表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/169

083. 創術についての考察

3月24日一回目の投稿です

 「疲れただろう。ツムギの作るものは特別だから、みんな欲しくなっちゃうんだよな……まあ、俺もそうだしな」


 ジンはそんな様子を見ながら、ぽつりと呟く。

 ツムギが驚いたように顔を上げると、ジンはくすっと笑い、優しく頭を撫でた。


 「お疲れさん。よくやったな」


 短くそう言うと、ジンは腕を組み、ふと考え込むように目を細める。


 「それにしても、ツムギの創術はすごいな……俺も創術を使うから分かるが、直したものや作ったものが、ちょっと使いやすくなったり、壊れにくくなったりすることはある。でも――」


 ジンは改めて、ツムギが作ったアイテムを思い返すように視線を落とした。


 「お前の創術は、いつもなんというか、斜め上の方向にいくよな」


 ツムギは苦笑いしながら、指をトントンと顎に当てて考え込む。


 「そう……なのかな? でも、POTENのアクセサリーや、イリアさんの依頼で手伝ったアイテムは、普通に創術した通りの効果しか出なかったよ?」


 「それもそうだな。だが、お前が個人的に作ったもの――特に、思い入れのある人に向けて作ったものに限って、妙な進化をする気がする」


 ツムギは眉をひそめ、過去の作品を思い返す。確かに、ハルのポシェットはただの修理にとどまらず、成長する不思議なポシェットになった。通信機となったマントどめも、魔導通信出来るようになればいいのに。とハルと冗談を言い合っていた。


 「……でも、お父さんだって、創術で作ったものがちょっと特別になること、あったよね?」


 「俺の?」


 ジンが驚いたように聞き返すと、ツムギは頷いた。


 「うん。たとえば、お母さんに作った鍋。普通に創術をかけたよりも、ずっと使いやすくなってたよ。焦げ付きにくくて、洗いやすいし……それに火を消し忘れてても、煮詰まらずに、ちゃんと煮込み続けられるなんて、ちょっとおかしいよね。」


 「……ああ、確かに」


 「それに、お父さんが私に作ってくれた勉強机。あれ、なんでか分からないけど、すごく集中できるんだよね。汚れにくいし、長時間座ってても疲れにくいし」


 「……ああ、そういや他にもあったな。お前が小さい頃、『にんじんが苦手で食べたくない!』って泣いてたときに作った、あの木のスプーン」


 「あっ、それ覚えてる!なんかあのスプーンで食べると、にんじんが甘くておいしく感じたんだよね! でも、私にしか味の違いが分からなくて……」


 ツムギは思い出し笑いをしながら肩をすくめる。


 「みんなに『そんなはずない』って言われて、私が嘘ついてるみたいになっちゃってさ……」


 ジンもくすっと笑う。


 「お前が真剣な顔で『ほんとだもん!』って言ってたの、今でも思い出すぞ」


 「だって、ほんとにおいしかったんだもん……!」


 ぽてが「ぽぺっ」と興味深そうにぴょんと跳ねた。


 ジンはぽてを見ると、ふっと笑ってぽつりと呟いた。


 「……まあ、変わったものといえば、ぽてもそうだな。最初はただのぬいぐるみだったのに、今じゃ……」


「ぽぺぺ!(いきてるもん!)」


 ぽてが得意げにドヤっと胸(?)を張り、ツムギとジンの目の前でくるっと回ってみせた。


 ツムギは笑いながら、ぽての頭をやさしく撫でた。


 ジンは少し考え込んだあと、腕を組みながら話しだした。


 「……なるほどな。やっぱり、創術に大事なのは、術者のその人への想いと、使う人のそのアイテムへの思いの強さなんじゃないか?」


 「……そうかも」


 術者が込めた想い。それを受け取る側の気持ち。両方が合わさったとき、ただの創術以上の何かが生まれる。


 ハルのポシェットも、マントどめも、ツムギが相手の事を思い、心を込めて作ったもの。お父さんの鍋や机も、家族を思って作られたもの。


 ツムギは、自分の手を見つめる。


 「……お父さん、私、なんだかもっと創術のことが知りたくなってきた」


 「はは、そりゃいいことだ」


 ジンは穏やかに笑いながら、ツムギの頭をポンと軽く叩いた。


「……ただな、創術の属性を持ってる人間自体が少ないから、参考になる本もあんまりないんだよ。俺も昔、ツテを頼って何人かの創術屋に話を聞いてみたことがあるけど、やっぱりみんな似たようなことを言ってたな。同じように作ってても、変化の仕方が違ったり、結果が一定にならなかったりで、『こうすればこうなる』って指南書が作れないんだろうな」


少し真剣な顔になりながら、ジンは続ける。


「だからさ、もしお前が少しでもその謎を解き明かせたら……きっと、創術を使う他の誰かの助けにもなるかもしれないな」


 ツムギは、自分の手をぎゅっと握りしめる。

やっぱり創術とは、単なる技術ではなく、人の想いを映すものなのかもしれない。

──自分が調べたことや、試したことが、いつか誰かの役に立ったら。

そんな願いを胸に、ツムギはそっと前を見つめた。


 ジンはそんなツムギを見守りつつ、ふと小さく息をついた。

 そして、ツムギには聞こえないほどの声で、ぽつりと呟く。


「……この間、みんなに贈ったやつ。あれも、そのうち変な変化をしそうだよな……」


 嬉しくはある。ツムギが作るものが、良い方向に変化していることは、確かにすごいと思うし、誇りにも思っている。

 だが同時に、だからこそ心配にもなる。あまりにも目立てば、どこかの組織や、得体の知れない連中の興味を引いてしまうかもしれない。

 あの子が無理をしたり、余計な厄介ごとに巻き込まれたりしなければいいが——


 気のせいで済めばいいが。

 ジンは苦笑しながら、ちらりとツムギの手元を見た。


 何が起こるかは、まだ分からない。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日は夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