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063. バルドと古き魔道具

3月12日1回目の投稿です。

 ぽてがツムギの肩で小さく揺れながら、シートを覗き込む。

 ツムギは、じっとその文字を追った。


――依頼名:「古き魔導具の修繕を共に」


依頼内容:

長年、魔導具の修繕を行ってきましたが、最近は細かな作業が難しくなり、一緒に修理をしてくれる方を探しています。

技術を学びながら手を貸してくれる方、大歓迎。


募集条件:

・魔導具の扱いに興味がある方

・細かい作業が好きな方

・学びながらでもいいので、修理を一緒にやってくれる方


報酬:

修理の成功ごとに報酬支給。技術指導あり。


 ツムギは思わず、ぐっとシートを握りしめた。


(魔導具の修繕……!)


 頭に浮かんだのは、バザールで手に入れた、錆びついた魔導裁縫箱だった。

 あれを直す手がかりがつかめるかもしれない。


「ぽぺぺ!(これ いい!)」


 ぽてもシートを指さし、興奮したように跳ねる。


「うん、なんだかすごく気になる……!」


 偶然目に入っただけの依頼なのに、なぜか引き寄せられるような感覚がした。


「すみません! この依頼、まだ受けられますか?」


 勢いよくカウンターの職員に尋ねると、職員は少し驚いたようにツムギを見て、すぐににこりと微笑んだ。


「はい、まだ募集中ですよ。依頼主は古くから魔導具の修繕をしている職人さんです。興味があるなら、詳しい話を聞いてみますか?」


 ツムギは力強く頷いた。


「はい! ぜひお願いします!」


「ぽぺ……?」


 ぽてがツムギの肩の上で小さく首をかしげた。


(ん? なんか……何か大事なこと忘れてない?)


 ぽてはツムギが握りしめる依頼シートと、まだカウンターの上に置かれたままの「職人紹介シートの束」を交互に見つめる。


「ぽぺ……ぽぺぺ……(えっと、ツムギ? もしかして これって……あの……)」


 ツムギは目を輝かせながら、すでに新しい依頼へと心が向いている。


「ぽぺ……(職人探し どこいった……)」


 はぁ……と、ぽては小さくため息をついた。肩の上でふわっと膨らんだあと、しゅんとしぼんだ。


(うん……まあ、そうなると思った……)


「ぽぺぺ。(ツムギ いつもの暴走……)」


 ぽてはもう何も言わず、ツムギが目を輝かせながらカウンターの職員と話し込む様子を、静かに見守ることにした。


 本来の目的である 「職人探し」 はすっかり頭から抜け落ち、興味のある方へ一直線に突っ走っていくツムギ。

 結局、仕事を減らしに来たはずが、増やしてしまうのだから困ったものだ。


(……はぁ。やっぱり、こうなると思った)


