エリアスは冷静に話しながら、手元のノートを開く。すでにまとめられた議題がそこに記されていた。
エリアスは手元のノートを一瞥し、集まった皆を見渡した。
「まずは、本拠地について決めよう」
そう切り出した瞬間、バルドが腕を組みながら口を開く。
「それなんだが……」
全員の視線がバルドに集まる。彼は少し顎をさすりながら、ゆっくりと続けた。
「実は、王都の城下町にわしの家が一軒あるんだが。よければ、そこを本拠地として使ってくれんか?」
バルドの思いがけない提案に、ツムギをはじめ、皆が驚きの表情を浮かべた。
「バルド先生、なにをおっしゃってるんですか!?」
ツムギが戸惑いながら尋ねると、バルドは豪快に笑い、腕を組んで続けた。
「もともと使っておらん家だからな。作業場に店舗、それぞれの部屋を作るくらいの広さは十分にある。住みたい者がいれば住んでも構わんし、改築も好きにすればいい。定期的に掃除もさせとるから、すぐにでも使えるぞ」
ツムギは信じられない思いでバルドを見つめた。広い家があったとしても、それを無償で使わせるなんて、そんな話は ツムギは今まで聞いたことがない。
「でも……今ですらお世話になってばかりなのに、そこまでして頂くのは申し訳なくて……」
そう問いかけると、バルドはわずかに目を細め、どこか楽しげな表情を見せた。
「わしにとっては、ただの空き家だ。それよりも、おぬしらが有効に使う方が、よほど価値があるだろう。」
さらに、ふと思いついたように、にやりと笑う。
「そうじゃな……どうせなら、わしの部屋も作ってもらって、そこに住むのもいいな」
「えっ!? 先生、住むんですか!?」
思わずツムギが声を上げると、バルドは当たり前のように頷いた。
「おぬしらがちゃんとやっとるか、見張らんとな」
その言葉に、ツムギは目を瞬かせ、ジンは苦笑し、エリアスは何も言わずに微かに肩をすくめた——が、誰も反対はしなかった。
バルドはふっと笑みを浮かべ、続ける。
「あそこは今すぐ商売に向いた立地ではないが、いずれ王都のメインストリートに店を構える時に、その店舗と作業場を転移魔法陣で繋げることができたら、楽しいだろうな」
「転移魔法陣……!」
ツムギが思わず息をのむ。転移魔法陣とは、遠く離れた場所を一瞬で繋ぐ特殊な魔法陣。高度な技術が必要なため、今はまだ扱うことができないが、考えただけでもワクワクする。
「もちろん、わしもまだ転移魔法陣については研究中だし、ツムギも今は作れんじゃろう。だが、そういう目標を持つのも、なんかロマンがあるだろう?」
バルドの言葉に、ツムギの胸が高鳴る。夢のような話だが、目指すべき未来の一つとしては、確かに魅力的なものだった。
バルドはふっと真剣な表情になり、続ける。
「いずれ本拠地を別の場所に移すことになったとしても、わしの家が創舎の資産になるなら、それはそれでいい。もし希望があるなら、創舎名義に変えてもいいぞ」
その場にいた全員が、一瞬息をのむ。
「そ、それって……つまり、バルド先生の持ち家を、そのまま創舎のものにしてもいいってことですか?」
ツムギが驚きながら聞くと、バルドは頷いた。
「そういうことだ。わしには子供も守るべき家族もおらんしのう。せっかく作るんじゃ、腰を据えてやる方がいいだろう?」
その言葉に、ツムギは胸がいっぱいになった。自分たちが目指す未来に、こんなにも力を貸してくれる人がいることが、ただただ嬉しかった。
けれど——。
「でも……先生のご厚意に甘えすぎるのは、さすがに申し訳ないです。少しずつでも、お支払いさせてください」
ツムギが真剣な表情で申し出ると、バルドは「なんだ、おぬし」と呆れたように眉を上げた。その反応を見て、エリアスも小さく笑いながら頷く。
「それが妥当だな。いくらバルドさんのご好意とはいえ、創舎の正式な拠点となる以上、曖昧なままではいられない。契約を交わしておくのが一番だろう」
「私もその方がいいと思うわ」イリアが腕を組み、冷静に続けた。「後々のトラブルを防ぐためにも、きちんと契約として形にしておくべきね」
ジンも「そうだな」と頷き、「正式な手続きを踏んでおけば、お前たちも気兼ねなく使えるし、創舎の資産として計上することもできる」と話す。
エリアスはスッと立ち上がり、手帳を開いた。「では後日、導き手の審査書類と一緒に、契約書も作成しよう。それでいいか?」
「はい、お願いします!」ツムギは力強く頷いた。
これで、本拠地の問題は一歩前進した。まだやるべきことは多いが、確実に形になっていく感覚がツムギを勇気づけた。
そんな話し合いの一方で、若者チームはすでに別の方向で盛り上がっていた。
「作業場、どんな感じにする!? 大きな作業台とか、道具をいっぱい置ける棚とか……!」
「ええなぁ! せっかくなら、生地を広げられるスペースも作りたいし、うちの事務作業スペースや、販売スペースも欲しいな!」
「自分の部屋も持てるんだよね!? どんな風にしようかな〜!」
エド、ナギ、リナ、ハル、そしてぽても交えて、まるで遠足前の子供のようにワクワクしながら話している。
「ぽぺ!(ツムギの部屋も決めなきゃ!)」
「えっ、私の部屋……?」
「そりゃそうやろ! ツムギの作業場もいるし、寝泊まりできる部屋もあった方がええやん!」
「そ、そうだね……!」
みんなの勢いに圧倒されながらも、ツムギの心は温かく弾んだ。
今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。
明日もと夜(20時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。




