093. エドのための魔導通信機
4月3日1回目の投稿です
そんな中、バルドがふとジンの方を見やり、腕を組んで言った。
「そうだジン、せっかくだからわしとも魔導通信を繋げようじゃないか」
そう言って、バルドは自分のループタイを手に取った。ジンも苦笑しながら頷き、自分のループタイを取り出す。
バルドはじっくりとジンのループタイを見つめ、ふと気がついた。自身が『ジンとノアとお揃いっぽく』と希望したことをツムギが反映したとは聞いていたが、こうして実物を目にすると、そのさりげない統一感がよく分かる。細部に込められたツムギの心遣いが感じられ、バルドの口元が自然とほころんだ。
「……なるほど、こういうことか。さりげなく、しかし確かに繋がりを感じるな」
彼は感慨深げに呟くと、ジンとお互いのループタイをそっと触れ合わせた。
淡い光と涼やかな風が、二つのループタイの間を走り、魔導通信の接続が成立する。
「よし、これでお互いに連絡が取れるな」
「ええ、これで魔導便箋がいらなくなりますね」
その様子をじっと見ていたエドが、突然目を輝かせて前のめりになった。
「なんですかこれは! バザールの時からなんか変だなって思ってたんですよ!!」
興奮したエドは、ジンとバルドのループタイを交互に覗き込み、触り、ひねり、傾けながら観察し始めた。
「バザールの時のあれは見間違いじゃなかったんですね。これは、魔導通信機能ですよね?それがこんな小さな装飾に……どういうことですか!? これはどうやって……!? いや、それよりも、僕にも作れますか!?」
エドは興奮しすぎて、息が切れそうな勢いだった。その様子を見て、ツムギはくすっと笑う。職人はやっぱり、作ってみたくなるものなんだな。私も同じだな——そう思うと、ますます楽しくなってきた。
「エドさん、この魔導通信機は、同じものを持っている人同士でしか繋がらないから、普通の魔導通信機とは少し違うんです。でも、お互いに連絡が取りやすくなるし……良かったら、今一緒に作ってみませんか?」
その言葉に、エドの顔がぱっと明るくなった。
「一緒に作りたい!! ぜひ!!」
エドは食い気味に返事をし、すぐにノートを取り出してアイデアを書き込み始めた。
「僕はループタイはあまり付けないし、ブレスレット型がいいと思うんです! 実用的だし!」
「確かにブレスレットなら身につけやすいけど、普通の形だとサイズ調整ができなくて、ゆるゆるして作業の邪魔になってしまうかも……」
ツムギは腕を組んで考え込み、ふと前世の記憶がよみがえった。
(そうだ、金属ベルトの腕時計は確かサイズ調整できたよね。あのタイプなら、しっかり固定できて邪魔にならないかも)
ツムギは素早くノートにスケッチを描き、エドとジン、バルドに見せた。
「こんな感じの形なら、装着感がしっかりしていて邪魔にならず、かつデザインも格好良くできると思うんです!」
エドは目を輝かせ、ジンとバルドは興味深げにノートを覗き込む。
「なるほど……しかし、これはまた難しそうな構造だな」
バルドが腕を組みながら唸る。ジンも頷きながら、ノートを指でなぞった。
「うん、作るのは難しいが、やりがいはありそうだ」
「アタッチメントの応用でいけないでしょうか?僕、これ作ってみたいです!」
エドが力強く宣言する。それに応えるように、ジンとバルドも微笑みながら頷いた。
「よし、やってみるか」
こうして、三人の職人が力を合わせてエドの魔導通信機を作ることになった。
「私は金属加工の事は、まだよくわからないので、透輝液のパーツ作りますね!」
その頃ぽては、ツムギの肩の上から工房の様子をじっと眺めていた。バルド、ジン、エド——三人の職人魂が火を噴き、熱量がぐんぐん上がっていく。
「この留め具の構造なら、ワンタッチで装着できるのでは?」
「いや、耐久性を考えると、ここはもう少し補強が必要だろう」
「でも、それだと今度は重さが問題になります! 軽量化するには……」
