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077. 軽量化の魔法陣

3月19日1回目の投稿です

 証契の塔を後にし、ツムギとバルドは工房へ戻った。


 エリアスの「できるだけ早く手元に戻したい」という無言の圧を受け取ったツムギは、工房に着くや否や、すぐさま作業机に向かう。


「よし、さっそく取りかかるぞ」


 バルドも、ツムギの気持ちを察したのか、すぐに道具を手に取り、真剣な表情で作業に入る構えを見せた。


「ぽぺぺ!(がんばる!)」

 ぽてもツムギの肩の上で小さく気合いを入れる。


 ツムギは今回バルドの工房に持ってきた素材袋の中を探りながら、エリアスのペーパーウェイトに使えるアタッチメントはないか確認する。


「バルド先生、たまたま持ってきたアタッチメントの中に、ちょうど合いそうなものがありました!」


 ツムギは袋の中から、シンプルなアタッチメントパーツを取り出し、ペーパーウェイトの枝の部分と、透輝液の雫部分にそれぞれ合わせてみる。微調整は必要だが、サイズ的には問題なさそうだ。


「ふむ、ちょうどいいな。では、それを使うとしよう」


 作業を進める中で、ツムギはふと時計代わりに使っている魔導具を確認し——


「……あっ」


思わず小さく声を漏らした。


 すでに日は傾き、すっかり夕方になっている。ここから帰宅していたら、確実に夜になってしまう。


「……うん、これはもう今日は帰れないな……」


 ツムギは観念し、肩を落としながらも苦笑する。ぽては「ぽぺぺ……(やっぱり)」と少しあきれたように揺れた。


(お父さんとお母さんが心配するし、ハルくんに伝言お願いできるかな……)


 ツムギはそっとマントどめに手を添え、ハルの姿を思い浮かべる。


—— 《ハルくん、こんばんは! ツムギだよ。ごめんね、ちょっと予定が伸びちゃって、今日は帰れなさそうなの。だから、できたらお父さんに『今日はバルド先生の工房に泊まります』って伝えてくれる?》


 一拍置いて、もう一つ伝えたいことを思い出し、ツムギは続けた。


—— 《あとね、エリアスさんとも魔導通信ができたよ!今度、ハルくんの透輝液のパーツとエリアスさんのペーパーウェイトの透輝液部分を触れさせてみて。そしたら、たぶん通信できるようになると思う!》


メッセージを送り終えた瞬間、マントどめがふっと光を放ち、すぐに消えた。


すると——ものの数秒で、ツムギのマントどめが再び淡く輝いた。


「……えっ?」


驚いてツムギが手を添えると、そこからハルの声が優しく響く。


—— 《ハルです。メッセージ聞いたよ。今、近くにいるから伝えておくね! ツムギお姉ちゃん、作業頑張ってね!》


ツムギは思わず笑みをこぼした。


「……ふふっ、ありがとう、ハルくん」


「ぽぺ!(ハル いいこ!)」


 ぽても嬉しそうに小さく跳ねる。


 たった一言でも、ちゃんと届いて、返事が返ってくる。そのことが、なんだかとても心強かった。


 ツムギは改めて気持ちを引き締め、バルドのもとへと戻った。


「さて、次の工程に入るか」


 バルドが満足げに頷きながら、アタッチメントの調整を進める。


 ツムギは、透輝液の雫部分を取り外し可能にするため、パーツの組み合わせを改めて確認した。


「バルド先生、これで、透輝液のパーツを枝、ループタイ、マントどめのどれにでも付け替えられるようになりました!」


 実際に試してみると、透輝液の雫部分がスムーズに取り外せ、それぞれの土台に装着できるようになっている。


「うむ、よく考えられているな」


 バルドも細かく調べながら頷いた。

 ツムギはパーツを手に持ち、少し重さを感じながら眉を寄せた。


「……うーん、やっぱりちょっと重いですね」


 バルドも試しに手に取ると、「ふむ」と腕を組んだ。


「軽量化の魔法陣を施すべきだな」


「ですよね! 軽量化の魔法陣を試作してみます!」


 ツムギは意気込むと、ノートを取り出し、すぐに設計に取り掛かろうとする。


 バルドはその姿を見て、「それは練習にはもってこいの題材だ」と満足げに頷いた。


 すると——


『軽量化なら、こんな魔法陣がある』


 ツムギの目の前で、魔導裁縫箱の蓋に淡い光が走る。やがて、緻密な魔法陣の図がすうっと浮かび上がった。


「……!」


「ほう……これは見たことのない魔法陣だな」


 バルドが興味深げに眉を上げ、手元の眼鏡を持ち上げる。


「なるほど、これは重量分散の応用か……通常の軽量化魔法陣とは構造が違う。単に質量を減らすのではなく、持ち主が扱うときだけ負担を軽くする仕組みになっているようだな」


