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070. ガルスの授業開始!

3月15日2回目の投稿です

「ツムギー、そろそろ始めるぞー!」


 ガルスの声が工房に響くと、ツムギはすぐに魔導裁縫箱を抱えて作業台へ向かった。

ぽても「ぽぺぺ!(がんばる!)」とやる気満々についてくる。


 作業台の上にはすでにバルドが用意した万縫箱が置かれていた。

古びてはいるが、細かな装飾が施された重厚な金属製の箱。

 その隣にツムギが持ってきた魔導裁縫箱を並べると、二つの箱の違いが一目でわかる。


「ふむ、こうして並べると、随分と作りが違うな」


 バルドが腕を組みながら二つの箱を見比べる。

ツムギも興味津々に覗き込み、そっと魔導裁縫箱の表面をなぞった。


「確かに……万縫箱はすごく頑丈そうですね。魔導裁縫箱はどちらかというと繊細な作りで、持ち運びしやすい感じがします」


「そうだ。魔導裁縫箱は基本的に職人が手元で使うためのものだからな。だが、万縫箱は違う」


 バルドは万縫箱の表面を指でなぞりながら説明を続ける。


「万縫箱は、持ち主の魔力を感知し、自動で針と糸を調整する機能を持つ。簡単な縫製なら人の手を借りずとも可能だ」


「えっ、そんなことまで!? まるで魔法のミシンみたいですね!」


 ツムギは驚きながら万縫箱を覗き込む。


「そういうものだな。貴族や王族向けの特注品で、限られた職人しか扱えないほど高度な魔導具だ」


バルドは箱の側面を指さす。そこには、細かい魔法陣が刻まれていた。


「こいつは持ち主の魔力の流れに合わせて針を動かす仕組みになっている。しかし、それが長年の使用によって劣化し、今ではうまく機能していない」


「なるほど……」


 ツムギは万縫箱の表面をそっと触れた。


「じゃあ、魔導裁縫箱はどういう仕組みなんでしょうか?」


「それを確かめるのがお前の最初の課題だ」


 バルドが顎に手を当てながら、ツムギを見つめる。


「魔導裁縫箱も魔力を使うが、万縫箱のように自動で動くわけではない。あくまで職人の作業を補助する道具だ。内部の仕組みを理解し、修理に必要な技術を学ぶことが、万縫箱の修理にもつながる」


