096. 創舎設立の為の話し合い
4月6日1回目の投稿です
—— 「おはよう! 今日はよろしくね!」
工房の扉が開くたびに、ツムギは笑顔で迎え入れた。すでに何人かは集まり始め、いつもの工房が少し賑やかになっている。ナギが持ってきた布見本を広げ、リナがコーヒーを淹れ、エドは早くもノートを広げながら考察を始めていた。
もともと、こんなにスムーズに皆が集まれるとは思っていなかった。予定を合わせるのに手間取るかもしれないと心配していたが、エリアスが迅速に調整してくれたおかげで、驚くほど早く話し合いの場を設けることができた。
さすが、できる男……!
ツムギは密かにエリアスへの感謝を噛み締めながら、工房を見渡す。すでに集まった仲間たちの姿に、これから始まる新しい挑戦への期待が高まっていくのを感じていた。
工房の奥では、すでにエリアスが広げた資料を前に、ジンとバルドが話し合いを進めていた。ツムギもその輪に加わり、エリアスの手際の良さに感心しながら、耳を傾けていた。
「資金の流れについては、大まかな計画を立てた。初期費用はある程度国から調達できるが、今後の運営を考えると収益の仕組みを明確にする必要があるな」
エリアスが冷静に話を進めると、ジンが頷く。
「なるほどな……まだ始まったばかりの制度だとは聞いていたが、思った以上にしっかりした枠組みになっているな」
バルドも腕を組みながら感心したように言葉を挟む。
「国からも援助があるのか。これは中々、若者が挑戦しやすい仕組みになっておるな。良い制度じゃないか」
ツムギは三人の話に頷きながら、内心で、本日何度目かの『さすがエリアス、仕事が早い……!』を呟いていた。すでに創舎設立の土台が固まりつつあることに驚きながら、エリアスの準備万端ぶりに、改めて心の中でお礼を言う。こんなにしっかり整えてくれるなんて……本当に頼もしい。
そして時間ぴったりに、イリアとハルが到着した。
「ごめんなさい、少し遅れたかしら?」
イリアが涼しげな顔で工房に入ってきたのに続き、ハルが小さく手を挙げる。
「わー、すごい! もうみんな集まってる!」
ぽては、ハルの声を聞いた途端、ふわっと宙を舞い、一直線に彼のもとへ飛んでいった。
小さなふわふわの体がぴょんっとハルの腕に飛び込み、すりすりと頬を寄せる。ハルはくすぐったそうに笑いながら、そっとぽてを抱え直していた。
そんなことをしている間に、全員がそれぞれ席につくと、エリアスは軽く手を叩き、場の空気を引き締めた。
「では、全員揃ったようだね。始めようか」
エリアスは軽く咳払いをし、工房に集まった面々を見渡した。
「本日は、お集まりいただきありがとうございます」
その一言で、ざわついていた場の空気が引き締まる。エリアスは落ち着いた声で続けた。
「今日は、ツムギの創舎設立に向けた話し合いの場となります。まず、確認しておきたいのですが——ツムギ、君は創舎を作り、この場にいる皆さんと共に活動していきたいと考えている、ということで間違いないですね?」
ツムギは真剣な表情で頷いた。
「はい。私は、一人ではできないことを、皆さんと力を合わせてやっていきたいと思っています」
エリアスは満足げに頷き、再び視線を皆へ向ける。
「ありがとうございます。さて、ここにいる皆さんは、ツムギの創舎にご参加いただけるということで、本日ご足労いただきましたが——改めて、それで問題ないか確認させてください」
エリアスの言葉に、一瞬の沈黙が落ちる。しかし、それはただの躊躇ではなく、それぞれが自分の意思をしっかりと確認するための時間だった。
最初に口を開いたのはナギだった。彼女は大きく頷きながら、ツムギを見てにっこり笑う。
「もちろん! 私はツムギと一緒にものづくりをするのが楽しいし、今までも手伝ってきたしね。正式に参加できるのは嬉しいよ! 創舎では、生地に関することなら任せて!」
次に、リナが軽く肩をすくめながら、にやりと笑う。
「もちろん、異論なんてあるわけないやん。ツムギの作るもんには可能性しかないし、それを世に広めるんやったら、ウチも全力で手伝わせてもらうで!」
ハルは少し緊張した様子だったが、それでも真剣な眼差しでツムギを見つめ、力強く頷いた。
「ぼ、僕も! まだ出来ることは少ないかもしれないけど、冒険者にもなるって決めたし……! 創舎のために面白い素材を見つけて、少しでも役に立ちたい!」
エドは待ってましたと言わんばかりに胸を張る。
「僕はもう決めています! ジンさんを師匠と仰ぎ、創舎で学びながら、ツムギさんのアイデアを形にする手助けをしたい! ギミック部分は僕に任せてください!」
イリアは腕を組みながら静かに頷く。
「……私も協力するわ。ツムギのものづくりの力は、商売としても十分価値がある。手を貸さない理由はないわね。まずは、リナを一人前に育てるところから始めましょうか」
ジンはツムギの隣で頷きながら、穏やかに言う。
「ツムギが挑戦するなら、俺も支えるぞ。創舎のことはまだまだ未知数だが、お前が仲間と共に成長できるなら、これほど嬉しいことはない」
バルドは腕を組み、当然のように言い放つ。
「わしがツムギの導き手じゃからな。当然、最後まで面倒を見るつもりじゃ」
全員の意志が明確に示された。エリアスは満足そうに頷き、一度場を見渡してから、静かに言葉を紡いだ。
「では、最後に私の意志も伝えておこう。
ツムギ、君の創舎が本気で未来を見据え、ものづくりを極め、そして商売としても成立させるつもりなら、私も正式に参加しよう」
イリアが「やっぱりね」と微笑み、リナが「まぁ、そうなるやろな」と肩をすくめる。
エリアスはツムギをまっすぐ見つめ、さらに言葉を続けた。
「君の作るものは、ただの品物ではない。そこに込められた発想や技術、そして想い——それらすべてが、この世界に新しい価値を生み出す力を持っている」
その声には、どこか確信めいた強さがあった。
「だからこそ、私は証契士として、それをしっかりと守り、育てる役目を引き受ける。君たちが安心してものづくりに打ち込めるよう、契約の管理、商標の保護、交渉の場での後ろ盾——すべて引き受けるつもりだ」
ツムギの胸がじんわりと温かくなる。自分が生み出すものに、ここまで真剣に向き合い、支えようとしてくれる人がいる。そのことが、ただただ嬉しかった。
「もっとも、私は甘やかすつもりはない。創舎として世に名を広めるなら、それなりの覚悟と責任を持つことになる。それでも構わないな?」
ツムギは感激に胸を詰まらせながら、深く頷いた。
今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。
明日は夜(19時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。