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095. エリアスとエドのプレゼン

4月5日1回目の投稿です。

 ジンは穏やかに微笑みながら、エドの肩を軽く叩いた。


「ツムギ、いい仲間が早速一人見つかったな」


 エドは少し照れくさそうに目を伏せたが、それでも頬は嬉しそうに緩んでいる。ツムギも胸がじんわりと温かくなり、心の中でこれからのことに思いを馳せた。


「創舎を作るなら、エリアスに相談してみたらどうだ?」


 バルドの言葉に、ジンもゆっくりと頷いた。


「あいつなら力になってくれるだろうしな」


「確かに……そうですね。今、連絡してみます!」


 ツムギは魔導通信機を手に取り、魔力を込める。


 —— 《エリアスさん、こんにちは。実は創舎を作る決心を固めたので、相談に乗っていただきたいんです》


 少しの間を置いて、通信機が淡く光る。


 —— 《やはり作ることになったか。そうなるだろうと思って、もうすでに少しずつ準備を始めていたから、一度そちらに行く。色々話を詰めよう。その時に呼びたい人がいるなら、こちらで調整して日時を決めるから教えてくれ》


 エリアスの冷静な声が届く。ツムギは相変わらずのエリアスの仕事ぶりに、嬉しくなりながら、考えていたメンバーの名前を挙げた。


—— 《ナギ、ハルくん、お父さん、バルド先生、イリアさん、リナさん、まだご存知ないと思いますが、最近知り合ったエドさんにも、声をかけたいです》


—— 《了解した。私が連絡を取れない人との調整は、ツムギがやってくれ。詳細は後日決めよう。準備が整ったら、また連絡する》


「エリアスさん、準備を進めていてくれたみたいで、一度こちらに来てくれるそうです!」


 ツムギが顔を上げると、ジンやバルドは「さすがだな」と感心したように頷いた。


 ジンが腕を組みながら、ゆっくりと口を開く。


「実は俺もこの間、商会や工房制度と一緒に、調べてみたんだけどな、創舎ってのはまだ始まったばかりの制度らしい」


 バルドも深く頷きながら続ける。


「わしもこの間ツムギに聞いてから、知り合いに色々と聞いてみたが……導きメンター制度なんかもあって、若い職人が挑戦しやすい仕組みになっとる。なかなか考えられた制度じゃよ」


 「導き手……?」


 ツムギとエドが同時に首を傾げると、バルドは得意げに説明を始めた。


「導き手ってのは、創舎に所属する若い職人たちを支える存在じゃな。要は経験のある者が後ろ盾となり、商売や契約を助けたり、技術の育成を担ったりする制度のことじゃ」


 ジンも頷きながら言葉を継ぐ。


「若い職人たちは、技術があっても商売の駆け引きには疎いことが多い。そこで、導き手が不利な取引を防ぐための交渉を助けたり、トラブルがあった時に間に入って解決したりするんだ」


 「なるほど……じゃあ、創舎に所属する人たちが、不利な取引をしないように、契約の手助けをしてくれる役割もあるんですね」


 ツムギは思わず感心した。

 おそらく、前世でいうところのメンター的な存在なのだろう。

 まだまだ未熟な自分たちが、ものづくりに集中できるよう支えてくれる人がいるというのは、とても心強い。創舎という制度が、ただの職人の集まりではなく、しっかりとした仕組みのもとに成り立っているのだと改めて実感した。


 「ふむ、それに創舎の信用にも関わるからな。ちゃんとした導き手がついている創舎は、外部からの評価も高くなる。つまり、職人たちが安心して活動できる環境を作るための制度でもあるわけじゃ」


 バルドがそうまとめると、ツムギは深く頷いた。


 「私の導き手って……やっぱり、お父さんやバルド先生になるんでしょうか。もちろん、お二人にお願いしたい気持ちはあるんです。でも……制度の説明を聞くと、導き手には負担ばかりかかってしまう気がして……。そんな責任の重い役目を頼んでしまっても、本当にいいのかなって……」


