085. ナギとツムギの未来の工房計画
3月26日1回目の投稿です
朝の光がやわらかく工房の窓から差し込み、ツムギはそっとマントどめを整えた。今日はナギのもとへ遊びに行くついでに、魔導通信機が発動するか試す日。昨日の賑やかなやりとりを思い出しながら、ぽてと一緒に工房を出発した。
ホビーナの扉を開けると、カラカラと軽やかな鈴の音が響いた。店内には柔らかい布の香りが漂い、陽の光がカラフルな生地を優しく照らしている。心地よい空間に、ツムギは自然と表情をほころばせた。
「いらっしゃいませー!……って、ツムギ!」
作業台の向こうからナギがぱっと顔を上げた。手にしていた布をさっと脇へ置くと、満面の笑みでツムギのもとへ駆け寄ってくる。
「久しぶり!……って言いたいところだけど、魔導手紙のおかげで全然そんな感じしないね!」
「ふふ、そうだね。でも、今日もしブローチの魔導通信が起動したら、もっと気軽に話せるようになるよ!」
ツムギはそっとマントどめに触れ、ぽても「ぽぺ!」と胸を張る。そして、ナギのブローチにそっと視線を向けた。
「あぁ、これね!ツムギからもらってから、すっかりお気に入り。デザインもかわいいし、ぽてをつけてるみたいで気に入ってるんだ。たまにバッグにつけたり、マントどめにしてみたり、毎日使ってるよ!」
ナギは誇らしげにブローチを撫でると、ぽてが「ぽぺぺ!(うれしい!)」とくるくると回る。その様子にツムギも自然と微笑んだ。
「うん、それならきっと起動するはず。試してみよう!」
「おお、やってみよう!楽しみ!」
ナギはワクワクが抑えきれない様子で、期待に満ちた目を向ける。ツムギが手を差し出すと、ナギはすぐにブローチを外して手渡した。
ツムギはそっと自分のマントどめとぽてのマントどめをナギのブローチに優しく触れさせる——
——淡い光がふわりと広がり、風が部屋を駆け抜ける。ナギのブローチの中央に埋め込まれたハズレ召喚石が、ぼんやりと輝き始めた。
ナギが感嘆の声を上げる中、ツムギはブローチを返し、「試しに、ブローチに触りながら、私を思い浮かべて、何か話してみて」と促した。
ナギは少しドキドキしながら、そっとブローチに触れる。
——《ツムギ?聞こえる?》
ツムギのマントどめがふわりと光り、ナギの声がクリアに届く。
「うん、ちゃんと聞こえたよ!」
「本当に通信できるんだ!?ツムギ、すごすぎるよ!これって、王族とか貴族とかが使ってる夢のアイテムでしょ?」
ナギは感激したようにツムギの手をぱしっと握る。
「これ、絶対便利だよ!しかもブローチだからいつでも身につけられるし、最高!」
「よかった……!ちゃんと起動してくれて」
ツムギもほっと胸をなでおろし、ぽても「ぽぺ!(つながった!)」と嬉しそうに跳ねる。
「これでナギとも魔導通信できるね!」
「ふふ……ということは……」
ナギは口元に手を当て、じわじわと込み上げる喜びを押さえきれない様子で、ツムギを見つめた。そして、ゆっくりとぽてに視線を向けると——
「ぽてとも話し放題じゃないですか!!!」
待ってましたと言わんばかりの満面の笑みで、ぽてをひょいっと抱き上げる。
「ぽぺっ……!?(えっ……!?)」
突然の熱烈な抱擁に、ぽては一瞬固まり、ふわふわと揺れながらナギを見つめる。
「うわぁ……!ぽてといつでもどこでも話せるんだよ!?離れてても!夜でも!ふふ、もう想像しただけで最高すぎる……!」
ナギは夢見るように目を細めながら、ぽてとの未来の魔導通信ライフを想像し、頬をほんのり上気させている。その熱意に、ぽてはじりじりとナギから離れようとしつつ、ツムギに視線を送る。
「ぽ、ぽぺ……(な、なんか……うん……)」
若干引き気味だが、ナギの腕の中でふわふわと揺れながら、最終的には「まぁ、いいか」とでも言いたげに小さく「ぽぺ……(ま、まぁ……)」と納得したように小さく跳ねた。
