表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/168

075. ハズレ召喚石の正体

3月18日1回目の投稿です

 ツムギは改めてバルド先生に向き直り、真剣な表情で尋ねた。


「バルド先生、アクセサリーはマントどめがいいですか?それともループタイとか?」


 そう言いながら、ふとガルスにプレゼントしたループタイを思い出す。あれは結構かっこよかった。


 バルド先生は腕を組みながら、少し考え込んだ。


「ふむ……ワシはループタイの方がしっくりくるかもしれんな」


「分かりました! じゃあ、ループタイにしましょう!」


 ツムギが頷くと、バルド先生はちらっとツムギの胸元を見て、興味深そうに言った。


「しかし、そのアタッチメントというのはなかなか面白いな。取り替えられるとは、実に合理的だ」


「はい! デザインを自由に変えられるので、用途に合わせて好きなものをつけられるんです!」


 ツムギが嬉しそうに説明すると、バルド先生は目を輝かせ、拳をぽんと手のひらに打ちつけた。


「ワシともそのパーツ研究してみるか? ワシはデザインには自信がないが、魔石との組み合わせなら得意だぞ!」


「えっ、本当ですか!? ぜひお願いします!」


 ツムギの声が弾む。まさかバルド先生と一緒にアタッチメントの研究ができるなんて思わなかった。魔石と組み合わせることで、面白い効果がついたパーツが生まれるかもしれない。


「よし、決まりだな。ワシも何か試作を作ってみるとしよう」


 バルド先生が満足げに頷く。ツムギはますます楽しみになってきた。


「それじゃあ、バルド先生のループタイは、父と母の魔導通信機も作るのて、その時に一緒に作りますね!」


「ジンとノアにも、か」


 バルド先生がぽつりと呟く。


「そうなんです。父が欲しくなったみたいで頼まれて。だから、家族みんなでお揃いにしたら、面白いかなって母のも作ることにしたんです。」


 ツムギが笑うと、バルド先生は「ふむ……」と頷きつつ、なぜか少しそわそわし始めた。


「お、お揃い……か……いや、わしも、たまたま、ジンたちと少し似たデザインになるのは……まぁ、悪くないというか……いや、その、特にこだわりがあるわけでは……うむ……」


何を言いたいのか分からず、ツムギが首をかしげると、ぽてがピクリと反応した。


「ぽぺぺ!(ちょっと いっしょが いいと おもってる!)」


 バルド先生が一瞬ぎくっと固まり、ぽてを見つめる。ツムギはぽての言葉の意味を察して、なるほど!と思い、にっこり微笑んだ。


「じゃあ、先生のループタイも、父と母のとちょっと似たデザインにしましょうか?」


「……む、まあ……そういうのも、悪くはないな」


 そう言いながら、バルド先生はゴホン、と大袈裟に咳払いをした。


(素直じゃないなぁ、もう)


 ツムギは微笑ましく思いながら、先生のためのループタイを作るのが、ますます楽しみになったのだった。


 アクセサリーの話がひと段落すると、バルドは、先ほどまでの楽しげな様子とは打って変わり、真剣な職人の顔に戻った。


「……ツムギ、そのハズレ召喚石とやら、もしかすると、未発現の魔導結晶 かもしれん。わしも、数回しか見たことはないから、おそらくとしか言えんが。」


「未発現の魔導結晶……?」


 ツムギは言葉を繰り返しながら、バルド先生の真剣な表情を見つめた。


「通常の魔導結晶は、最初から属性や用途が決まっているものだ。しかし、未発現の魔導結晶というのは、持ち主の魔力や意図によって特性が変化するという特殊な性質を持つ。つまり、お前が創術で加工したことで、本来の力が引き出されたということだ」


 バルド先生は腕を組みながら、ツムギのマントどめをじっと見つめた。


「適切な創術が施されなければ、石はただの『未発現』のまま何の力も発揮せん。だからこそ、バザールでは『ハズレ』扱いされていたのだろうな。お前の創術が、この石の力を引き出したのだろう。今のところ発現したのは魔導通信機能だけのようだが……もしかすると、条件次第では他の力を引き出すことも可能かもしれんぞ」


 バルド先生の言葉に、ツムギは驚きと興奮を隠せなかった。


「例えば、属性魔法を帯びるとか、持ち主を守る結界を張るとか、そういう機能を望めば、そう変化する可能性もある。だが、それは持ち主とお前の創術次第というわけだ」


ツムギは自分のマントどめをそっと指でなぞった。


「……じゃあ、もしまたハズレ召喚石で何かをつくったら……持ち主の使い方と私の創術で、違う力を引き出せるかもしれないってことですよね?」


 バルド先生はゆっくりと頷いた。


「その可能性は高いな。今は通信機能しか確認できておらんが……お前の創術の幅が広がれば、さらなる力が目覚めるやもしれん」


 ツムギの胸が高鳴った。


「だがな、ツムギ、そのハズレ召喚石……いや、未発現魔導結晶は、とても珍しいものでな、お前が持っているのは、バザールのくじ引きで手に入れたものだと言ったな。たまたま、効果を知らないものがクズ魔石だと思って出したのだろう」


「そういえば、私も初めてみる綺麗な石だなって思いました……」


 バルド先生はゆっくりと頷いた。


「つまり、そう簡単に手に入るものではないということだ。」


 ツムギは考え込むようにマントどめを見つめた。


「……まだ少しだけ残っていますが、大切にしないとですね」


 研究ができるほど大量に入手するのは難しそうだが、未知の魔導結晶の可能性——それは、ツムギの創術の未来に、新たな道を切り開く鍵になるかもしれない。

 

 ツムギはわくわくしながら、マントどめをそっと握りしめた。


 バルドは腕を組みながら、ふうっと長い息を吐いた。


「……なんだか、今日は色々と面白いことがありすぎたな」


「本当ですね……!」


 ツムギも思わず笑いながら、修繕したばかりの魔導裁縫箱を撫でる。


「バルド先生、万縫箱の修繕はどうしましょう?」


 バルド先生はちらりと万縫箱を見やると、ゆっくりと頷いた。


「今日はもう十分すぎるほどの進展があった。ツムギも疲れただろう。続きはまた来週にしよう」


「はい、わかりました!」


 ツムギも素直に頷く。


(今日だけで、新しいことをたくさん学べたし……確かに少し疲れた様な気もするし、無理せず、次に進めた方がいいよね)


「ぽぺぺ!(つぎ つぎー!)」


 ぽても元気よく跳ねる。

 ツムギはふとエリアスの事を思い出し、手をぽんっと打った。


「そうだ! せっかく王都の城下町にいるし、エリアスさんのところに行って、魔導通信が発動するか試してみようと思います」


「エリアス……証契士しょうけいしの?」


「はい! 前にハズレ召喚石の入ったペーパーウェイトをプレゼントしていて、魔導通信のことも手紙を出して伝えてはあるんですけど、まだ試せてなくて……もし成功したら、証契の塔と連絡が取れるようになるかもしれませんし!」


「よし、わしも行こう。そんな面白い現象を見られる機会、逃す手はないだろう。未発現魔導結晶の活性化なんて、実際に目にすることなど滅多にないからな!」


 バルド先生の目が、少年のように輝いている。


「ぽぺ!(いく いく!)」


 ぽても元気よく飛び跳ね、ツムギの肩の上でふわふわ揺れる。


「 そ、それじゃあ、みんなで行きましょう!」


 ツムギは思わぬ展開に戸惑いながらも、バルド先生の好奇心に押され、証契の塔へ向かうことになった。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

本日は夜(22時〜23時)にも更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