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091. 似たもの同士

4月1日1回目の投稿です

 エドとの約束を取り付けたあと、ツムギとバルドは再びバザールを回り始めた。


「さて、せっかく来たんだ。お前も何か掘り出し物を探してみるといい」


 バルドがそう言うと、ツムギの目が一気に輝いた。


「ありがとうございます!じゃあちょっと見てきますね!」


 そのまま吸い寄せられるように、小さなリボンやボタン、ヴィンテージのパーツが並ぶ露店へと突撃するツムギ。

 ぽてを肩に乗せたまま、宝探しをするように夢中で物色し始めた。


(このくすんだ金のボタン、アンティーク感があって素敵! こっちの刺繍が繊細なリボンも可愛いし……あっ、透かし細工のブローチ台! これは絶対使える……!)


 気づけばツムギの手には、山のような小袋が積み重なっていた。


「ぽぺ……(また増えた……)」


 ぽては呆れたようにため息をつきつつも、もうツムギが止まらないことを悟っていた。

 なんせ今回は、ロイヤリティ収入というお小遣いがある。


(……この機会を逃すわけにはいかない!!)


 ツムギは次々とパーツを吟味し、順調に買い物袋を増やしていく。


 一方、その様子を見ていたバルドは、少しだけ引きつった笑みを浮かべながら、心の中で静かに呟いた。


(ふむ……ツムギは、ああいったものが好きなんだな。なるほど、今度見かけたら、買い込んでおいてやるか……)


 そう決意しつつ、バルド自身も別の店へと目を向ける。


「ふむ、これは……?」


 そこには、古びた魔導具や、仕掛けのある道具がずらりと並んでいた。


「おぉ、この巻き上げ式の魔導ランプ、調整すればまだ使えそうだな……!」


「これは……魔導ギアの一種か? ふむ、軸がずれているだけなら修理すれば……」


 いつの間にか、バルドも職人気質全開で、興味深げにアイテムを手に取っていた。

 次から次へと古道具を吟味し、気づけばツムギ同様、買い込んでいる。


「ぽぺぺ……(先生も同類やん……)」


 ぽては呆れたようにツムギとバルドを交互に見た。


 一方、ツムギは、バルドが真剣な眼差しで魔導具を吟味する姿を見て、ふと心に誓った。


(先生、本当に魔導具が好きなんだな……今度、面白そうなものを見つけたら買っておこう)


 バルドもまた、ツムギの嬉しそうな表情を見て、心の中で同じように思う。


(ツムギは本当に細かいパーツが好きなんだな……やっぱり、ツムギが気になりそうな素材を見つけたら買うべきだな……)


 その後も2人は職人の店を見ては足を止め、バルドが丁寧に解説し、ツムギが目を輝かせる、というやり取りを何度も繰り返したり、古書を扱う店で、二人が気になった魔法陣の古書を買い込んだりしていた。気づけばそれぞれの荷物が増えていく。

 買い物に満足した後は、美味しそうな出店を見つけ、しっかり食べ歩きも堪能した。


 バザールの賑やかな喧騒の中、あちこちの店を巡るうちに、太陽はゆっくりと傾き、金色の光が街並みに差し込み始める。


 気づけば、空が橙色に染まり、だんだんと夕暮れが近づいていた——。


楽しい時間は過ぎるのが早い…


 バルドはふと、今までの時間を振り返る。ツムギと一緒にバザールを巡り、職人たちの技を見て語り合い、魔導具を眺め、うまいものを食べ——充実した一日だった。


 だが、それと同時に、ふと胸に寂しさがよぎる。ツムギが帰ってしまうことを、名残惜しく感じていた。


 バルドは少し渋い顔をしながら、腕を組んで呟いた。


「……そろそろ工房に戻るか。あまり帰るのが遅くなっても危ないからな」


 ツムギは「そうですね!」と元気よく返事をし、ぽても「ぽぺ!(かえろー!)」と跳ねる。


 バルドは「うむ」と頷きながらも、ほんの少しだけ足取りが重かった。


 工房に戻ると、それぞれ買ったものを整理し、ツムギは荷物をまとめる。バルドは名残惜しそうにその様子を見守っていた。いざツムギが「では、そろそろ帰りますね!来週も宜しくお願いします!」と笑顔で言うと、なんだか妙に胸がぎゅっと締めつけられた。