 ツムギは目を輝かせながら、魔法陣をじっと見つめた。


「すごい……! 先生、これをもとに設計を進めてみます!」


「よし、それがいい。だが、そのままでは魔法陣のサイズが大きすぎるな。雫のパーツにかくには、小型化が必要だ」


 バルドの指摘に、ツムギはすぐにノートを開き、縮小するための調整を始める。


 ぽても興奮気味に跳ねながら、ツムギの肩の上で覗き込む。


「ふむ……ツムギ、お前の考えを聞かせてみろ」


 バルドが腕を組みながら促すと、ツムギは軽く頷き、ペンを走らせながら説明を始めた。


「魔法陣のこの部分を圧縮して、力の流れを変えれば、構造を崩さずに小さくできると思います。でも、それだと持続時間が短くなってしまいそうで……」


「そうだな。ならば、持ち主の魔力を少しずつ循環させる仕組みにするといい。常時効果を発揮するのではなく、持ち主が触れている間だけ発動するようにすれば、魔力の消費も抑えられる」


 バルドのアドバイスを受け、ツムギは目を輝かせる。


「なるほど……! それなら、雫のパーツにぴったりのサイズにできそうです!」


「よし、ならば設計を固めるぞ。お前が魔法陣を描き、わしが微調整をしてやろう」


 ツムギは魔導裁縫箱の蓋に浮かび上がる魔法陣を参考に しながら、慎重にノートへと描き写していく。

 バルドはその様子をじっと見守り、時折鋭い指摘を加える。


 こうして、ツムギの設計とバルドの知識、そして魔導裁縫箱の導きによって、ついに雫のパーツにぴったりの軽量化魔法陣が完成した。


 ツムギは完成した魔法陣を描くために、魔導裁縫箱の中で、布や糸を裁つために使われていた小さな魔導ペンを手に取り、アクセサリーのパーツにそっと触れる。すると、魔導裁縫箱の蓋にふわりと魔法陣が浮かび上がった。


「ぽぺ……!(すごい……!)」


 ぽてがツムギの肩の上で、じっと魔導裁縫箱を見つめる。ツムギは深呼吸し、慎重に魔力を流し込んだ。すると、透輝液の雫のパーツが淡く光り、魔法陣がゆっくりと刻まれていく。

 最後の魔力を注ぎ込むと、透輝液の雫がふっと軽くなる感覚がした。


「先生、できました!」


 ツムギが嬉しそうに報告すると、魔導裁縫箱の蓋にすっと文字が浮かび上がった。


『ようやったねぇ』


 ツムギは思わず笑顔になり、そっと箱の蓋に手を触れる。


「先生、ありがとうございます」


すると、先生と呼ばれた魔導裁縫箱はしばらく沈黙したあと、ふわりと優しい筆跡で文字を浮かび上がらせた。


『たいしたもんだよ』


 ツムギは思わずくすっと笑う。なんだか、ほんわかした温かさを感じる。


「ふむ……なんとも、味のある反応だな」


 バルドも感心したように頷きながら、ツムギが仕上げた透輝液の雫のアクセサリーを手に取った。


「さて、どれほどの効果があるか、試してみるか」


 バルドは、早速ループタイのパーツに透輝液の雫を取り付け、手のひらに乗せて重さを確かめる。


「おお……ちゃんと軽い! しかも、違和感がない。成功だな……!」


「エリアスさんも、これなら持ち歩きやすくなるはずです!」


 ツムギが嬉しそうににこっと微笑むと、バルドも穏やかな眼差しを向け、「そうだな」と静かに頷いた。その表情には、どこか誇らしげな色が滲んでいた。


「……これなら、わしでも持ち歩きやすいな」


 そう言いながら、バルドはループタイの留め具を調整しつつ、鏡の前で微妙な角度を試していた。


「ぽぺぺ……!(きにいったね!)」

 ぽてが嬉しそうにツムギの肩の上で揺れながら、ちいさくくすくすと笑うツムギ。


「バルド先生のループタイも、早めに作って、次の授業の時に持ってきますね!」


 ツムギがそう言うと、バルドは満足げに頷きながらも、どこか得意げに口を開いた。


「よし、それは楽しみにしておこう。お前の腕前、しっかり見せてもらうぞ」


「ぽぺ!(バルド先生も おそろい!)」


 ぽてが嬉しそうにぴょんっと跳ねる。ツムギもその言葉に思わず笑顔になった。


「確かに、先生とエリアスさんのもお揃いですね」


 バルドは「そうだな」とそっけなく頷くだけだったが、その表情の端に滲む微かな嬉しさを、ツムギはしっかりと見逃さなかった。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

本日は夜(22時〜23時)にも更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。

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