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079. 魔導裁縫箱先生と魔導通信

3月20日1回目の投稿です

 ツムギは工房の温かい雰囲気に浸りながらも、「そうだ!」と何かを思い出したように手を叩いた。


「みんなに見せたいものがあるんです!」


 そう言いながら、大事そうに持っていたカバンから魔導裁縫箱を取り出し、カウンターの上にそっと置く。


 全員、不思議そうに箱を見つめる。


「これ、バルド先生の工房で修繕した魔導裁縫箱です!」


 ツムギがそう言うと、ジンが「ほう……」と興味深そうに箱を眺めた。


「確かにあの錆びついていたところから、よくここまで綺麗にしたな。中身の修繕もできたのか?」


 ツムギはにこっと微笑み、ゆっくりと箱の蓋を開く。


 すると、蓋にふわりと光が浮かび上がり、ゆっくりとした筆跡で文字が浮かび上がった。


『はじめまして 工房の みなさん』


「……!」


 驚きに息をのむ工房の面々。


「これ……箱が喋ったの?」


「ぽぺぺ……!(しゃべるせんせい!)」


 ツムギが少し照れくさそうに笑うと、イリアが腕を組み、冷静に魔導裁縫箱を見つめた。


「魔導具が自ら意思を持つことは、滅多にないことよ。でも、これは確かに……意志を持っているわね」


「……それも、ただの魔導具の発現とは違う気がする」


 ジンが手を顎に当て、じっと魔導裁縫箱を観察する。


「ツムギ、お前……まさか、これも相結そうゆいしたんじゃないのか?」


 ツムギは思わず箱を見つめる。

 確かに、これまで相結したアイテムたちは、ただの道具ではない「特別な何か」になっていた。ぽて、ハルのポシェット、マントどめ、そして——この魔導裁縫箱。


「でも……先生はバザールで譲ってもらったもので、私が作ったわけじゃ……」


 そう呟くツムギの前で、魔導裁縫箱の蓋にふわりと新たな文字が浮かぶ。


『わたしを なおしてくれて ありがとよ』


「ぽぺ!(ありがとう いわれた!)」


 ハルがぽてを撫でながら、不思議そうにツムギを見上げる。


「ツムギお姉ちゃんの創術って……なんかいつも、不思議な進化をするよね」


 ツムギはそっと魔導裁縫箱の蓋に触れた。


「先生、こちらこそ、よろしくお願いします」


 すると、蓋にゆっくりと筆跡が現れる。


『こちらこそ よろしくね』


 その後、ツムギは魔道裁縫箱を「先生」と呼んでいることや、バルドの工房での出来事を簡潔にみんなに伝えた。


「なるほどな……相結そうゆいってのは、ただ魔法的に結びつくことじゃない。持ち主の想いが、道具に宿ることだ……それがこんな形で現れるとはな」


 イリアも静かに頷いた。


「これは、ただの魔導具ではなく……ツムギの『先生』なのね」


ツムギは魔導裁縫箱を見つめながら、じんわりと胸が温かくなるのを感じた。



 魔導裁縫箱先生のお披露目が一段落したのを見て、次の報告に移ることにした。


「それから……エリアスさんのペーパーウェイトの魔導通信機能も起動しました!」


 そう言うと、工房にいた皆が興味深そうにツムギを見つめた。


「おっ、エリアスのもか!」 ジンが感心したように頷く。


「ペーパーウェイトって、ツムギが前に作ったっていう……?」 イリアが確認するように問いかけると、ツムギはうん、と頷いた。


「はい、証契の塔に行って、ちゃんと動作するか試してみたんです。そしたら、無事に起動して——エリアスさんとも魔導通信ができるようになりました!」


 その言葉に、リナが「ほえ〜」と目を丸くする。


「それってつまり、エリアスさんとも遠くからでもおしゃべりできるってこと?」


「うん! どこまで届くかはまだはっきりとは分からないんですけど、王都と町くらいの距離なら問題なく通信できるみたいです!」


