094. エドの魔導通信機とティータイム
4月4日1回目の投稿です
その頃、金属加工チームも、腕輪部分が完成し、大騒ぎをしていた。
「できたぞ!!」
バルドが腕を組み、満足げにうなずく。ジンは微笑みながら仕上がりを確認し、エドは目を輝かせながら、自分たちの作った腕輪をじっと見つめていた。
腕輪はしっかりとした金属製で、手首のカーブにぴったりフィットするよう、細かい金属を組み合わせて作られている。デザインは、余計な装飾を省きながらも洗練された仕上がりになっており、シンプルながらも重厚感があり、エドの希望した、『手首にフィットするブレスレット型』にふさわしいデザインだ。
「よし、ツムギ。お前の透輝液のパーツをはめ込んでみろ」
バルドの声に、ツムギは頷き、慎重に透輝液のパーツを腕輪の中央のアタッチメントにセットした。
エドが息を呑む。パーツがはめ込まれると、まるで元々そうあるべきだったかのように腕輪と一体化した。透輝液の透明な輝きと、ヴィンテージの歯車の繊細な造形が、金属の質感と絶妙に調和し、エドにピッタリの腕輪となっていた。
「じゃあ……エドさん、触れてみて?」
ツムギがそっと促すと、エドは緊張した面持ちで腕輪に指を添えた。
——ふわり。
瞬間、穏やかな風が工房の中を舞い、透輝液のパーツが淡い光を放ち始める。まるでそれ自体が息を吹き返したかのように、じんわりと魔力が満ちていくのが分かった。
ツムギはそっと自分のマントどめに触れ、ぽてのマントどめ、バルドとジンのループタイにも順番に触れさせていった。魔導通信機が、それぞれの持ち主を認識し、繋がっていく。
—— 《エドさん、聞こえますか?》
ツムギが試しに呼びかけると、エドの腕輪が淡く光り、少しの間をおいてから、はっきりとツムギの声が再生された。
「……!! 聞こえた!! すごい、本当に……!」
エドは目を輝かせ、腕輪を見つめながら感動に震えていた。
その後、彼はゆっくりと腕輪を持ち上げ、透輝液のパーツに指先で触れる。透明な透輝液の中に、琥珀色のハズレ召喚石、小さなネジや歯車のパーツ、古びたプレートが収められたそのデザインは、まさにエドの好みそのものだった。
「これは……もう、完璧だよ……! 透輝液の透明感が機械の美しさを引き立てているし、古びたプレートの質感が、長年積み重ねられてきた技術の歴史を感じさせる……しかも、僕の大好きな仕掛けのパーツまで……!!」
エドは腕輪をそっと握りしめ、ツムギを真っ直ぐ見つめる。
「ツムギさん、本当にありがとう!! 僕の好みをここまで理解して作ってくれるなんて……!! もう感動しすぎて、言葉が出ないよ……!!」
ツムギは照れくさそうに微笑みながら、エドの喜ぶ姿を見てほっと胸を撫でおろした。
「そんなに気に入ってくれたなら、よかった!」
エドは何度も腕輪を、付けたり外したりしながら、嬉しそうに頷き、魔導通信機としての機能だけでなく、装飾としての美しさにも惚れ惚れしているようだった。
魔導通信機作りがひと段落ひ、工房の空気は、穏やかで心地よいものへと変わっていた。
テーブルには湯気の立つお茶と、ノアが用意してくれた焼き菓子が並び、それぞれが作業の興奮を落ち着けるように、のんびりとお茶を啜っていた。
新しいおもちゃを手に入れたエドだけは、未だに腕輪を見つめながら、魔導通信機を試すのに夢中だった。興奮した様子でぽてと通信を繰り返し、腕輪をつけたり外したりしながら、何度も感動したように頷いている。
—— 《ぽて、今そっちに届いた?》
—— 《ぽぺ!(ばっちり!)》
——《おおー!! すごいすごい!!》
何度目かの通信に成功し、エドは嬉しそうに拳を握った。
その様子を横で見ていたバルドは、呆れながらも微笑ましそうに腕を組む。
「はしゃぎすぎだろうが……」
しかし、ツムギはその言葉に、ふと首を傾げた。
(……あれ? なんかこの光景、前にも見たような……?)
