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060. リナの忠告とエリアスの慧眼

3月10日3回目の投稿です

リナは表情を引き締め、帳簿を軽く指で叩いた。


「最近、似たような商品がちらほら出回り始めとるみたいやねん。」


ツムギの表情がぴくりと動いた。


「えっ、それって……?」


「まぁ、どこにでもある話やけどな。人気が出たら、それを真似しようとする人も出てくるもんや。」


リナはそう言って、指を軽く振る。


「今のとこ、完全な模倣品ってわけやないけど、アタッチメント式のアクセサリーを扱う店がちょっとずつ増えてるみたいやねん。ちゃんと商標登録に則って、使用料を払ってるところがほとんどやからいいけどな。」


確かに、POTENの技術を使って商品を作るなら、登録した技術使用料を支払うのがルールだ。それなら問題はない。


イリアが冷静に頷いた。


「今のところ、大きな問題は起きていないからいいけれど……模倣品の中に粗悪なものが混じっていたら、それがPOTENの商品と間違われる可能性もあるわ。」


「せやねん。せやから、今のうちにちゃんと手を打っといた方がええと思うんよ。エリアスに相談してみるのがええかもな。」


「エリアスさんに?」


「うん。証契士として、こういう商標の管理は専門分野やろ? どこまでが許容範囲で、どこからがアウトなんかをちゃんと整理して聞いといた方がええんちゃう?」


確かに粗悪品が増え、何か事故など起こってしまったら大変な事になってしまう。暫くそんな事を考え込んだ後、こくりと頷いた。


その後は和やかな会話が続き、透輝液を作る際に粘度を間違えてベタベタの液が髪に絡まり、大惨事になった話や、ぽてがポシェットの修理を「手伝おう」として余計に糸を絡ませ、ツムギがほどくのに苦労した話などをすると、リナはお腹を抱えて大笑いした。


「いや〜ツムギちゃんと話すん、おもろすぎるわ! ぽてちゃん、かわいい顔してとんでもないことしよるな!」


「ぽ、ぽぺぺ……(あれはわざとちゃうもん……)」


ぽてはむくれたようにツムギの肩の上でぷるぷる震える。


ツムギが「うぅ……ほんとに大変だったんだよ……」と肩を落とすと、リナは「ほんま、無理しすぎんようにな?」とにこにこしながら言った。


イリアもそんなツムギを見て、穏やかに微笑みながら釘を刺すように言う。


「あなたの作るものには価値があるのだから、しっかり自分のペースを考えなさい。」


ツムギは少し照れながらも、「ありがとう。二人とも、いつも助けてくれて本当に感謝してる」と、深々と頭を下げた。


「お礼を言うのはこっちの方やで!」リナは軽く手を振りながら、「ほな、今度は工房を覗かせてもらうからな!」と、期待を込めた笑顔を向ける。

イリアも微笑み、ツムギの背中をそっと押した。「今日はしっかり休んで、また良いものを作るのよ。」


二人に見送られながら、ツムギは「ありがとう、またね!」と手を振り、お店を後にした。

店の扉が閉まると、ツムギは深く息をつき、次の目的地へと歩き出した。


(さて、魔導郵便局に寄って、エリアスさんに手紙を書かなくちゃ。)


模倣品の件を相談するため、ツムギはまっすぐ魔導郵便局へと向かう。郵便局の中は、賑やかに手紙をやり取りする人々で活気づいていた。


受付で便箋をもらい、カウンターに腰掛けると、ツムギは早速ペンを手に取る。


***


エリアスさんへ


最近、POTENのアタッチメントや透輝液のパーツに似た商品が市場に出回り始めています。現状、登録に従って使用料を支払っているところが多いですが、粗悪な模倣品が出回る可能性も考えられます。

この件について、どのように対処すればいいか、ご意見を伺いたくお手紙を書きました。お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認いただけますでしょうか?


ツムギ


***


書き終えると、封筒に手紙を入れ、受付へと持っていく。郵便局員が頷き、手際よく手紙を預かってくれた。これでもう一安心だ。


ツムギはほっと息をつきながら、魔導列車に乗り込む。窓の外には、夕陽がゆっくりと傾き、空が茜色から紫へと溶け合うように染まっていた。街並みがオレンジ色の光に照らされ、道端のランプがひとつ、またひとつと灯り始める。


ほのかに香るパン屋の焼きたての匂いに、ふとお腹が鳴った。そういえば、今日はずっと忙しくて、まともに食事を取っていなかったかもしれない。


ぽてはツムギの肩の上でくたりと丸まり、「ぽぺぇ……(ねむい……)」と小さく呟いた。ツムギも心地よい揺れに目を細めながら、家に帰ったら温かいご飯を食べよう、と思いながら家路についた。


翌朝。ツムギが工房の扉を開けると、入口の郵便受けに一通の封筒が届いていた。


「ん? 手紙……?」


手に取ってみると、しっかりとした紙質の封筒に、見慣れた筆跡が記されていた。


エリアス・ヴァンデール


「えっ!? もう返事がきたの!?」


確か手紙は昨日書いたはずだ。速達にしたとはいえ、そんなに早く届くはずはない…

ツムギは驚きの声を上げ、工房の中に飛び込むように入ると、作業台の椅子に座り、急いで封を切った。


***


ツムギへ


件の模倣品についてはすでに把握している。

不正なものが出回らぬよう、すでに適切な措置を講じてあるため、心配はいらない。

詳細については必要であれば後日説明するが、今のところ問題はない。

安心して、自分のものづくりに専念するといい。


エリアス・ヴァンデール


***


ツムギは、文面を読み終えた後も、しばらく手紙を持ったまま呆然とした。


「……えっ? もう対応済み?」


ぽてがツムギの肩の上で「ぽぺ……?」と小さく首をかしげる。

まるでエリアスは、ツムギが手紙を書くことを見越していたかのような速さだった。

いや、それどころか――最初から何も言わずに動いていたのだろう。


「……さすが、できる男……」


ツムギは、手紙を持ったまま呆然としつつ、小さく息を吐いた。

何もかもが普通と違う。

いつも静かに、けれど誰よりも早く問題を処理し、ツムギが動く前に道を整えてくれる。


(エリアスさんって、やっぱりすごい人なんだな……。)


改めてその仕事ぶりに感心しながらも、ツムギはほっと胸をなでおろした。


「ぽてぃ!(よかった!)」


ぽても嬉しそうにぴょんっと跳ねる。

ツムギは小さく笑いながら、エリアスの迅速な対応に心からの感謝を込めて、そっと手紙をしまった。

そして、気持ちを切り替え、作業台へとむかった。

明日も10時までと22時までの2回投稿予定です

ツムギの世界図鑑(この物語の設定を書いている小説です)の中の「キャラクター図鑑」にリナを追記、新しくPOTEN図鑑も追加しました。


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