074. ツムギの創術とバルドの物欲
3月17日2回目の投稿です。
「ツムギ、お前の作ったものが、これ以外にも変化したことはあるのか?」
「えっ、あ、そういえば——」
ツムギは少し考え込み、はっとしたように顔を上げる。
「ハルくんのポシェットと、私たちのマントどめです!」
「ほう……ポシェットとマントどめ、か?」
バルドは腕を組み、興味深そうにツムギを見つめる。
「それらも、修繕や加工の過程で変化したのか?」
「はい! ハルくんのポシェットは、もともと彼が大切にしていたものなんですが、修繕する途中で隠しポケットの中にお守りの石が入っていたことが分かって……」
ツムギは 風紡ポシェット のことを説明し始めた。
「ポシェット全体が『相結』の力を持つようになったんです。それで、風の魔法の加護を受けられるようになって、魔物に気づかれにくくなったり、歩くのが楽になったり……」
「魔物避けの効果まであるのか……!」
バルドの目が輝く。
「さらに、ハルくんと共に成長する可能性があるってガルスさんが言ってました。もしかしたら、今後もっと変化するかもしれません」
「成長する魔導具とは……まるで、使い手と共に進化する相棒のようなものか……」
バルドは腕を組みながら、思案するように唸る。
「ツムギ、お前の作ったものは、ただの修繕ではなく、その持ち主に最適化され、さらなる力を得ることがあるということか……面白いな」
「それと、もうひとつは——」
ツムギはそっと、自分の マントどめ を差し出した。
バルドは目を細めながら、ツムギの手元のマントどめを覗き込む。
「マントどめ、か? どんな変化があった?」
「ハルくんのマントどめと、ぽてのマントどめを偶然ぶつけたとき……通信機能が発動したんです!」
バルドの目が一気に見開かれる。
「……なに?」
「それから、何度か実験してみたんですが……ハズレ召喚石と呼んでいる石を私が創術で加工したアイテム同士を接触させると、新しい通信端末として覚醒するみたいなんです!」
バルドは驚愕の表情を浮かべ、ツムギの手元を凝視する。
「それじゃあ、実際にやってみますね。ぽて、先生に聞こえるように、何か言ってみて!」
「ぽぺぺ!(まかせろー!)」
ぽては得意げに、自分のマントどめにそっと触れた。ぽてのマントどめが淡く輝くとぽてはメッセージを吹き込んだ。
——《ぽぺぺー!(バルドせんせー! ぽてだよー!)》
——ぽぅっ。
ツムギのマントどめが淡く輝く。
ツムギはそっとマントどめに手を伸ばし、指先で触れる。
——《ぽぺぺー!(バルドせんせー! ぽてだよー!)》
ぽての声が、まるで録音されたかのように再生された。
「な、なにっ……!!?」
バルドの目が一気に輝く。
「お、おおお……これは……すごいではないか……!!」
バルドはまるで少年のように目を輝かせ、興奮した様子でマントどめを覗き込んだ。
「これは……魔導通信の仕組みと似ているが、普通はこんな簡単に作れるものではないぞ……!」
「ふふ、面白いですよね!」
「うむ……いや、これは面白いどころの話ではない……」
バルドは目を輝かせたまま、ぽてのマントどめとツムギのマントどめを交互に見つめ、思わず唸った。
「……これは、わしも試してみたくなるな……」
ツムギが驚いて顔を上げると、バルド先生は じっ…… とツムギのマントどめを見つめたまま、小さく咳払いをした。
「……ツムギ、ひとつ聞いてもいいか?」
「はい?」
「このマントどめ……その、わしにも作ることはできるのか?」
「えっ、バルド先生も欲しいんですか?」
ツムギが目を瞬かせると、バルドは ゴホンッ とわざとらしく咳払いをした後、少しそっぽを向いた。
「いや、その……別に、欲しいというわけではないが……便利そうではあるし……いや、まあ、あったら便利ではあるが……それに、わしには作れぬかも知れないが……」
「ぽぺ!(ほしいんだ!)」
ぽてがずばっと指摘すると、バルド先生は カハッ と咳をして、視線を泳がせた。
「……まぁ、その……」
バルド先生が ちらっ、ちらっ とマントどめを見ているのがあまりにも分かりやすくて、ツムギはつい笑ってしまった。
「バルド先生、通信機能がつくかは分かりませんが……ハズレ召喚石のアクセサリー、作りましょうか?」
バルド先生の目が かっっっ!! と見開かれる。
「……本当に、作ってくれるのか?」
「もちろん! バルド先生にも、魔導通信機を持って頂けたら連絡が取りやすくて助かりますし!」
バルドは一瞬言葉を失った後、 ガツンッ! と机を叩いた。
「ぜひ頼む!! いや、むしろぜひ欲しい!! もちろん対価は払うぞ!! お前の技術には、それだけの価値がある!!」
「ふふっ、そんなに喜んでもらえるなら、作りがいがあります!」
ツムギが笑うと、バルドは少し落ち着いたように咳払いをして、腕を組んだ。
「私が持って頂きたいので、お礼は要りません。でも……もしご迷惑でなければ、修繕の授業が終わっても、わからないことがあったら聞きに来てもいいですか?」
バルドは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにふっと優しい笑みを浮かべた。
「そんなこと迷惑なものか。わしはツムギが技術を継承してくれるだけで十分だ」
そして、少し言葉を選ぶように、ぽつりと続けた。
「……子供のいないわしにとって、ジンは弟子でありながら、まるで自分の子供のような存在だった。そうなれば、お前は……わしにとって孫のようなものだな」
ツムギの胸が、じんわりと温かくなる。
「……バルド先生」
「いつでも来ていい。毎週でも、毎日でも、わしは大歓迎だぞ。……もうあの弟子部屋はツムギ専用にするか。そうしよう。うむ、それがいいな……!」
バルドは腕を組み、まるで自分に言い聞かせるように何度か頷く。
「えっ、いいんですか!?」
ツムギが驚きつつも嬉しそうに笑うと、バルド先生は満足げに目を細めた。
「当然だ。あの部屋、長いこと使い手がいなかったしな。ようやく新しい持ち主ができて、あの部屋も喜んでいるだろう」
「ありがとうございます、バルド先生!」
ぽても嬉しそうに「ぽぺ!」と鳴き、バルドはその様子を微笑ましそうに見つめた。
今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。
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