「軽量化の魔法陣なら、わしが描けるぞ」
試作の段階から、すでに議論は白熱していた。
バルドとジンが技術的な話を交わす中、エドは必死にノートを開き、先人たちの言葉を一言も聞き逃すまいと走り書きしている。そして、時折思いついたことを勢いよく口にし、また新たな議論が巻き起こる。
「ぽぺ……(すごい熱量……)」
ツムギはツムギで、透輝液のパーツを準備するために、ルンルンで自分の作業スペースに向かっている。
「よし、私も透輝液の加工、始めるね!」
その声に、ぽてはぴたりと動きを止めた。
どちらのチームを選ぶべきか——慎重に見極めねばならない。
試作チームに巻き込まれれば、ただの見学では済まないだろう。
もしかしたら「とりあえず、ぽてに試してみよう!」なんて恐ろしい展開になり、あれこれ装着され、着せ替え人形にされる未来が見える。
一方で、ツムギの方を選べば……最悪でも透輝液まみれになるくらいで済むはず。
「ぽ、ぽぺ……(ツムギの方が……まだマシ……)」
内心でひそかに結論を出すと、ぽては素早くツムギのもとへと飛び乗った。
「ぽぺっ!(ツムギの手伝いをしよう!)」
ツムギはその様子を見て、くすっと笑う。
「ありがとう、ぽて。一緒に頑張ろうね!」
ツムギは優しく微笑みながら、作業台に向き直った。
まずはサイズの確認だ。腕につけるブレスレット型の魔導通信機なら、大きすぎても邪魔になるし、小さすぎると精密な細工が難しい。
時計くらいの大きさがいいだろう。
そう考えながら、ツムギは直径2cmのモールドを選び、その中に透輝液を流し込む準備を始めた。
次に、パーツを選びだ。
魔導通信機の核となるのは、琥珀色のハズレ召喚石(未発現魔導結晶)のかけら。
それに加え、エドは機械や仕掛けのあるものが好きだから、彼の好みに合うようにバザールで買ったヴィンテージの歯車や小さなネジを使うことにした。
さらに、何かの一部だった古びたプレートも加える。長い年月を経た素材には独特の風合いがあり、それが新しい価値を生むこともあるのでツムギのお気に入りの素材だ。
「うん、これならエドさんも気に入ってくれそう」
ツムギは選んだパーツを慎重に配置しながら、透輝液をゆっくりとモールドに流し込んだ。
透明な液体が型の中で静かに広がり、魔導結晶や歯車、プレートがほどよく埋め込まれていく。
「ぽて、バブル抜きをお願い!」
ぽてがふわりと宙を舞い、器用にふわふわの体で軽く空気を払う。透輝液の表面が滑らかになり、細かい気泡が消えていった。
この技は、ツムギが透輝液のパーツ作りを、POTEN用に毎月大量に制作するようになった頃に生まれた。気泡が入ってしまい、失敗作ばかりが積み上がり、ツムギが落ち込んでいた時——いつの間にか、ぽてが習得していたのだ。
「ぽぺ!(まかせろ!)」
ぽては誇らしげに胸を張りながら、もう一度優しく表面をなでる。
バブル抜きが終わると、ツムギは属性ライトを当て透輝液を固めた。
——すると、透輝液がほのかに光り、魔導結晶と共鳴するようにわずかに脈動した。
ツムギは満足げに頷き、モールドからパーツを外した。
出来上がったパーツは、透輝液特有の透明感のある仕上がりで、埋め込んだハズレ召喚石のかけらは、柔らかな琥珀色が淡く光を宿している。プレートのお陰で、アンティークな風合いが増し、ヴィンテージの歯車や小さなネジが組み込まれたことで、どこか精密機械のような繊細な美しさを持っていた。まるで長年大切にされてきた時計の一部のような雰囲気を醸し出している。
「うん、いい感じ!」
ツムギは光にかざしながら、角度によって異なる輝きを見せるパーツを満足げに眺めた。ぽても「ぽぺ!(かんぺき!)」と得意げに胸を張った。
今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。
明日は夜(21時〜22時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。