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066. スライムゼリーと家族団欒

3月13日2回目の投稿です

 魔導列車に乗ると、夕暮れの光が窓から差し込み、車内を淡く染めていた。


「ぽぺぇ……(ねむい……)」


 ぽてはツムギのポシェットに入れてきたクッションの上でくたりと丸まり、目を細めている。


「私も、ちょっと疲れたかも……でも、すごく充実した一日だったなぁ」


 窓の外を眺めながら、小さく呟く。

 バルドとの出会い、エリアスとの再会、透輝液の広がり……思い返せば、今日もいろんなことがあった。

 列車の揺れが心地よく、ぽてと一緒に少しうとうとしかけたころ——目的の駅に到着するアナウンスが流れた。

 ツムギは軽く伸びをして、ぽてをそっとなでながら降車する。


 家の近くまで戻ると、窓から漏れる温かな光が見えた。


「ただいまー!」


 ツムギは扉を開けながら元気よく声を上げた。

 その声に気づいたノアが、キッチンからひょっこり顔を出す。


「おかえり、ツムギ! 今日は遅かったわね」


「ちょっと職人ギルドで色々あって……!」


 ツムギがにっこり笑いながら玄関に入ると、ノアは優しく微笑んで「ごはん、できてるわよ」と声をかける。


「わぁ! すぐ手を洗ってくる!」


 ツムギは勢いよく立ち上がると、ぽてもぴょんとついてきて、一緒に手を洗いに向かった。

洗い終えて戻ると、すでにテーブルには温かい料理が並べられていた。


「はいはい、お待たせ〜。今日はね、ちょっと新しい料理に挑戦してみたの」


 ノアが運んできたのは、透明なゼリーの中にエビやタコ、キュウリやトマトが彩りよく散りばめられた一品。


「……スライムのゼリー寄せ?」


 ツムギは思わずジンと顔を見合わせる。


「スライム……」


「うっ……」


 スライムを食べると聞くと一瞬身構えてしまうが、見た目はとても美しい。

 前世の記憶が蘇る——これは、まるでコンソメゼリー。


 ノアは笑いながらスプーンを渡してくれた。


「そんな顔しないの! ほら、一口食べてみて」


 ツムギは恐る恐るスプーンですくい、口に運ぶ。


「……んっ!? おいしい!」


 ゼリーのぷるんとした舌触りのあと、口の中に広がるのは、しっかりとした出汁の旨味。

 海鮮の風味がスライムのゼリーとよく馴染んでいて、すっきりした酸味があとを引く。


「ね? スライムっていっても、しっかりした加工をすれば食材になるんだから」


 ノアが得意げに微笑む。


 ジンも慎重に一口食べ——「……うん、これはうまいな」としみじみ頷いた。


「ぽぺっ! (ぽても たべる!)」


 ぽても嬉しそうに跳ねながら、ツムギの皿を覗き込む。

 ノアがぽて用の小皿に取り分けると、ぽては「ぽぺぺ!」と嬉しそうに揺れて食べ始めた。


「ぽぺぺ!(おかわり!)」


「ふふっ、ぽても気に入ったんだね」


 ノアが微笑みながらぽてに追加のゼリー寄せをよそってあげる。


 他にも、香ばしく焼かれたホーンラビットのステーキや、季節の野菜のグリルが食卓を彩る。

 どれも噛むほどに旨味が広がり、ツムギは夢中になって食べた。


「おいしいね!」


「うん、ノアの料理はいつも最高だな」


 ジンも満足そうに頷きながら、ステーキを頬張る。


 しっかり食べたあとは、ノアが準備していた食後のデザート——ふんわりしたシフォンケーキに甘いフルーツソースがかかったものをいただく。


 ツムギは一口食べると、ふわっと幸せな気持ちになりながら、ふと思い出したように口を開いた。


「あのね……今日、職人ギルドに行って、仲間探しをしに行ったじゃない?」


 ツムギはスプーンを置き、ぽてを膝に乗せながら話し始めた。ジンとノアも食後のお茶を飲みながら、ツムギの話に耳を傾ける。


「それで、職人さんのリストを見せてもらったんだけど……すごい人ばっかりで、どう選べばいいのかわからなくて」


「まぁ、腕のいい職人は山ほどいるからな」


 ジンが頷く。


「でも、文字だけじゃ判断がつかなくて……やっぱり会ってみないとわからないなぁって思ったんだ」


「そうねぇ、どんな人かは直接会わないとわからないものね」


 ノアが優しく微笑む。


「それで、そのあと職業ギルドの依頼リストを見たんだけど……」


 ツムギは少し言いにくそうに視線を落としたあと、顔を上げて意を決したように言った。


「思わず受けちゃった依頼があるんだ……!」