 ぽてはツムギに気づかれぬよう、そっと小さくため息をついた。


 ツムギは職人ギルドを出ると、手元の依頼書を改めて確認した。


受注指定先――バルド・ガリウスの工房。


 城下町のメイン通りを抜け、古くからの職人たちが工房を構える一角へ向かう。

 活気のある通りから少し外れると、周囲は落ち着いた雰囲気になり、レンガ造りの建物や石畳の道が歴史を感じさせる。


 ぽてが肩の上で小さく呟く。


「ぽぺぺ……しずかー」


「うん、このあたりは昔から続く職人さんたちの工房が多いみたい」


 ツムギは依頼書を見ながら、バルドの工房の目印を探した。そして、しばらく歩くと、古びた木製の看板が目に入る。


ガリウス魔導工房


「ここだ……!」


 門の前に立ち、ツムギは深呼吸をして扉をノックする。

 しばらくすると、ギィ……と重々しい音を立てて扉が開いた。


 現れたのは、銀髪混じりの灰色の髪を後ろで束ね、分厚い眼鏡をかけた老人――バルド・ガリウス。


「……なんだ、お前さん。依頼を見て来たのか?」


 低く落ち着いた声が響く。


「あ、えっと! はじめまして、ツムギといいます! ギルドの依頼を見て、お手伝いできたらと思って!」


 ツムギは明るく挨拶する。

 バルドは腕を組み、じっとツムギを観察した後、短く頷く。


「ふむ、話は中で聞こう」


 彼は扉を大きく開き、ツムギを招き入れた。


 工房の中は、年季の入った魔導具や修理道具で溢れていた。

 大きな作業机の上には分解された魔導具の部品が整然と並べられ、壁には古い設計図が所狭しと貼られている。


 ツムギは、思わず目を輝かせた。


「お嬢さん、工房を見てそんなに目を輝かせるとは……なかなか筋がいいな」


 バルドは小さく笑いながら、椅子を勧める。

 ツムギが腰を下ろすと、彼はゆっくりと口を開いた。


「さて、依頼の内容は読んできたか?」


「はい! 魔導具の修繕を一緒にやるお手伝いですよね?」


「そうだ。わしは長年、魔導具の修繕をやってきたが、最近はどうにも細かい作業が辛くなってな。技術を継承しつつ、手伝ってくれる者を探していたのだ」


「技術を継承……!」


 ツムギは思わず前のめりになる。


「おぉ、興味があるのか?」


「はい! ものづくりが大好きで、今も創術屋そうじゅつやとして色んなものを作ってるんです!」


「創術屋、か……なるほどな」


バルドは満足そうに頷いたが――ふと、ツムギの肩の上でじっとしていたぽてを見つめた。


「……ところで、そちらのぬいぐるみみたいなものは?」


 ぽては首をかしげる。


「えっ、ぽてです! 私の相棒で……」


「わしの目は節穴ではないぞ。こやつ、普通の魔導具とは違う」


 バルドの言葉に、ツムギは驚いたようにぽてを見つめた。

 バルドはぽてを手招きし、手のひらの上に乗せる。


「ふむ……普通の魔導具は、定期的に魔力を補充しなければ動き続けることはできん。

 しかし、こやつは違う……まるで生き物のように自然に魔力を吸収しておるように見える」


 バルドはぶつぶつと話しながら眼鏡を上げ、ぽてをじっくり観察する。


「食事は?」


「えっ、普通に食べますよ!」


「排泄は?」


「しないです! だから、どこに行ってるのかわからなくて……」


「ぽぺぺ! (おいしく たべる!)」


「ふむ……魔力を直接吸収する仕組みを持っている可能性があるな」


 バルドはますます興味深そうにぽてを見つめる。


「最近、お前が考えていることがわかることは?」


「えっ、なんで分かったんですか!? ぽて、私の気持ちを察して動くことが増えてるんです!」


「ぽぺ! (ツムギの きもち わかる!)」


 バルドは唸るように腕を組んだ。


「テレパシーの素養を持つ魔導具……いや、これはもう生きている存在だな」


 バルドが真剣な表情でぽてを観察していると、ふと思い出したようにツムギへ視線を戻した。


「お前さん、どこの工房に所属しておる?」


「あ、えっと……お父さんの工房で仕事をしています! 工房の名前は継ぎつぎやで――」


「継ぎ屋? ……お前、まさかジンの娘か!?」


 バルドの眼鏡がズレるほどの驚きように、ツムギもびっくりする。


「えっ!? お父さんのこと、知ってるんですか!?」


「知っとるも何も、ジンはわしが学院で教師をしていたころの生徒じゃった!」


「えええええっ!?」


 ツムギは目を見開いた。


「アイツは考える前に手を動かすタイプでな……お前も似たようなもんじゃろ?」


 ツムギは少し考え――「はい!」と笑った。


 バルドは一拍置いた後、豪快に笑った。


「はっはっは! まさか、ジンの娘がわしの技術を継ぐことになるかもしれんとはな!」


 バルドは満足げに頷くと、改めてぽてをじっと見つめた。


「……なるほど。ジンの娘なら、面白いものを作るのだろうとは思っていたが、まさかここまで異質とはのう」


「ぽてが……異質?」


 ツムギは不思議そうにぽてを見つめた。

 ぽては「ぽぺ?」と小首をかしげ、バルドの手のひらの上でふわりと揺れる。


「普通の魔導具や魔法生物は、魔力を補給するために属性発光器を使ったり、魔導回路を定期的に調整する必要がある。しかし、こやつはそういった補給なしで動いておる」


 バルドは眼鏡を上げ、ぽてをつまんで軽く持ち上げる。


「ぽぺっ!(はなせー!)」


「魔導具ならば、一定量の魔力を溜めれば活動時間に制限が出る。しかし、お前はそうではないな?」


 ぽてはぷるぷると震えながら、じたばたと手足(?)を動かし、ツムギの肩にぴょんっと飛び乗った。

 バルドは興味深そうに眼鏡を押し上げる。


「ふむ……瞬間的な動きも、魔導具の自動補助とは異なる。完全に『意志』によって動いているな」


 ぽては得意げに「ぽぺ!」と鳴いた。


「それに、食事はするのに、排泄はないのだろう?」


「はい。どこに行ってるのか、いまだに謎で……」


「ぽぺっ!(おいしく たべる!)」


「ふむ……魔力そのものを取り込む性質があるのか。食物から魔力を抽出し、余分な物質を自動的に消しているのかもしれん」


 バルドは目を輝かせながら、ツムギの方へ向き直った。


「お前、ぽてがどうやって生まれたか、正確に説明できるか?」


「えっ、それは……」


 ツムギはぽてを見つめながら、昔の記憶を辿る。


「……もともとは、私が子供の頃に作ったぬいぐるみなんです。でも、気づいたら動くようになっていて……」


「そのぬいぐるみに、特別な魔力を込めた記憶は?」


「いえ、そんなことはしてなくて……ただ、大切にしてただけで……」


 バルドは頷きながら、ぽてを興味深そうに観察する。


「なるほど。ならば、長い時間をかけて、お前の魔力と想いが宿ったのかもしれんな」


「ぽぺ!(ツムギと いっしょ!)」


 ツムギはぽての頭をそっと撫でる。


「……そうかもしれません。ずっと一緒にいたから、私のことも、私の気持ちも分かるようになってきてるんです」


「ほう……それは実に興味深い」


 バルドはしばらく腕を組み、思案するように唸る。


「こやつは、ただの魔導具ではなく、本当に『生きた存在』なのかもしれんのう……」


 彼はツムギとぽてを見つめ、深く頷いた。

 ツムギは思わず笑い、ぽては得意げに「ぽぺっ!」と鳴いた。


 バルドの目がさらに輝く。


「よし、お前にはますます興味が湧いてきた。せっかくジンの娘が来たのだ、わしの技術、しっかり学んでいくがいい!」


 ツムギは驚きつつも、わくわくする気持ちを抑えられなかった。

 お父さんの師匠だったバルドに、魔導具修理の技術を学べるなんて――こんな機会、めったにない。


「よろしくお願いします!」


 ツムギは嬉しそうに頭を下げた。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

本日は、夜(22時〜23時)にもう一度更新予定です。 また遊びに来てもらえたら嬉しいです。


昨日から第一話から順に改稿を始めたのですが、まだ1ヶ月も経っていないのに、初期の文章の拙さに思わず顔が赤くなってしまいました。それでも文句ひとつ言わず読んでくださった皆さまには、感謝の気持ちでいっぱいです……!

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