ツムギはその様子を見て、思わず苦笑する。
ナギはぽてを抱えながら満面の笑みを浮かべ、ぽては「ぽぺぇ……(わ、わかったから……)」と観念したように身を預けた。
「でも、ナギ……声だけなら『ぽてぽて』しか聞こえないけど、ちゃんと解読できるの?」
ツムギが思わずツッコミを入れると、ナギは真剣な顔でブローチを握りしめた。
「解読します!してやりますとも!ぽてと常時話せるなら努力は惜しまないよ!」
「ぽぺぇ……(もう……好きにして……)」
ぽてが悟りを開いたかのように、遠い目をしてツムギの肩に寄りかかる。
ツムギは思わず吹き出し、「ぽて、がんばれ……」とそっとぽての背中をなでた。
「ふふ、でもナギならできそうだよね」
「でしょ? ぽて語辞典でも作ろうかな!」
ナギは冗談めかしながらも、すでに本気で考えていそうな顔をしている。その様子にツムギは苦笑しながら、ぽても「ぽぺぇ……(まさか……ほんとに作る気……?)」と若干警戒していた。
そんな軽いやりとりの後、ふとナギの手がぽてを撫でる動きをゆるめる。窓の外へと目を向けながら、ぽつりと呟いた。
「……みんなで集まって、いろんなもの作るの、本当に楽しかったなぁ。いつか、ツムギと一緒に、毎日ものづくりできたらいいのになぁ」
ツムギはその言葉に、一瞬驚いたようにナギを見つめた。
「ナギ……?」
「いや、なんとなくね!ツムギの創術、めちゃくちゃすごいし、私ももっと面白い布とか新しい生地を作ってみたいしさ!」
ナギは照れくさそうに笑いながら、ぽてを持ち上げてふわふわ揺らした。
ツムギはナギの言葉に、ふと想像を膨らませる。もし本当に、ものづくりが好きな人たちと、毎日そんなことができたら——。
「……それ、すごく楽しそうだね!」
目を輝かせたツムギは、夢中になって妄想を広げていく。
「そしたら、エリアスさんに証契士として一緒に働いてもらって……」
「うんうん、リナに商売の方は任せて!」
「ナギと私は新しい素材とか、組み合わせを研究して——」
「おお、もう最高やん!なんかめっちゃワクワクしてきた!」
ナギとツムギが盛り上がる中、ぽても嬉しそうに「ぽぺぽぺ!」と弾みながら、両方の頬をすりすりしてくる。
「ぽぺ!(つむぎ!なぎ!たのしい!)」
「ふふ、ぽても一緒だよ!」
ナギも楽しそうにぽての頭をなでながら、ツムギと顔を見合わせる。
「それにさ、お父さんやイリアさん、ヴェルナーさんやバルド先生にもアドバイスをもらえるってすごくない?大人チーム、めっちゃ頼りになるし!」
「確かに!みんなそれぞれ違う分野のプロだから、助けてもらえることがいっぱいあるよね!」
「ハルくんも可愛いし、困ってるといつも一生懸命助けてくれるし、チームに入れたいよねー!」
ナギがにっこり笑うと、ツムギもうんうんと頷く。
「そうそう!ハルくん、すごく頑張り屋さんだし、すごく優しい子だから、一緒にいたらきっと楽しいよね!」
「ほんとほんと!……っていうか、バルド先生って誰?」
ナギがぽてを撫でながら、興味津々に尋ねる。
「あっ、えっとね、お父さんの師匠だった人で、今は私が修繕と魔法陣を教わってるんだ!すっごくいい人なの!」
「へぇ〜!そんなすごい人に教わってるんだ!」
ナギは感心したように目を丸くし、ツムギは少し得意げに微笑む。
——夢のような話かもしれない。でも、夢みたいなことも、少しずつ形にしていけば、いつか本当に叶うかもしれない。
ツムギは胸の奥に、ほんのりと温かい気持ちを抱きながら、ナギと一緒に未来の話を続けた。
今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。
明日も夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。