 ツムギはごくりと息をのんだ。


「つまり……まずは魔導裁縫箱の構造を調べるところから、ですね!」


「その通りだ」


バルドは満足げに頷き、工具を手に取った。


「さっそく分解してみるぞ」


「はい!」


 ぽても興味津々に箱の上で「ぽぺ!(おもしろそう!)」と揺れていた。


 ツムギは工具を手に取り、魔導裁縫箱の蓋を慎重に開ける。

 バルドも横で見守りながら、時折的確な指示を出してくれる。


「焦るなよ。こういうときは、部品の位置と状態をしっかり観察してから進めるんだ」


「はい!」


 ツムギは頷きながら、そっと蓋を持ち上げた。


 中には精密な魔導機構が組み込まれており、糸を送るための細かい歯車や、布を固定するための小さな魔法陣が刻まれたプレートが並んでいる。

 しかし、長年の使用によるものなのか、全体的に錆びつき、魔法陣の刻印も薄れている部分が多い。


「わぁ……やっぱりかなり古いですね。でも、構造はまだしっかりしてるみたいです」


 ツムギは慎重に部品を一つずつ確認しながら、分解を進める。

 魔導裁縫箱の内部を覗き込んでいるうちに、ツムギはあることに気づいた。


「……バルドさん、ちょっと見てください!」


「ん?」


 バルドがツムギの指差す部分を覗き込む。


「この魔法陣、万縫箱のものと似てます。でも、微妙に違う部分があるんです」


 ツムギは万縫箱の蓋を開け、二つを並べて比べてみる。

 確かに、魔力を流すための基本構造は似ているが、細部の設計が異なっていた。


「ほう……お前、よく気づいたな」


 バルドが感心したように頷く。


「万縫箱の魔法陣は、使用者の魔力を感知して、自動で最適な状態を作り出すようになっている。しかし、魔導裁縫箱の魔法陣は、それとは違う目的を持っているようだな」


 ツムギは考え込むように指で魔法陣をなぞった。


「もしかして、魔導裁縫箱の魔法陣は、あくまで『補助』に特化してるんじゃないでしょうか?」


「……ふむ、その通りかもしれん」


 バルドは顎に手を当て、しばらく考え込むような表情を浮かべる。


「つまり、万縫箱は完全に自動で縫製を行うための魔導具だが、魔導裁縫箱は職人の作業を助けるためのもの。使用者の技術に依存する部分が大きいわけだ」


「はい! だから、魔導裁縫箱の方が細かい調整がしやすくなってるんですね」


 ツムギは思わず興奮したように微笑む。


「ぽぺぺ!(ツムギ すごい!)」


 ぽてもツムギの肩の上で楽しげに揺れた。


 バルドは満足そうに頷くと、深く息をついた。


「よし、これで大まかな違いは掴めたな。次は、それぞれの修理方針を考えていくぞ」


「はい!」


 ツムギは目を輝かせながら、これからの修理に向けて気持ちを引き締めた。

 万縫箱と魔導裁縫箱、それぞれの特性と違いは何となく掴めた。

 では、どうやって修理を進めるべきか――。


「まず、魔導裁縫箱の方は、内部の魔導機構が錆びているので、部品の清掃と交換が必要ですね。魔法陣も一部かすれているから、描き直せば……」


 ツムギは考えをまとめながら、自分なりの修理計画を口にしていく。

 バルドは腕を組みながらじっと聞いていたが、ツムギが言い終わると、ふむ、と顎に手を当てた。


「ほう……では、お前の言う通り、魔法陣を描き直せば、それで済むのか?」


「えっ?」


 ツムギは一瞬考え込み、万縫箱と魔導裁縫箱の魔法陣を改めて見比べる。

 確かに、魔導裁縫箱の魔法陣は部分的にかすれている。しかし――


「……あ!」


 ツムギは気づいて目を見開いた。


「この魔法陣、ただ描き直すだけじゃダメだ……! 魔導回路全体のバランスが崩れてるから、一部分を修正しても、魔力が正常に流れない可能性が高い!」


「ふむ。気づくのが早いな」


 バルドが満足そうに頷く。


「魔導具の修理でよくあることだが、部分的な劣化を直すだけでは、本来の機能が復活しないことが多い。特に、古い魔導具ほど、全体の魔力の流れが微妙な均衡で保たれているからな」


「じゃあ……どうしたら?」


 ツムギが悩むように魔導裁縫箱を見つめると、バルドはにやりと笑った。


「答えはもう、お前の中にあるだろう?」


「……え?」


 ツムギは戸惑いながら、もう一度、魔導裁縫箱の内部をじっと観察する。

 慎重に魔法陣の刻み方をなぞり、回路のつながりを確認していると――


「あっ……! もしかして、魔力の流れを整え直す必要がある……?」


 バルドが小さく頷く。


「その通りだ。魔法陣をただ修復するだけでなく、魔力の流れを調整し、全体のバランスを整えなければならん」


 ツムギは息をのんだ。


「そうか……だから、魔法陣の修復より先に、内部の清掃や部品の点検が必要なんですね!」


「そういうことだ」


 バルドは満足そうに微笑む。


「まずは分解し、部品ごとに状態を確認する。それから、魔力がどのように流れているのかを見極め、適切な修復方法を考えるんだ」


 ツムギは深く頷き、すぐにノートを取り出してメモを取る修繕計画を整理し始めた。


「じゃあ、万縫箱も同じように……?」


「いや、それは違う」


 バルドがすかさず指摘する。ツムギはハッとしてバルドを見た。


「万縫箱は魔導裁縫箱とは根本的に構造が異なる。こいつは自動制御の機能を持っている分、修理には別のアプローチが必要だ」


「えっ、じゃあ、どうすれば……?」


 バルドは静かに万縫箱を撫で、じっくりと説明を始めた。


「万縫箱の場合、一番重要なのは、魔力制御機構の調整だ。この機構が劣化していると、どれだけ外側を修理しても正常には動かん」


「なるほど……つまり、万縫箱は制御系の魔導機構を重点的に修理するべきなんですね!」


「その通り。だから、お前にはまず、魔力制御機構の仕組みを理解してもらう必要がある」


 ツムギは興奮しながら、大きく頷いた。


「ぽぺぺ!(ツムギ すごい!)」


 ぽてもツムギの肩の上で嬉しそうに跳ねる。


 バルドは静かに微笑むと、万縫箱と魔導裁縫箱を並べて、改めて修理の流れを整理した。


「まとめるぞ。魔導裁縫箱は、まず分解・清掃・部品点検を行い、魔力の流れを再調整する。その後、魔法陣の修復に入る」


「はい!」


「万縫箱は、まず魔力制御機構を確認し、調整する必要がある。これを誤ると、修理してもまともに動かん」


「……わかりました!」


 ツムギは力強く頷く。バルドはそんなツムギの様子を見て、満足げに微笑んだ。


「よし、それじゃあ――修理に取り掛かるぞ」


「はい!!」


 こうして、ツムギとバルドの修理作業が本格的に始まった。彼女にとって、この作業はただの修理ではなく、新たな技術を学ぶ大きな一歩。

 修理の先にある、より良いものづくりへの道を目指し、ツムギは期待に胸を膨らませていた。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日はお昼(12時〜13時)と夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです

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