そう、ツムギの記憶の片隅には、バルドがぽてを相手に魔導通信を繰り返し、やけに満足そうだった姿が鮮明に残っていた。
エドの興奮ぶりを見ながら、『あの時のバルド先生とどっちが……』と、言いかけたツムギだったが、それを口に出すのはやめ、そっと目を逸らした。
あれを渡した者たちは、皆揃って同じ様な状態に陥る気がする。魔導通信機には、子供心を思い出させる何かがあるのかもしれない……
「でも……ぽても本当に不思議な生き物だよ。普通、魔導具って定期的に属性発光器で充電しないといけないのに……ぽてにはその必要がない上に、本当に生きているみたいだよね。それって、一体どういう仕組みなんだろう?」
エドは不思議そうにぽてをじっと見つめる。ぽては、ぽふんっと膨らみながら得意げに胸(?)を張る。
「ぽぺ!(すごいだろ!)」
「確かにすごい……いや、普通はありえない!」
エドは目を丸くしながら、ぽてを観察する。
「……まさか、ぽては自力で魔力を蓄えているのか?」
エドが驚きを隠せないまま呟くと、バルドとジンも興味を引かれたようにぽてを見つめる。バルドは顎に手を当て、じっくりと考え込むように言った。
「わしもこの間それを疑問に思って、観察していたんじゃが……どうもぽては、魔力の高い食べ物から魔力を補充しているらしい。元々ツムギの相結によって生きているようなものだからな。ツムギの魔力を取り込むだけでなく、独自に蓄える術も持っているのかもしれん」
「ぽぺ!(そういうこと!)」
得意げに胸(?)を張るぽてを見ながら、エドは驚愕の表情を浮かべつつも、どこか妙に納得したように頷いた。
「……ツムギさんの相棒だから、そんなこともあるか」
もはや、ツムギなら何が起きても不思議ではない。エドもついに、ジンやバルドがすでに通った「ツムギの常識外れっぷりに慣れる道」へと足を踏み入れつつあった。
バルドが「まったくだな」と深く頷く中、ジンは苦笑しながらツムギを見つめた。
「まあ、確かにツムギは普通じゃないな……」
そんな和やかな時間の中、ふとバルドが思い出したようにツムギに視線を向けた。
「そういえば、ツムギ。万縫箱の依頼達成の報告書は職人ギルドに提出したのか?」
「あっ!すっかり忘れてました!!」
ツムギは慌てて背筋を伸ばし、バルドは呆れたようにため息をつく。
「まったく、お前は……。重要なことなんだから、きちんとやっておけよ」
「は、はい……すぐに出しに行きます……」
そんなやりとりを聞いていたジンが、ふと思い出したようにバルドを見た。
「職人ギルドといえば……ツムギ、あれからいい職人は見つかったのか?」
ツムギは少し迷いながらも、意を決したように口を開いた。
「……お父さん!実は、この間バルド先生にも相談したんだけど……私、創舎を作りたいなと思ってるんだ」
その言葉に、ジンとエドが同時に驚いてツムギを見た。
ジンは少し考え込むように腕を組みながら、
「そうだな。ツムギは最近、仕事が一人じゃ回らないくらい増えてきてるし……それに、職人ってのは、自分と違う視点を持つ者たちと学び合うことで、より良いものを生み出せるもんだ。ツムギの考えは、筋が通ってるよ」
ツムギはジンとエドを見ながら、少し照れくさそうに笑う。
「私、一緒にものづくりをして楽しいなって思える人たちと、長く関われる場所を作りたいんです。ナギとも話してて……身近な人たちと一緒に創舎を作れたらいいなって思ってて」
エドはその言葉を聞いて、一瞬考え込むように沈黙した。しかし、次の瞬間——彼は勢いよく顔を上げ、まっすぐツムギを見つめた。
「それなら……僕も、その創舎に参加させてくれないか?」
突然の申し出に、ツムギは驚いて目を瞬かせる。
「えっ……?」
「僕は今、個人で活動してるけど……やっぱり、一人でできることには限界があるって思うんだ。この間バザールで、ツムギさんとバルドさんと一緒に考察した時もそうだったし、今日こうして一緒にものを作って改めて思った。僕は、誰かと一緒に作ることで、もっと新しいものを生み出せるんじゃないかって」
エドは少し恥ずかしそうに笑いながら、それでも真剣な眼差しでツムギを見つめる。
「それに……僕、ツムギさんの発想が大好きなんだ。ツムギさんと一緒にものづくりをしてたら、きっともっと面白いことができると思う!」
ツムギはその言葉に一瞬呆然とし——そして、次第に笑顔が溢れた。
「……エドさんが、そう言ってくれるなら……ぜひ!」
ツムギが頷くと、エドはぱっと顔を輝かせた。
今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。
明日は夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。