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076. エリアスと魔導通信

3月18日2回目の投稿です


障害で中々サイトに繋がらず、遅くなってしまいました。ごめんなさい。

 ツムギとバルドは、堂々たる佇まいの証契の塔の前に立っていた。建物は厳かだが、出入りする商人や職人たちの活気で溢れている。


「ぽぺぇ……(やっぱひろーい……)」

 ぽてはツムギの肩の上でふわふわ揺れながら、高い天井を見上げる。


「本当に、何度来ても大きいですね」

ツムギも改めて塔を見上げた。


「ふむ……」

 バルド先生は腕を組みながら、じっと塔を見上げる。


「バルド先生、証契の塔にはよく来られていたんですか?」


「いや、昔、技術登録のためによく通っていたよ。だが、それも随分と前の話だな」


「そうだったんですね」


 ツムギは軽く息を整え、入口の扉を押し開けた。


 中へ入ると、塔の内部は静かでありながら、絶え間なく書類を抱えた証契士や商人が行き交い、活気に満ちている。


「受付は……あ、あちらですね!」


 ツムギは正面の受付カウンターへと向かう。そこで、一人の証契士が書類を整理していた。


「すみません、ツムギと申します。エリアスさんにお会いしたいのですが、ご在席でしょうか?」


 受付の証契士がツムギの名前を聞くと、記録簿を確認してから塔の奥へと向かっていく。


 待つ間、ツムギはわくわくしながらこれから起こる事を考えていた。。バルドも腕を組みながらソワソワしている様子である。

 やはり、気になるのだろう。


「ふむ……本当に魔導通信機能が発現するのか、わしも楽しみだな」


「はい……でも、実はちょっとドキドキしてます」


「ぽぺ!(だいじょうぶ!)」


 ぽてはツムギの肩の上で、小さくぽよんと跳ねる。


 そんなやりとりをしていると、落ち着いた足取りでエリアスが姿を現した。


「ツムギ、よく来たな」


「エリアスさん、ご無沙汰してます!」


 ツムギは丁寧に頭を下げ、ぽても「ぽぺ!」と元気に鳴いた。


「それと……こちらはバルド先生です。今日はご一緒させていただいています。」


「バルド・ガリウス先生ですね。初めまして、お会いできて光栄です」


 エリアスはいつになく真剣な表情で、深々と頭を下げる。


「ほぅ? ひょっとして、わしのことを知っておるのか?」


「はい。バルド先生ほどの職人であれば、その名を存じ上げていて当然です。魔導具の修繕技術における実績と功績は、証契の塔にも記録が残っておりますので」


 バルド先生は少し意外そうな表情を浮かべたが、すぐに満足げに頷いた。


「……昔は色々と無茶をしたが、そんな風に言われるようになるとはな」


「バルド先生のような職人とお話できる機会は貴重です。お越しいただけて光栄です」


 エリアスは静かに言葉を続けたが、その瞳はどこか興味を抑えきれないような光を宿していた。


「それで……今日は、ペーパーウェイトの検証か?」


 エリアスが静かに問いかけると、ツムギは頷いた。


「はい! 以前お渡ししたペーパーウェイトに封入したハズレ召喚石が、魔導通信機能を発現する可能性があるんです。実際に接触させて試してみたいと思って……」


 エリアスは考え込むように顎に手を当てる。


「手紙で話していたことだな……実は、あれからペーパーウェイトを観察していたんだが……ごく稀に、光が揺らめくのを確認した。だが、それ以上の変化は見られなかった」


「おそらく、それは魔導通信機能が覚醒しかけていたんだと思います!」


 ツムギは力強く言い、バルド先生も腕を組んで頷いた。


 エレリアスはペーパーウェイトに視線を落とし、指先でそっとなぞった。

 もともとツムギが作ったこの品は、透輝液の中に閉じ込められた魔力を帯びた草花が美しく輝くデザインだったが——もしこれが魔導通信機能を持つなら、実用性も格段に上がる。


