082. ワクワクの通信検証
3月23日1回目の投稿です
ジン、イリア、リナは完成したそれぞれの魔導通信機を手に取り、ゆっくりとアタッチメントをつけて身につけた。ループタイや指輪、ペンダントとしてしっくりと馴染むように調整しながら、その手つきにはどこか嬉しそうな色がにじんでいた。
すると——
「……わぁ」
ツムギが驚きの声を上げる。
ハズレ召喚石が封入された部分が、淡く、優しい光を放っていた。それはまるで、新しく生まれた魔導具が「準備はできています」と告げているようだった。
「これって……成功、ですよね?」
ツムギはわくわくしながら、周りを見回した。
「よし、せっかくだから、みんなで一斉に接触させてみませんか?」
ツムギの提案に、ハルがぱっと顔を輝かせる。
「やるやる!!」
リナも「おお〜! 楽しそうやん!」と嬉しそうに頷いた。
「ぽぺ!(ぽても!)」
ぽてもツムギの肩の上でふわふわ揺れながら、小さく前のめりになる。
「じゃあ、一緒に!」
ツムギが手を伸ばし、ジン、イリア、ハル、リナ、ぽてもそれぞれのアクセサリーを軽く触れ合わせる。
——ぶわっ——
涼やかな風が、工房の中を駆け巡る。
「……起動した!」
ツムギが感動に目を輝かせた。
すると、リナハルが顔を見合わせ、同時に「せーの!」と声を合わせて、試しにツムギへメッセージを送った。
——《ツムギ、聞こえる?》
——《ツムギお姉ちゃん、ちゃんと声届いてる?》
ツムギのアクセサリーがふわりと光り、2人の声が同時に伝わってくる。
「すごい……! ちゃんと使えてる!」
ツムギが感動している間に、ぽても「ぽぺ!」と意気込みながら、マントどめをしっかりと握りしめる。
——《ぽぺ! ぽぺぺ!(ツムギ! すごい!)》
ぽてのマントどめがふわっと光り、ツムギのアクセサリーにもぽての声が響いた。
ぽては誇らしげにふわふわと跳ね、リナとハルはさらに楽しくなったらしく——
——《なあなあ、今度お揃いで別のアクセサリー作ってもらうのはどうや?》
——《いいね! じゃあ、ツムギお姉ちゃんにお願いしよう!》
——《なんか秘密のやりとりしてるみたいやな!》
——《ねー! 僕たち、秘密結社みたい!》
——《ぽぺ!(ぽても!)》
「えっ、ちょ、ちょっと待って! そんなにバンバン使って大丈夫なの……?」
そんなツムギの言葉も聞かず、リナとハル、そしてぽてまでキャッキャと盛り上がりながら、魔導通信を送り続ける。
一方、イリアとジンも冷静に見えるものの、目の前の魔導通信機の機能を確かめるように、いくつかのパターンを試し始めていた。
——《イリア、そっちの音質はどうだ?》
——《悪くないわね。リアルタイムの反応速度も問題なさそう》
——《ツムギ、これ、想像以上に便利やな》
次第に工房は、ひっきりなしに魔導通信のやりとりが飛び交う カオス状態 になっていた。
「ちょ、ちょっと、落ち着いてー!」
ツムギが慌てて手を振るも、楽しそうなみんなは全く止まる気配がない。
(ああ、作った本人が一番ついていけてない……)
こんなに喜んでくれてすごく嬉しいけれど、思わず頭を抱えたくなるようなカオスな状況に、ツムギは肩を落とした。
そんな中、ふと目に入ったのは、まだ工房の作業台に置かれている ノアとバルドのアクセサリーだった。
「……そうだ。せっかくだから、これも試してみよう」
ツムギはそっと、それらを手に取り、自分魔導通信機能と軽く触れ合わせた。
しかし——
何も起こらなかった。
淡い光すら、瞬くことはない。
「……うーん?」
ツムギが首をかしげると、ぽてが「ぽぺ?」と不思議そうに覗き込んだ。
「おかしいな……でも、考えてみたら、これってまだ持ち主の手に渡っていないよね」
ぽてが「ぽぺぺ……(ふむ?)」と首をかしげる。
ツムギはアクセサリーを見つめながら、小さく呟いた。
「やっぱり、これを使う人のことを思って作って、それを 本人に渡して 初めて発動するのかもしれない……」
ぽては「ぽぺ!(なるほど!)」と納得したように跳ねる。
「お母さんとバルド先生に渡すのが楽しみだな」
ツムギは微笑みながら、そっと未発動のアクセサリーを箱に戻した。
その後も、ツムギが呆然と立ち尽くす中、工房ではまだまだ魔導通信機を使ったやりとりが飛び交っていた。
——《イリアさん、日報もうこれでええんとちゃいますか?》
——《確かにそうね。これを使いこなせば、少しは休みを取れるようになるかしら?》
イリアもリナも、もしかしてワーカーホリックなのでは……? ツムギはそんな心配をしながら、今度甘いものでも差し入れようかと考える。
当の2人はそんなことを思われているとは露知らず、面白がりながら通信を試し続けていた。
——《ハルくん、また魔導通信機で話そうな!》
——《うん! いっぱい話そう!》
ハルも通信機を握りしめ、きらきらした目で楽しんでいる。ぽても「ぽぺ!(つうしん!つうしん!)」と嬉しそうに飛び跳ねていた。
「……とりあえず、今日のところはお開きにしましょうか」
散々遊び倒したあと、イリアが冷静にまとめると、さすがのリナたちも満足したのか、ようやく魔導通信機をそっと身につけ直した。
「ほんま、ええもん作ってくれたわ。ツムギ、ありがとな!」
「私も、これから活用させてもらうわね」
「ツムギお姉ちゃん、また寝る前に連絡するね!」
「うん! 何かあったら、魔導通信機で連絡してくださいね!」
三人はそれぞれ帰り支度を整え、工房を後にする。
ツムギは手を振って見送りながら、少しホッとしたように肩の力を抜いた。
今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。
明日は夜(22時〜23時)に更新予定です。
最近、アクションマークや評価などで応援してくださる方がいて、とても励みになっています。本当にありがとうございます!
今は、第二章を少しずつ書き溜めているところで、早く皆さんに読んでいただきたいなとワクワクしています。
これからも毎日更新を頑張りますので、またふらりと遊びに来ていただけたら嬉しいです。