「ほう……それはすごいな」 ジンが腕を組みながら感心したように頷く。


「じゃあ、実際にエリアスさんに送ってみようか?」


 ツムギがそう提案すると、リナが「おお!」と興味津々に身を乗り出した。


 ツムギは、自分のマントどめをそっと触れ、エリアスの姿を思い浮かべながら優しく語りかける。


—— 《エリアスさん、こんにちは。今、工房でみんなに魔導通信のことを説明しているところなんです。ちょうどいい機会なので、テストも兼ねてメッセージを送ってみました!》


 ツムギがメッセージを送ると、マントどめが淡く光を帯びた。

 そして、送信して数秒も経たないうちに、ツムギのマントどめが再び光った。


「はやっ!!!」


 リナが思わずツッコむ。

 ツムギが急いでマントどめを触れると、エリアスの落ち着いた声が響いた。


—— 《ツムギか。通信は問題なく届いているようだな。証契の塔でも試したが、やはりお前の作るものは優秀だ。……皆さんにもよろしく伝えてくれ》


「……エリアスさん、めっちゃ即答やん……」


リナが驚いたように呟くと、イリアは静かに頷いた。


「ふふ、あの人、実はすごく気に入ってるんじゃないかしら?」


「ぽぺ!(きっと だいじに してる!)」


 ツムギは笑いながら、「とりあえず、通信が問題なく届くことは確認できました!」と皆に向かって報告した。


 エリアスからの即座の返信に、工房の空気が和やかにざわめいた。


「びっくりしたわ、これ……!」

 リナがツムギのマントどめをじっと見つめながら、目を輝かせた。


「やっぱり便利そうね」

 イリアも腕を組み、考え込むように言う。


「私も欲しい!」

「私もよ」


 二人の声がほぼ同時に重なった。

 ツムギが驚いて顔を上げると、リナは満面の笑みを浮かべ、イリアも真剣な眼差しでツムギを見つめていた。


「ツムギの作るものは面白いし、実用的やん? それに、遠くにいる取引先とのやり取りにも使えそうやし!」


「ええ、私も商売上、こういう魔導通信の道具があると助かるわ。もちろん、ちゃんと対価は払うわよ」


 イリアがさらりと言うと、リナも「うちもやで!」と力強く頷いた。


「そ、それはありがたいけど……」


 ツムギは少し戸惑いながらも、考え込む。


 この通信機能を持つアクセサリーには、ハズレ召喚石を使う必要があるが、そろそろ在庫が心もとなくなってきている気がする。


 ——ツムギは、工房の奥の棚へ向かい、小さな木箱を取り出した。


 ふたを開けると、中には大きめのハズレ召喚石が 一つ と、それよりも小さな欠片が 数個 入っていた。


「この石が、通信機の元となる魔石らしいんです。割って使うことはできると思うんですけど……どうやらレアな石らしくて」


 イリアが興味を示し、リナも「そんな珍しいもんなん?」と首をかしげる。


「バルド先生も、ほとんど見たことがない石らしいんです。なので、今のところ大量生産ができないんです。今あるハズレ召喚石も、バザールのくじ引きでたまたま手に入れただけで……同じものはもうおそらくないと思います。」


「なるほど……貴重な素材ってことね」


 イリアが冷静に頷く。


「それに、この通信機能は ハズレ召喚石が入ったもの同士でないと接続できないみたいなんです。だから、普通の魔道通信機とは違って、自由に誰とでも繋がれるわけじゃなくて……おそらく専用のアイテム同士でないと繋がらないんです」


「そっかぁ……じゃあ、取引先ごとに対応するのは難しいかも しれんね」


 リナが顎に手を当て、うーんと考え込む。


「……それに、まだ検証実験が必要なんです。今回エリアスさんのはうまくいったけど、作ったもの全てに魔導通信機能がつくとは限らなくて。どんな条件で発現するのか、私もまだちゃんと分かっていなくて……」