「なるほど、では早速試してみてくれ」


 エリアスは机の上にペーパーウェイトを置き、ツムギを促した。


「ありがとうございます! ……じゃあ、やってみますね!」


 ツムギは自分のマントどめをそっと取り出し、ペーパーウェイトにゆっくりと触れさせた。

バルドも興味津々といった様子で、じっとその様子を見守っている。


——すると。


ふわっと涼やかな風が吹いた後、淡く、優しい光がペーパーウェイトの中に広がった。


「……起動しました!」

 ツムギは興奮を抑えきれずに小さく声を上げる。


「じゃあ、実際に使えるかどうか試してみますね!」


 そう言って、ツムギは自分のマントどめにそっと手を当て、エリアスを思い浮かべながら意識を集中させる。

 静かな部屋の中に、わずかに魔力の流れが変化するのを感じた。


—— 《エリアスさん、聞こえますか? ツムギです》


 すると——


 エリアスのペーパーウェイトが、ゆっくりと淡く輝いた。


 バルドが腕を組んだまま興味深そうに見守り、ぽてもツムギの肩の上でじっと様子を伺っている。


「……光ったな」

 エリアスがペーパーウェイトを見つめ、眉をひそめる。


「エリアスさん、ペーパーウェイトに触ってみてください!」


 ツムギが促すと、エリアスは慎重にペーパーウェイトへと手を伸ばした。


——次の瞬間。


—— 《エリアスさん、聞こえますか? ツムギです》


 ツムギの声が、ペーパーウェイトから鮮明に響いた。


「……っ!」


 エリアスの目がわずかに見開かれる。

 ツムギもバルドも、成功を確信して顔を見合わせた。


「ぽぺぺ!(きこえた!)」


 ぽてがピョンっと跳ね、ツムギは満面の笑みを浮かべる。


「成功……ですね!」


 エリアスはしばらくペーパーウェイトを見つめた後、静かに頷いた。


「……本当に通信が可能なのか」


「はい! これなら証契の塔とも離れた場所から連絡が取れるようになると思います!」


 エリアスは指でペーパーウェイトを軽くなぞりながら、小さく息を吐いた。

 その仕組みを考えているのか、それとも、まさか本当に成功するとは思っていなかったのか


 ——どちらにせよ、その表情はいつもの彼よりもわずかに驚きを含んでいた。


 バルドが静かに腕を組み、にやりと笑う。


「どうだ、エリアス。この小娘の創術は、なかなか面白いものを生み出すだろう?」


 エリアスは静かにペーパーウェイトを置き、真剣な眼差しでツムギを見つめた。


「……相変わらず、期待を裏切らないな」


 エリアスはそっけなくそう言いながら、視線を逸らす。だが、その目の奥には、確かな満足と、少しだけ誇らしげな光が宿っていた。


 その後、静かにペーパーウェイトを持ち上げ、光の加減を確かめるようにじっと見つめた。


「面白いな……本当に、通信機能を持つとは」


 ぽてがツムギの肩の上でぴょんぴょんと跳ね、バルドも感心したように頷いた。


「……しかし、ツムギ。この機能、どの範囲まで届くのか試したことはあるのか?」


 エリアスの冷静な指摘に、ツムギはハッとして、再びペーパーウェイトとマントどめを見つめた。


「ううん、まだ正確には……でも、ハルくんとは王都と町でやりとりできてるので、そこそこ広い範囲で使えると思います!」


「……ならば、実験する価値はありそうだな」


 エリアスは静かに微笑み、ペーパーウェイトを机に戻した。


「お前が作るものは、やはり興味深いな、ツムギの創術は、ただの技術ではなく、新しい価値を生み出している。そのことを自覚しておけ」


 ツムギは少し照れたように笑い、そっとマントどめを握りしめた。


 ——しかし、その次の瞬間。


「……ところで、ツムギ、なぜ、俺の魔導通信機はペーパーウェイトなんだ?」


 エリアスの声が、どこか妙に冷静に響く。


「はい?」


「……なぜ、アクセサリーじゃないんだ」


 エリアスはペーパーウェイトをじっと見つめながら、どこか納得のいかない表情を浮かべている。


