008. ぽてのクッション
「よし、せっかくだし、試作はこの技術を使ってぽてのクッションを作ってみよう!」
ツムギがそう言うと、ぽては嬉しそうにくるくると回りながら、ツムギの手元をじっと見つめた。
ツムギは作業台の端にノートを広げ、ぽての希望を聞くことにした。
「ぽて、どんなクッションがいい?」
「ぽぺぺ!(あったかい!)」
「うん、やっぱり暖かいのがいいよね。じゃあ、ぽかぽかする素材を使おう」
「ぽぺぺぺ!(もぐれる!)」
「潜り込めるタイプがいいの?」
ぽては嬉しそうにふわりと転がり、ツムギの袖の中にするりと潜り込む。
「ぽぺ!(すっぽり!)」
「なるほどね、包み込まれる感じが落ち着くんだね」
ツムギはノートに「暖かい」「潜り込める」とメモを取り、最後にもう一つ尋ねた。
「あと、カバーはどんなのがいい?」
ぽては一瞬きょとんとした後、ツムギのポケットを覗き込み、くんくんと匂いを嗅いだ。
そして、するりと飛び込んで、ツムギのハンカチを引っ張り出した。
「ぽぺぺ!(これ!)」
「え? ハンカチ?」
「ぽぺ!(つむぎのにおい!)」
ぽてはハンカチをぎゅっと抱きしめ、ぽふっと座り込んだ。ツムギは驚きながらも、思わず笑ってしまう。
「そっか、私の匂いがするから安心するんだね」
「ぽぺ!(そう!)」
ツムギはノートにメモをとりながら、どんな素材を使えばぽての希望を叶えられるか考えた。
「暖かくて、潜り込めて、カバーは私のハンカチ……うーん、どんな風に作るいいかな?」
「ぽぺ……?」
ぽては首をかしげながら、ツムギの手元をじっと見つめる。ツムギは作業棚の中を探しながら、適した素材を探し始めた。
「暖かさを保つなら、フェンネルコットンがいいかも。熱を逃がしにくくて、ほのかに温かいんだよ」
ツムギは白くてふわふわのフェンネルコットンを取り出し、ぽての前に差し出した。
「ぽぺぺ!(ぽかぽか!)」
「でしょ? これなら寒い日でも気持ちよく眠れそう」
次に、潜り込めるような形にするための工夫を考えた。ツムギは少し悩みながら、ふと目の前の材料に目を留めた。
「そうだ、ミストスライムウールを袋状にすれば……ぽてがもぐり込めるクッションができるかも!」
「ぽぺ!?(もぐる!?)」
「そう、こんな風に──」
ツムギは布の端を軽く折り、ぽてのサイズに合わせて試しに形を作ってみせた。すると、ぽては目を輝かせながら、ふわっとその中に飛び込んだ。
「ぽぺぇぇ……!(すっぽり!)」
「よかった、これなら気に入ってくれそうだね」
ツムギはノートに「袋状のクッション」と書き込み、最後にクッションの詰め物について考えた。
「フェンネルコットンだけだとちょっと柔らかすぎるから、スフィアパフを混ぜるのはどうかな?」
スフィアパフは小さな粒状の素材で、ふわっと軽いが、しっかりと弾力があるため、形を保ちやすい。ツムギは実際に手のひらでフェンネルコットンとスフィアパフを混ぜながら、感触を確かめた。
「うん、これならふかふかで形もキープできる!」
「ぽぺ!(ふかふか!)」
素材が決まり、ツムギはさっそくクッションの中身を作ることにした。
「ぽて、見ててね。これを熱圧着でまとめていくよ」
ツムギはフェンネルコットンとスフィアパフを適量ずつ布に詰め込み、ミストスライムウールで包んだ。そして、その接着部分にスライムジェルを塗り、低温からじわじわと温めていく。
「じっくりと熱を入れると……」
じわじわと熱が伝わり、ジェルがとろりと溶け、布の繊維同士が自然に馴染んでいく。ツムギは慎重にプレス板を下ろし、均等に圧力をかけた。
「よし、少し待って……」
数秒後、ツムギはプレス板をゆっくりと持ち上げた。すると、布の端がきれいに圧着されており、縫わなくてもぴったりと密着していた。
指で軽く引っ張ってみたが、適度な弾力がありながらも、しっかりとした強度が感じられる。
「すごい! これなら、ぽてが使ってもすぐにへたれないはず」
「ぽぺぺ!(ぽてもつかう!)」
ぽては嬉しそうにぴょんっと跳ねて、クッションの中に飛び込んだ。
そして、すっぽりと潜り込み、しばらくしてから顔だけひょこっと出した。
「ぽぺぇぇ……!(きもちいい!)」
「ふふ、気に入ってくれたみたいだね。じゃあ、次はカバーを作るよ」
ツムギはぽてが抱えていたハンカチを優しく広げた。毎日持ち歩いていたせいか、少し色あせているけれど、柔らかくて手に馴染む。
ぽてのために、これをクッションカバーに仕立てる。
「よし、まずはサイズを測ろう」
ツムギはぽてをクッションの上にそっと座らせ、その大きさに合わせてハンカチを折りたたんだ。
余裕を持たせたほうがいいかもしれない。
ぽてはすっぽりと包まれる感触が気に入ったのか、ふわっとした布の上でごろんと転がる。
「ぽぺぇ……!(ぴったり!)」
