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064. ツムギの弟子入り

3月12日2回目の投稿です。

 バルドは椅子に座ると、ツムギに向かって静かに問いかけた。


「さて、お前さん。本当にこの依頼を受ける気はあるか?」


 ツムギは迷いなく頷く。


「はい! ぜひやらせてください!」


 バルドはその返事を聞くと、机の上から一枚の依頼受注書を取り出した。それはギルドで渡される正式な契約書だ。


「わしが求めるのは、ただの手伝いではない。修理の技術を学ぶことを前提とした協力者だ。つまり、修繕を手伝うだけでなく、お前自身も技術を身につけることが求められる」


 ツムギは息をのんだ。


「……学べるなら、むしろ嬉しいです!」


「ふむ、それなら問題ない。だが、一つ確認しておくぞ。

修繕というのは、ただ元通りにすればいいものではない。使い手に合わせて、より良いものへと仕上げることこそが、本当の修繕だ。

この工房で修理する魔導具は、普通の工房での修繕より、難しく厳しい。まだお前の技術では難しく、苦労することも多いだろう。それを理解した上で、わしと共にやれるか?」


 ツムギは一度深呼吸をして、しっかりとバルドの目を見つめた。


「……はい! やります!」


 バルドは満足げに頷くと、依頼受注書に手をかざした。次の瞬間、指先から薄い光が流れ、契約の証となる魔法印が押される。


「これで正式な契約だ。帰りに職人ギルドへ寄って、依頼受注書を提出しておけ」


「はい!」


 ツムギはしっかりと契約書を受け取ると、気合いを入れるように拳を握る。


 バルドは静かに頷き、工房の奥の棚から古びた箱を取り出した。


「はじめの授業では、これを直す」


 机に置かれたのは、ツムギが見たことのない、重厚な金属製の箱だった。


「……これは?」


万縫箱まんぬいばこ。高度な魔導技術を用いた裁縫箱で、主に貴族や王族向けの特注品だ」


 バルドが蓋を開けると、中には複数の仕切りがあり、それぞれの小さな部屋に細かい魔法陣が刻まれていた。


「この箱は、持ち主の魔力に合わせて、針と糸を最適な状態に調整する機能を持つ。糸の種類や布の特性を自動で認識し、使用者が意識せずとも最適な裁縫ができるようになっている」


 ツムギは目を輝かせながら、箱の細部を覗き込んだ。


「すごい……こんな仕組みがあるなんて!」


「しかし、長年使われていたせいで、魔導回路が劣化し、今は機能しなくなっている」


 バルドは指で箱の表面をなぞると、小さな歯車がわずかに動いた。しかし、すぐにカチリと音を立てて止まってしまう。


「この状態では、ただの箱に過ぎん」


 ツムギは考え込むように万縫箱を見つめる。そして、ふと思い出したようにバルドに向き直った。


「……実は、私も似たような魔導具を持っているんです!

バザールで見つけたんですけど……**魔導裁縫箱まどうさいほうばこ**っていう、万縫箱と似た機能を持つ道具なんです。でも、こっちは完全に錆びていて、どう直したらいいのか分からなくて……」


「なるほどな」


 バルドは顎に手を当て、しばらく思案するように考え込んだ。


「よし、こうしよう」


 バルドはツムギを見据え、はっきりと告げる。


「お前の魔導裁縫箱と、この万縫箱――両方を直す」


「えっ、二つ同時に!?」


「そうだ。どちらも裁縫に特化した魔導具だが、構造や機能に違いがある。その違いを学びながら直すことで、より深く魔導具の仕組みを理解できる」


 ツムギは驚いたが、次第にその提案にわくわくしてくる。


(確かに……! ただ直すだけじゃなくて、二つを比較しながら学べたら、もっと応用が利くようになるかもしれない!)


「ぽぺぺ!(おもしろい!)」


 ぽても興奮したように飛び跳ねる。


「やります! ぜひ、一緒に二つとも直したいです!」


 ツムギが力強く答えると、バルドは満足そうに笑った。


「よし、決まりだな。まずは、予定を決めなければいけないな。」


 バルドは少し考え込んだあと、ゆっくりと口を開いた。


「どうだ、週に二回、泊まり込みで来るのは?」


「泊まり込み!?」


 ツムギは思わず目を見開く。バルドは続ける。


「工房の二階には、昔の弟子たちが使っていた部屋がある。今は空いているから、授業の日じゃなくても自由に使っていい。泊まり込みなら、まとまった時間で作業ができるし、じっくりと学べる」


「それって……つまり、弟子部屋を使わせてもらえるってことですか?」


「そういうことだ。もちろん、合わなければ無理に泊まる必要はないがな」


 バルドが言い終わる前に、ツムギは即答した。


「やります! 泊まります!」


「ぽぺぇ……(はやっ……)」


 ぽてが肩の上でじとっとした視線を向ける。


(え、……ジンとノアに相談しなくていいの?)


 バルドは、そんなぽての反応を見て、ふむ、と目を細めた。


「……やはり、こやつはただの魔導具ではないな。反応が、まるで人のようだ」


 ぽてがふわっと膨らみ、「ぽぺ!(ツムギ かってすぎ!)」と小さく抗議する。


「ぽ、ぽてぇ!? そんなこと言わなくてもいいじゃん!」


 バルドはますます興味深げにぽてを見つめた。

 ぽてがプルプルと震えながらツムギの肩でぴょんと跳ねると、バルドは腕を組み、目を細めた。


「……なるほど。『生きている』とはこういうことか」


 バルドは顎に手を当て、しばらく考え込むような表情をしたが、やがて小さく笑った。


「まあ、こやつの謎は追々考えるとしよう。それより、次回の授業の日を決めておこう。どうだ、週末にするか?」


「はい! 週末なら予定も合わせやすいです!」


「よし、決まりだな。授業の日に、お前の魔導裁縫箱を持ってこい。まずは状態を確認して、修理の方法を考える」


「わかりました! じゃあ、次の授業の日に持ってきます!」


 こうして、初回の修理の日が決定した。


「それじゃあ、今日はこの辺にしておこう。帰りに職人ギルドへ寄って、依頼受注書を提出しておけよ」


 ツムギは満面の笑みで頷くと、バルドにお辞儀をして工房を後にした。


(週末から泊まり込みで修理の勉強……すっごく楽しみ!)


 そんなツムギの期待をよそに、ぽては「ぽぺ……(ジンとノアになんて言うんだろ……)」とちょっぴり心配しながらも、結局「まぁ、ツムギだし、なんとかなるかな」と楽観的に考えるのだった。


「さて、職人ギルドに行かないと!」


 ツムギは意気揚々と職人ギルドへ向かい、依頼受注書を提出するために歩き出した。


今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日はお昼(12時〜13時)と夜(22時〜23時)に更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。

ツムギの世界図鑑(この物語の設定を書いている小説です)の中の「アイテム図鑑」に万縫箱を更新しました


文章の改稿、やっと5話まで終わりました。

長い戦いになりそうです……

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