「お前とハルのマントどめは、軽くて持ち運びやすい。そして通信機能も完璧に使える。……なのに、なぜ俺のは書類を押さえるための重りなんだ?」


「えっ、それは……」


 ツムギは思わず言葉に詰まり、視線をさまよわせる。


「俺は、これをどうやって持ち歩けばいい?」


 エリアスは、わざとらしくペーパーウェイトを片手に乗せた後、少し手を動かしてみる。


「……片手でずっと持つか? いや、無理だな。なら、肩に乗せるか? いや、目立つし、何より重すぎる。腰にぶら下げるか? いや、これは……武器か?」


「ぽぺぺ……(うん、それは つらい……)」


 ぽてが気の毒そうにエリアスを見上げる。


「……あの、エリアスさん?」


 ツムギはその様子を見て、少し笑いを堪えながら口を開く。


「そんなに持ち歩きたいなら、透輝液の雫の部分を取り外せるようにして、アタッチメントをつけてアクセサリーとしても使えるように加工しましょうか?」


 エリアスがピタリと動きを止めた。


「……できるのか?」


「はい! ちょうど雫の部分は古い木の枝と分解できる仕様なので、それぞれにアタッチメントをつければ、ペーパーウェイトとしても、アクセサリーとしても使えるようになります!」


 バルドが興味深そうに頷く。


「確かに、分解できるのであれば、アタッチメントをつける事はできそうだな。わしもアタッチメントの構造は気になっていたところだ」


 エリアスが少し考え込むようにして呟いた。


「こうしてアクセサリーとして身につけられるのは良いが……重くないか?」


「それなら、軽量化の魔法陣を書いてみます!今、バルド先生に魔法陣を学んでいるので、その練習も兼ねて試してみようかと!」


「ほう、確かにそれはちょうどいいな!」


 バルドが満足げに頷く。


「軽量化の魔法陣は応用範囲が広いし、実践的な訓練にはもってこいだ」


「ぽぺ!(いいねー!)」


 ぽてがツムギの肩の上でぴょんと跳ねる。


 エリアスは腕を組んでツムギを見つめ、ふっと小さく笑った。


「……お前は本当に、ものづくりに対する情熱が尽きないな」


「えへへ、考えてると楽しくなっちゃうんです!それじゃあ、バルド先生の工房で加工して、完成したら持ってきますね!」


 ツムギはそう言いながらペーパーウェイトに手を伸ばす——が。


「……いや」


 エリアスが、無意識にペーパーウェイトを少し引き寄せた。


 ツムギが首を傾げると、エリアスはほんの一瞬だけ視線をそらし、咳払いをしてから淡々と続ける。


「……なるべく早く仕上げてくれ。あまり手元から離したくない」


 ツムギはきょとんとした顔をするが、エリアスは無表情を装いながら、そっとペーパーウェイトをツムギに手渡した。


(……お前が作ったものだから、大事に決まってるだろ)


 そんな本音はもちろん口にしない。

 バルドはそんなエリアスの微妙な仕草を見て、ククッと喉を鳴らして笑った。


「そうかそうか、それほど気に入ったか」


「……別に、ただ、使い勝手がいいだけだ」


 エリアスはそっけなく言いながら、視線を逸らす。


「ふふっ、わかりました! なるべく早く仕上げますね!」


 ツムギは明るく微笑みながら、大切そうにペーパーウェイトを包む。


 エリアスは腕を組んだまま、それをじっと見つめ——小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。


「……頼んだぞ」


 ツムギはそんなエリアスの想いを知らぬまま、バルドと共に証契の塔を後にするのだった。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日はお昼(12時〜13時)と夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。

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