「……よし、駅まで送るぞ」


「えっ? でも、工房から駅まではそんなに遠くないし、大丈夫ですよ?」


「何を言うか。夜道は油断できんからな」


 バルドはそう言いながら、当然のように外套を羽織った。


 駅へ向かう道すがら、バルドはツムギとの会話を楽しみながら、ゆっくり歩く。だが、駅舎が見えてくると、とうとう本当に別れの時間が来たことを実感し、すぐにまた会えるというのに、少し寂しさがこみ上げる。


 ツムギが改札に向かおうとすると、バルドはふと思い出したように言った。


「そうだ、ツムギ。エドが工房に行く日、わしも行ってもいいか?」


 ツムギは驚いてバルドを見上げた。バルドは腕を組み、当然のように続ける。


「わしもジンに会いたいしな。それに、エドのやつ、そのままジンに弟子入りしそうな勢いじゃった。ならば、ジンの師匠でもあるわしが、しっかり様子を見てやらねばなるまい」


 ツムギは思わずくすっと笑う。


「ふふっ、先生も結構楽しみにしてますね?」


「……まあな」


 バルドは少しそっぽを向いたが、その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。


「では、エドさんが工房に来る日、お待ちしてますね!楽しみにしています!」


 ツムギは改札の向こう側へと進み、振り返って手を振った。


「先生、ありがとうございました!」


 バルドも大きく頷き、手を軽く挙げる。


「うむ、気をつけて帰れよ」


 ツムギが乗った魔導列車は、ふわりと宙に浮かび上がり、静かに加速していく。ツムギは窓越しにバルドの姿を見つめ、胸にじんわりと温かいものが広がるのを感じていた。


 ツムギはふんわりと微笑みながら、魔導列車の座席にもたれた。


 魔導列車が滑るように進み、ツムギを乗せた車両は次第に見慣れた街の風景へと降下していく。駅に降り立つと、ふわりと夜の涼しい風が頬を撫でた。


「ただいまー!」


 ツムギは玄関を開けながら元気よく声をかける。


「おかえり、ツムギ。遅かったな」


 ジンとノアが台所からひょこっと顔を覗かせる。一緒に何かを作っていたらしい。


「晩ごはん、温める?」


「ううん、バルド先生がいっぱい食べさせてくれたから大丈夫!」


 ツムギが笑いながら靴を脱ぐと、ぽても「ぽぺ!(たべた!)」と元気よく主張する。


「そうかそうか、良かったな。バルドさんには、色々お世話になりっぱなしだな……」


 ジンが笑いながら問いかけると、ツムギは「うん!」と嬉しそうに頷いた。


「バザールもすごく楽しかったし、新しい出会いもあったし……それに、先生といっぱい話せて、すごくいい週末だった!」


 ツムギが弾むように話すと、ノアが優しく微笑んだ。


「よかったねぇ。きっと、バルドさんも楽しかったんじゃない?」


「うん、そんな気がする!」


 ツムギは微笑みながら、改めて楽しかった時間を思い返した。エドとの出会い、先生と一緒に見た職人たちの作品、バルド先生がちょっとウキウキしながら買い込んでいた魔道具……どれも、大切な思い出になった。


 しばらく家族と、今度エドやバルドが工房に来ることについて楽しく話したあと、ツムギは部屋へ戻り、ぽてと一緒にベッドへと潜り込んだ。


「ぽぺ……(たのしかったね……)」


 ぽてがふわっと丸くなりながら、満足そうに目を細める。ツムギは優しくぽてのふわふわの毛を撫でながら、ぽつりと呟いた。


「ねえ、ぽて……おじいちゃんって、どんな感じなのかな?」


「ぽぺ?」


「ううん、なんでもない。ただ、バルド先生といると……なんだか、そんな気がするんだ」


 ぽてはしばらくツムギを見つめていたが、やがて安心したように「ぽぺ……」と小さく鳴いた。ツムギはそのぬくもりを感じながら、ゆっくりと目を閉じる。


 ツムギには、元々祖父という存在はいなかった。

 でも、もしもいたら、きっとバルドのような人だったのかもしれない。

 誰よりも温かくて、見守ってくれる存在——。


 楽しかった週末の余韻を胸に抱きながら、ツムギの意識は、そっと夢の世界へと溶けていった——。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日は夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。

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