083. 創術についての考察
3月24日一回目の投稿です
「疲れただろう。ツムギの作るものは特別だから、みんな欲しくなっちゃうんだよな……まあ、俺もそうだしな」
ジンはそんな様子を見ながら、ぽつりと呟く。
ツムギが驚いたように顔を上げると、ジンはくすっと笑い、優しく頭を撫でた。
「お疲れさん。よくやったな」
短くそう言うと、ジンは腕を組み、ふと考え込むように目を細める。
「それにしても、ツムギの創術はすごいな……俺も創術を使うから分かるが、直したものや作ったものが、ちょっと使いやすくなったり、壊れにくくなったりすることはある。でも――」
ジンは改めて、ツムギが作ったアイテムを思い返すように視線を落とした。
「お前の創術は、いつもなんというか、斜め上の方向にいくよな」
ツムギは苦笑いしながら、指をトントンと顎に当てて考え込む。
「そう……なのかな? でも、POTENのアクセサリーや、イリアさんの依頼で手伝ったアイテムは、普通に創術した通りの効果しか出なかったよ?」
「それもそうだな。だが、お前が個人的に作ったもの――特に、思い入れのある人に向けて作ったものに限って、妙な進化をする気がする」
ツムギは眉をひそめ、過去の作品を思い返す。確かに、ハルのポシェットはただの修理にとどまらず、成長する不思議なポシェットになった。通信機となったマントどめも、魔導通信出来るようになればいいのに。とハルと冗談を言い合っていた。
「……でも、お父さんだって、創術で作ったものがちょっと特別になること、あったよね?」
「俺の?」
ジンが驚いたように聞き返すと、ツムギは頷いた。
「うん。たとえば、お母さんに作った鍋。普通に創術をかけたよりも、ずっと使いやすくなってたよ。焦げ付きにくくて、洗いやすいし……それに火を消し忘れてても、煮詰まらずに、ちゃんと煮込み続けられるなんて、ちょっとおかしいよね。」
「……ああ、確かに」
「それに、お父さんが私に作ってくれた勉強机。あれ、なんでか分からないけど、すごく集中できるんだよね。汚れにくいし、長時間座ってても疲れにくいし」
「……ああ、そういや他にもあったな。お前が小さい頃、『にんじんが苦手で食べたくない!』って泣いてたときに作った、あの木のスプーン」
「あっ、それ覚えてる!なんかあのスプーンで食べると、にんじんが甘くておいしく感じたんだよね! でも、私にしか味の違いが分からなくて……」
ツムギは思い出し笑いをしながら肩をすくめる。
「みんなに『そんなはずない』って言われて、私が嘘ついてるみたいになっちゃってさ……」
ジンもくすっと笑う。
「お前が真剣な顔で『ほんとだもん!』って言ってたの、今でも思い出すぞ」
「だって、ほんとにおいしかったんだもん……!」
ぽてが「ぽぺっ」と興味深そうにぴょんと跳ねた。
ジンはぽてを見ると、ふっと笑ってぽつりと呟いた。
「……まあ、変わったものといえば、ぽてもそうだな。最初はただのぬいぐるみだったのに、今じゃ……」
「ぽぺぺ!(いきてるもん!)」
ぽてが得意げにドヤっと胸(?)を張り、ツムギとジンの目の前でくるっと回ってみせた。
ツムギは笑いながら、ぽての頭をやさしく撫でた。
ジンは少し考え込んだあと、腕を組みながら話しだした。
「……なるほどな。やっぱり、創術に大事なのは、術者のその人への想いと、使う人のそのアイテムへの思いの強さなんじゃないか?」
「……そうかも」
術者が込めた想い。それを受け取る側の気持ち。両方が合わさったとき、ただの創術以上の何かが生まれる。
ハルのポシェットも、マントどめも、ツムギが相手の事を思い、心を込めて作ったもの。お父さんの鍋や机も、家族を思って作られたもの。
ツムギは、自分の手を見つめる。
「……お父さん、私、なんだかもっと創術のことが知りたくなってきた」
「はは、そりゃいいことだ」
ジンは穏やかに笑いながら、ツムギの頭をポンと軽く叩いた。
「……ただな、創術の属性を持ってる人間自体が少ないから、参考になる本もあんまりないんだよ。俺も昔、ツテを頼って何人かの創術屋に話を聞いてみたことがあるけど、やっぱりみんな似たようなことを言ってたな。同じように作ってても、変化の仕方が違ったり、結果が一定にならなかったりで、『こうすればこうなる』って指南書が作れないんだろうな」
少し真剣な顔になりながら、ジンは続ける。
「だからさ、もしお前が少しでもその謎を解き明かせたら……きっと、創術を使う他の誰かの助けにもなるかもしれないな」
ツムギは、自分の手をぎゅっと握りしめる。
やっぱり創術とは、単なる技術ではなく、人の想いを映すものなのかもしれない。
──自分が調べたことや、試したことが、いつか誰かの役に立ったら。
そんな願いを胸に、ツムギはそっと前を見つめた。
ジンはそんなツムギを見守りつつ、ふと小さく息をついた。
そして、ツムギには聞こえないほどの声で、ぽつりと呟く。
「……この間、みんなに贈ったやつ。あれも、そのうち変な変化をしそうだよな……」
嬉しくはある。ツムギが作るものが、良い方向に変化していることは、確かにすごいと思うし、誇りにも思っている。
だが同時に、だからこそ心配にもなる。あまりにも目立てば、どこかの組織や、得体の知れない連中の興味を引いてしまうかもしれない。
あの子が無理をしたり、余計な厄介ごとに巻き込まれたりしなければいいが——
気のせいで済めばいいが。
ジンは苦笑しながら、ちらりとツムギの手元を見た。
何が起こるかは、まだ分からない。
今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。
明日は夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。