「ほう?」


 ジンが興味深げに片眉を上げる。


「魔導具の修繕を一緒にやるお手伝いの依頼で……それが、バルドさんの工房だったの!」


 ツムギがそう言った瞬間、ジンが驚いたように目を見開いた。


「バルドさんの?」


「うん! 依頼には名前が書いてなかったけど、行ってみたらバルド・ガリウスさんっていう職人さんで……!」


「なるほど……」


ジンは驚きつつも、どこか納得したような表情を浮かべる。


「お父さん、バルドさんのこと知ってるんでしょ?生徒だったって聞いたよ」


「そうだぞ。生徒というよりは弟子に近い関係だがな……」


ツムギは思わず身を乗り出した。


「そうだったの!? そんな話はしてなかったよ!」


「まぁ、昔の話だからな。」


 ジンは懐かしそうに天井を見上げる。


「厳しいけど、すごく面倒見のいい人でな。俺も色々鍛えられたよ。それで、バルドさんの依頼っていうのは?」


ジンの問いに、ツムギは改めて話を続けた。


「バルドさんの工房で、万縫箱の修繕を手伝うの。でね……!」


 ツムギは嬉しそうに、バルドとのやり取りを語った。


「バルドさんの依頼は、万縫箱まんぬいばこ っていう魔導具の修繕なんだけど、ただ直すだけじゃなくて、技術を学びながら作業ができるの! それにね、私が持ってる 魔導裁縫箱まどうさいほうばこ も、一緒に修繕することになったんだよ!」


 ツムギは興奮気味に言葉を続ける。


「バルドさんって、すごく職人気質な人なんだけど、説明がすごく丁寧で、ちゃんと技術を教えてくれようとしてるの。それで、しっかり学ぶために、週末は工房に泊まり込みで授業を受けることになってね、工房の二階に弟子部屋があるから、そこを自由に使っていいって言われたんだ!」


 ツムギが一気に話し終えると、ノアとジンは少し驚いたように顔を見合わせた。


「……泊まり込み、か」


 ジンが腕を組みながら唸る。


「そう。初めてだからちょっと緊張するけど、すっごく楽しみ!」


「ツムギがそんなに楽しみにしてるなら、きっといい経験になるわね」


ノアが優しく微笑む。


「でも、親元を離れて城下町で泊まるのは初めてだろ? ちゃんとやっていけるか?」


「うん! ちゃんとやるよ!」


 ツムギは元気よく頷く。


「バルドさんは厳しいけど、いい人だ。俺もお前くらいの年の頃、一年くらいあの弟子部屋で暮らしてたんだ」


ジンは懐かしそうに笑った。


「……お父さんも?」


「そうだ。最初は慣れなかったが、すぐに馴染んだよ。あの工房は、真面目に学ぼうとする者には最高の環境だからな」


「へぇ……!」


ツムギは想像するように目を輝かせた。


(お父さんも、あそこで学んでたんだ……!)


「……でも、少し寂しくなるわね」


 ノアがふと、ぽつりと呟く。


 ツムギは、はっと母の顔を見た。ノアはいつも穏やかで、おおらかだけど、ツムギが家を離れることを考えたら、やっぱり少し寂しく感じているのかもしれない。


「……お母さん」


 ツムギがそう言うと、ノアはふわりと笑って首を振った。


「大丈夫よ。ツムギが楽しく学んでくれるのが、一番だから」


「……ありがとう、お母さん」


 ツムギも微笑んで、ぽてをぎゅっと抱きしめる。


「ぽぺ!(ツムギ、がんばる!)」


 ぽても元気いっぱいにツムギの肩で跳ねた。

 ジンは少し考え込んだあと、「まぁ、心配するほどのことでもないか」と呟く。


「バルドさんの工房なら安心だ。ツムギ、お前はしっかり学んでこい」


「うん!」


 ツムギは力強く頷いた。


 ノアはくすっと笑いながら、「じゃあ、お泊まりの準備もしないとね」と楽しそうに言う。


 家族に応援してもらえて、ツムギの胸にはますます期待が膨らんでいく。


(週末から、バルドさんの工房で学ぶんだ……!)


 どんな修繕が待っているのか。万縫箱と魔導裁縫箱は、本当に直せるのか。

考えるだけで、ワクワクが止まらない。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日はお昼(12時〜13時)と夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。


改稿は7話まで進みました。自分でも笑ってしまうほど、支離滅裂な文章が多く、終わりのない戦いに挑んでしまったような気持ちで震えてます(泣


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