 ツムギは少し申し訳なさそうに肩をすくめる。


「だから、今はまだ、商売向けに作るっていうのは難しいかなって……」


「なるほど……確かに、不安定なものを取引で使うのはリスクがあるわね」


 イリアが理解したように頷く。


「まぁ、たしかに大量生産は無理かもしれんけど、ツムギが作ってくれたら個人用には問題ないよな?うち、ツムギと毎晩話したいわー!」


 リナはそう言いながら、にやっと笑う。


「リナさんと話せるのは、私ももちろん嬉しいけど……」


 ツムギが苦笑いしながら答えると、イリアも「気長に待つわ」と微笑んだ。


 ツムギは、ふとバルド先生の言葉 を思い出した。

「そういえば、バルド先生が言ってたんです……ハズレ召喚石って、本当は未発現の魔導結晶じゃないか って」


「未発現の魔導結晶……?」


 イリアが静かに呟く。リナも「なんやそれ?」と首をかしげた。


「普通の魔導結晶って、最初から属性とか用途が決まってるんです。でも、未発現の魔導結晶は 持ち主の魔力や意図によって特性が変化する らしくて……」


 ツムギは魔導裁縫箱を修復した時のことを思い出しながら、続けた。


「でも、それを活性化するには 適切な創術が必要 で……だから、私の創術で加工したものが、たまたま魔導通信の機能を持つようになったんじゃないかって」


「なるほど……だから、普通の加工では発現しないかもしれないってことか」


 イリアが鋭く分析する。リナも腕を組んで考え込んだ。


「てことは、ハズレ召喚石をただ使うだけじゃ意味がないんやな。創術を使う者の思いを通して初めて目覚めるっちゅーことか?」


「うん……そんな感じだと思う」


 ツムギが頷くと、リナとイリアは興味深そうに顔を見合わせた。


「おもしろいやん」


「ええ、ますます興味が湧いてきたわね」


「ぽぺ!(ふしぎな いし!)」


 ぽてがツムギの肩の上でふわふわ揺れながら、小さく鳴く。


 その時、今まで大人しく話を聞いていたハルが、急に拳を握りしめ、真剣な顔でツムギを見上げた。


「ぼく、ツムギお姉ちゃんのために、この石を探してくる!だって、レアなんでしょ? なら、ぼくは冒険者になるんだから、ツムギお姉ちゃんの役に立てるように、この石を見つける!」


 ハルの可愛い決意に、工房の空気がふわっと和らぐ。


「おお〜、かっこええやん! 未来の冒険者さん!」リナが楽しそうにハルの頭をぽんぽんと撫でる。


「ふふ、頼もしいわね」イリアも微笑みながら、ハルの瞳の輝きを見つめた。


「ありがとう、ハルくん。でも無理しちゃダメだからね?」


ツムギが優しく微笑むと、ハルは「うん!」と元気よく頷いた。


一通り話が落ち着いたところで、もう一度イリアとリナを見た。


「それでさっきの話ですけど、イリアさんとリナさんの分も、魔導通信がつくかどうかは分からないけど……作りますね!」


「ほんま!? やったぁ!」


「ありがとう、ツムギ」


 二人が嬉しそうに笑う。


「アタッチメントはもう好みのをお使いだと思うので、パーツだけの方が使いやすいですか??」


 ツムギが確認すると、イリアが「そうね、それなら他のアクセサリーにも使い回せるし、便利かも」と頷いた。リナも「うちもそれがええ!」と満面の笑みで答える。


 ツムギは「分かりました!」と笑顔で頷いた。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日は夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。


最近一日一話更新で、ごめんなさい。初めの方のエピソードの改稿や、第一章をほぼ書き終えたので、二章の内容を考えさせてもらったりしてます!


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