 「何を言っとる。わしにとってツムギは孫みたいなもんじゃ。そんな大事な孫の成長を、特等席で見守れるんじゃぞ? そんな役目、誰かに譲る気はさらさらないわ!」


 バルドは腕を組み、誇らしげに胸を張った。その堂々たる態度に、ツムギは思わず目を瞬かせる。


 ジンはそんなバルドの様子に苦笑しながらも、優しくツムギの頭を撫でた。


 「バルドさんの言う通りだ。お前のためになることをやらないなんて選択肢、俺にはないさ。俺にできることがあるなら、迷う理由なんてない」


 二人の温かい言葉がツムギの胸に染み渡る。守られている安心感と同時に、それに応えたいという思いが芽生えていくのを感じた。

 創舎を作るということは、簡単な道のりではない。けれど、こうして支えてくれる人がいるのなら——きっと大丈夫だ。


 ツムギが二人の親心に感動し、決意を新たにしていると、エドがわざとらしく「コホンッ」と咳払いをした。


 その不自然な音に、ツムギやジン、バルドが同時に視線を向けると、エドはどこか決意を固めたような顔で、真剣に立ち上がった。


 「僕も、お願いがありまして……!」


 その前置きに、ツムギは「え?」と瞬きをする。


 エドは一度大きく息を吸い込み、背筋をピンと伸ばした。そして、まるで大舞台でのプレゼンでも始めるかのように、堂々と語り出す。


 「ツムギさんの創舎に加わるからには、僕も全力で支えていきたいと思っています! ですが、まだまだ未熟な僕がツムギさんの役に立つためには、さらなる技術の習得が不可欠です! そこで……!」


 エドは胸に手を当て、視線をジンに向けた。


 「ジンさん! 僕を弟子にしてください!!」


 ツムギの目が大きく見開かれた。


 バルドが「ほう」と興味深そうに腕を組み、ジンは驚いた表情を見せながらも、しっかりとエドを見つめている。


 「僕は、アタッチメントに衝撃を受けました。あの仕組みは、まさに革命的だ! しかし、それを生み出したのがツムギさんの発想であり、ジンさんの技術であることを知り、ますますそばで一緒にものづくりがしたいと実感しました。だからこそ、学びたいんです! アタッチメントの技術はもちろん、それだけでなく、ジンさんが培ってきたものづくりの知識や技術、すべてを学びたい!」


 エドは拳を握りしめながら、熱意を込めて続ける。


 「もし、僕がジンさんの弟子になれば——」


 ここで彼は一拍置き、まるで商談の場で交渉するかのように指を一本立てた。


 「まず! ツムギさんの手が回らない作業を、僕が補佐できます! ものづくりに集中したいとき、サポートがいれば効率もぐんと上がるはず!」


 次に、もう一本指を立てる。


 「さらに! 技術を学ぶことで、創舎全体のものづくりのレベルが向上します! つまり、ジンさんの技術を僕が学べば、それが巡り巡って創舎の成長にもつながるというわけです!」


 三本目の指が立つ。


 「そして何より! ものづくりへの情熱なら、誰にも負けません! 誰よりも食らいついて、全力で学びます!」


 エドは最後に両手を広げ、決め台詞のように言い放った。


 「以上の理由から! 僕を弟子にすることは、ジンさんにとっても、ツムギさんにとっても、創舎にとっても、最高の選択だと確信しています!」


 ツムギは口元を押さえ、笑いを堪えている。バルドは「ははっ」と笑いを漏らす。ジンは呆れたように苦笑しながらも、その眼差しにはどこか楽しげな色が浮かんでいた。


 「……プレゼンまでして、弟子入り志願とはな」


 ジンは腕を組み、少し考えるように目を細めた。そして、じっくりとエドを見つめながら口を開く。


 「そんなに熱意があるなら、試しにやってみるか?」


 エドの顔がぱあっと輝く。


 「本当ですか!? ありがとうございます!!」


 彼の弾けるような笑顔に、ツムギもほっと息を吐きながら、心からの笑みを浮かべる。


 そんなエドの満面の笑みににジンが苦笑いをしながら、


「しかし、エドも面白いな。面白いやつは大歓迎だ!エドは王都に住んでいるのか?もし行き来が大変な時は工房の二階に泊まるといい。ツムギもバルドさんの工房にそうしてもらってるからな」


「えっ、本当ですか!? ありがとうございます! ぜひ使わせてください!」


「わしの工房の弟子部屋も、今やツムギ専用みたいになっとるしな。まあ、住み込みの弟子がいないなら、使ってもらった方がいいだろう」


 エドは「おぉ……!」と感激しながら、ツムギの方を見て興奮気味に話し始める。

「じゃあ、ツムギさんとももっとじっくり研究や試作ができるんですね! これからが楽しみです!!」


 ツムギはその熱意に思わず笑みをこぼす。

「はい! 一緒にたくさん試作しましょうね!」


 エドがますます嬉しそうに頷くと、ぽてもふわりと舞い上がって、「ぽぺ!(賑やかになりそう!)」と弾んだ声をあげた。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日も夜(19時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。

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