「まだ縫ってもいないのに気に入っちゃった?」
ツムギは笑いながら、ハンカチの端を丁寧に折り込み、どんなデザインにするか考えた。
ツムギはノートに簡単なスケッチを描き、仕上がりのイメージを固めていく。
カバーもハンカチを二重に折り、クッションをすっぽり包める形に。
ぽてが多少汚してもすぐに洗濯出来るデザインにする。
針と糸を手に取り、試しに布の端を縫い合わせてみる。だが、ハンカチの生地が思ったよりも柔らかく、縫い目が寄ってしまう。ツムギは少し悩みながらも、ふと今までの作業を思い出した。
「そうだ! さっき試した熱圧着を使っちゃえば、縫わなくてもきれいに仕上げられるかも!」
ツムギは作業台の上にカバーの布を広げ、圧着用のスライムジェルを端に塗り込んだ。低温からじっくり温めることで、布の繊維同士がなじみ、自然な仕上がりになるはずだ。
慎重にプレス板を下ろし、温度調整板のスイッチを入れる。じわじわと熱が伝わると、ジェルがとろりと溶け、布の繊維がしっかりと結びついていく。
「うん……いい感じ!」
ツムギはそっとプレス板を持ち上げ、仕上がりを確認する。
布の端はぴったりとくっつき、まるで最初から一枚の布だったかのように自然な仕上がりになっていた。指で軽く触れると、しなやかでほつれる心配もなさそうだ。
ぽては嬉しそうにカバーの布の上に乗り、ころんと寝転がった。ツムギは満足そうに微笑みながら、最後の仕上げに取り掛かる。
「よし、これでカバーは完成。次は中にクッションを入れよう!」
ツムギは先に作っておいたクッションの中身をそっと手に取る。
フェンネルコットンとスフィアパフが程よく混ざり合い、しっかりとした弾力を持ちながらも、優しいふんわり感がある。
さらにミストスライムウールで包んでいるので、手で軽く押すと、じんわりと沈み込んで、すぐに元の形に戻る。
ぽてはすぐそばでじっと見つめながら、期待に満ちた目でツムギの手元を見ている。
「ぽぺぺ!(はやく!)」
ツムギは笑いながら、慎重にカバーの入り口を広げ、クッションの中身を押し込んでいく。
ミストスライムウールとフェンネルコットンのふわふわした感触を崩さないように、均等に整えながらカバーの中へと収めた。
「うん、いい感じ……これでちょうどいい形になった!」
クッション全体を軽く叩いて形を整え、開いた部分をしっかりと閉じる。
袋状になっている部分がしっかりと機能していて、ぽてが簡単に潜り込めるようになっていることを確認しながら、最後に手で軽く押してみると、しなやかで弾力のある感触が指先に伝わってきた。
「よし、ぽて、完成したよ!」
ツムギがそう言ってクッションを差し出すと、ぽては待ちきれなかったかのように勢いよく飛び乗った。
「ぽぺぇぇ……!(ふかふかぁ!)」
ぽてはクッションの上でころんと転がり、そのままふわっとした生地の間にするりと潜り込んだ。そして、顔だけひょこっと出して満足そうにすりすりと頬をこすりつける。
「ぽぺぺ!(ぽての!)」
「うん、ぽてのクッションだよ」
ツムギは微笑みながら、軽く押してみたり、持ち上げてみたりしながら仕上がりを確認した。
熱圧着の技術も問題なく機能していて、接着部分はしっかりと安定している。
ぽてがどんなに動いても、生地がずれることはなさそうだ。
「よかった、これならしっかりしてるし、ぽてもぐっすり眠れるね」
ぽては満足そうに「ぽぺぇ」と小さく鳴きながら、クッションの中でくるんと丸くなった。
すっかり自分の居場所を気に入ったようだ。
「これでクッションは完成! ぽても気に入ってくれてよかった」
ツムギは作業台の上を軽く片付けながら、作業を終えたクッションを見つめた。
今回の試作で、ミストスライムウールはもちろん、熱圧着の技術も色々なことに使えて応用可能なことも分かった。もしかしたら、ハルのポシェットの修理にも応用できるかもしれない。
「さて……次は硬めの生地でできたポケットを作らないとな」
ツムギは作業台の端に置かれたハルのポシェットに目を向け、どんな素材を使えば丈夫なポケットを作れるかを考え始めた。
ふわふわのクッションとは違い、しっかりとした強度が必要になる。
ツムギは次の工程を想像しながら、深く息を吸い込んだ。
「よし、次も頑張ろう!」
ぽてはクッションの中から顔を出し、「ぽぺ!」と小さく鳴いて、ツムギを応援するようにちょこんと揺れた。
改稿しました。
この改稿は、表現や改行などを変更するもので、物語の流れ自体を変更するものではありません。
ツムギの世界図鑑(この物語の設定を書いている小説です)の中の「ツムギの作ったアイテム図鑑」にぽてのクッションについて詳しく書いてあります。
特に読まなくてもストーリーに影響はありませんが、興味があったら覗いてみてください。